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地下世界 Part 3
階段を下りきる頃にはすでに汗だくになっていた。不快な熱気と体力の衰え、それに加え冷や汗。それは眼前にはまた同じようなプラットホームが広がっていたからだ。しかし今度はどちらの車線にも電車は止まっていなかった。例の黒塗りは依然上階と同じだった。俺は何か嫌な予感がした。大西洋のど真ん中に結婚指輪を落としてしまったような取り返しのつかない気分。俺は息を切らせながら、歩き始めた。デジャブのような既視感、迫り来ては消えていく鉄製の支柱がまる大木のように見えた。パンの欠片でも落として行きたくなる。
そしてようやくプラットホームを突っ切る事ができたが、もう暑さは感じなかった。それはまた、地下への階段が顔を覗かせたからだ。地下から風が吹いてくるのを全身で感じる。先ほどのセンチメンタルな風ではない。なにかどす黒い風が俺を誘っている。それでも俺は降りていくしかない。