07
本日2話目です。
主人公気絶により、幼馴染み中心となります。
火野玲は、ちょっと特殊な女子高生である。とある事情で日曜の朝にテレビでやっているようなモノをやらされる羽目になっている。最初は特に気にしていなかったのだが、流石に三年も続くとなるとアニメ時空が羨ましくなってくる。
今日も先輩の手伝いで、先輩が通う大学に現れた悪者を退治してきたばかりである。ただ最近、相手もなかなか負けを認めず、最後の最後で自爆なんていう手段と取ってきた。そのせいで隠蔽工作が間に合わなくなり、午後の講義の半分は中止となった、と先輩が苦笑いをしていた。
「うん、早く帰ってポチに癒されよう」
家には大型犬がおり、疲れた時はしばらくもふることにしている。これで日々の疲れが少しマシになるのだ。……などとレイが考えているうちに自宅の方から何やら大きな音ーーいや、大きな魔力の揺らぎが感じられた。
この感じは、前に覚えがあった。レイの隣に住む幼馴染み、というか憧れの人、というかそんな感じの人の住む家がおかしくなっていたのだ。
「お兄ちゃんっーー」
あの時は、同居者である猫のおかげで事無きを得たが、今回の規模は大きい。それを直感するとレイは思わず走り出していた。
…
……
………
「にゃう?」
「ノワちゃん!?」
レイの隣の家、つまるところレイの想い人の彼が住む家の前で、彼の飼い猫のノワール…もとい、キーと出会す。彼女も家から抜けたばかりのようで、向かう先は庭のようだ。
「ノワちゃん、お兄ちゃんは?」
「ぬや……ぁー、ぬやぁ」
「大丈夫…なのね?」
「ぬやぁ」
キーは人語を解する猫である。レイの言うことはちゃんと理解しているし、反応もする。問題があるとすれば、猫の言葉しか話せないため、ちゃんと答えられる質問をしないとコミュニケーションが取れない点というところである。
今回は、キーが顔を向けて大丈夫、と答えたため、レイは大丈夫と判断した。だたし当猫としては思いっきり視線を明後日に向けていた。偶々、その方向にレイが居ただけである。
「よし、さっきのは庭だね」
「にう!」
一致団結した一人と一匹は、先程の発生源である庭へと向かう。
…
……
………
「ぬや……」
「これは……何?」
庭の中央には小さなクレーターが出来ていた。とはいえ、彼の大事にしていた木々の枝が折れ、家庭菜園の端が捲れ飛ばされている惨状である。
そして、そのクレーターの中央には何かが突き刺さっていた。
『ふぁぁぁ……って、あ、やっと来ましたの? 私の勇者様っ! ちっ、オンナか』
その何かから、半透明の何かが飛び出してくる。大きさはそこまで大きくなく、人の顔くらいの大きさだろうか。下手したら猫のキーよりも小さい。
「ひっ、幽霊?」
「にう」
「え、違う? そう言えば、似たようなのをどこかで……、ああ、妖精か」
『失礼ですわねっ! ワタクシは精霊、せ・い・れ・いですの!! この聖剣の精霊ですわ』
どんと胸を叩く自称聖剣の精霊。対してキーは先ほどから臨戦態勢である。レイもこっそりと後ろ手に変身用のアーティファクトを握っていた。そんなこともつゆ知らず、精霊は言葉を続けた。
『で、ワタクシを呼んだのは貴女で良いんですの? …あら、貴女、勇者様じゃありませんのね。どちらかというと、魔法使い?』
「っ。いや、そもそも誰も呼んでない――「なぅ…」、え、お兄ちゃんが呼んだ? えぇー」
『?? そう、そうなのね。じゃあ、その『お兄ちゃん』様を呼んでくださる?
ワタクシの愛のパートナーとして契約いたしますの』
「――は? 愛のパートナぁー?」
『そうですの、聖剣を司る精霊と扱う勇者は結ばれる運命にありますの。ですから、魔法使いの小娘なん「ノワちゃん。こいつ、どうすれば良い?」、ちゃんと聞いてくださいましっ!?!?』
「にっ!?」
会話でドンドンと顔の表情が変わっていくレイに、いつの間にか及び腰になっていたキーは、突如その視線の先を向けられ、悲鳴を上げる。猫思う、敵にすべきでは無い、と。
とは言え、キーもまた、この聖剣を排除するのには賛成だった。……そのために真っ先に邪魔になりそうな飼い主をヤったんだから。
「にう」
キーは器用に尻尾を曲げ、玄関の方にあるポリバケツを指す。つまり、ゴミはゴミ箱に、だ。補足しておくと、実際には別の所に繋がるのだが、そんなことはレイにとってどうでも良かった。邪魔者は捨てれればそれで良い。
「よし、まずは抜くか」
『おっ、な、なにをするっ!?』
「……重いわね」
『当たり前じゃっ! ワタクシを扱えるのは神に選ばれた勇者のみ……、つまり、『お兄ちゃん』様のみである』
「くっ、やっかいな「にう」、え、ノワちゃんも手伝ってくれるって?」
『ふふふ、無駄じゃ無駄じゃ。 何度も言うが、神に選ばれし――、ちょっと待て、今、ちょっと動かんかったか!?』
「おお、ノワちゃん触れてると、動くねー」
「ぬやん」
『待つんじゃ、待っておく「嫌です」!』
悔い気味に答え、自称精霊を圧倒するレイに、やはり猫は、敵に回すべきじゃないな、と思った。
「ぬやぁ……」