04
「……またか」
ここ最近、同居者こと猫のキーが玄関に妙なものを置いていく。
今回は炭?のようなもので、触るとボロボロに崩れてしまった。
俺は馴染みとなった箒と塵取りで近くのゴミ箱に捨てる。このゴミ箱は古き良き、あの青い蓋付きの、いかにもザ・ゴミ箱という感じのゴミ箱である。
そして、その蓋の上にチョコンと黒い毛玉が乗っかっていた。
「キー」
「ぬやぁ」
一声鳴くと、彼女はゴミ箱から居り、どこかへ出かけて行ってしまう。ここまでが、いつものパターンである。
…
……
………
「で、お兄ちゃん、その黒いモノの出所が知りたくて、ノワちゃんをストーカーしてるってワケね」
「人聞き悪いな。 ちょっとした飼い主による調査だ、調査」
朝。キーが家から出て行くのを確認後、こっそりと後をつけていたのだが、その様子を隣の住人にバッチリとみられていたらしい。
「まぁ、警察のお世話にはならないでね」
「……なるかよ、相手はただのネコだぞ」
「挙動不審もいいとこだと思うけど」
さすがに電柱の後ろに隠れるのはベタすぎたか。だが、相手は動物だしなぁ……。何かシックスセンスでもあるかもしれん。
「第六感は否定しないけどねぇ。 ただでさえあの子、賢いし……」
「だろ、飼い主に似たんだと思うぜ」
「じゃあ、前の飼い主だね」
前の飼い主と言えば、お婆さんか。きっと近所でも名を馳せていたのだろうか。
「いや、あの子のことをノワールって呼んでたお姉さんの方だけど」
「そう言えば、ノワって呼んでるのってそれ由来か」
「そだよー、お姉さんも居なくなっちゃったから、そう呼ぶ人いなくなっちゃうのは可哀想かなって」
「そっか」
アイツも色んな経験をしてウチに来たんだな。そう思いつつ、目線をターゲットに戻す。現在は近所の子供に戯れられているらしい。
「クロちゃんげんきー?」
「うなうー」
ゆらゆらと二本の尻尾を揺らしながら、子供の掴み攻撃を華麗にかわす。つーか、尻尾が早すぎて二本に見えるって、最近のネコ、やべえな。
しばらく子供と戯れた後、彼女はそのまま公園の脇にある草むらへと飛び入る。
「ふむ、ホシが動いたようだ。 ……レイ?」
「あ、うん。 お兄ちゃん、何かな」
「いや、キーが草むらに突入したんだが、どうした?」
そういえば、随分と先ほどからずっと大人しかったが、何かあったのだろうか。それとも体調か?
「いやぁ、端から見てたらネコと戯れる幼女を監視する不審者かな、って思ってただけだから。 うん、お兄ちゃん、私、成長しちゃってゴメンね?」
そう言いつつ、少しずつ距離を取っていく幼馴染み。 ……って、ちょい待て、お前も真横で同じことしてただろうが!
「あはは……って、ノワちゃん草から出てき……あー……」
「どうし――痛っ」
「ぬあう」
爪ありの猫パンチが俺のふくらはぎに直撃する。もはや、ただのひっかきである。そして、そのまま元の草むらへと戻っていく。
「ぬやぁ」
「……ついてこいって、言ってるみたいだよ、お兄ちゃん?」
「あ、ああ」
ひっかかれた痕を気にしつつ、キーの入った草むらへ案内されると、そこに少し大きな枝が落ちていた。
「ん、随分と大きい枝だな」
「……普通に杖だね」
「なう!」
その杖を何度も猫パンチしたり、頭で押したりしようとしているが、何かが引っかかって動かない。軽く持って引っかかっていた蔓などを払う。
「いや、まぁ、どうするんだ、コレ」
「うなう」
「まさか、持って帰れと?」
「にゃう!」
「お兄ちゃん、そうみたいだよ。 多分、持って帰っていつものゴミ箱に入れたら満足するんじゃないかな」
「にゃうにゃう!」
幼馴染みの声に反応し、褒めるように鳴く同居者。うんうん、そんなに褒めるな「なうっ」、そうですね、俺のことじゃないっすね。
「お兄ちゃん、かなりノワちゃんと馴染んでるねー」
「……馴染んでる、というより、ただ調教されているような気が」
おい、そこで視線を逸らすな一人と一匹!
…
……
………
結局、あの枝はウチのポリバケツ(特大)へと放り込まれた。
「うなぁ~」
いや、こっちがヤレヤレだっていいたいんだが。