03
「うなぅ? うにゃ、にゃぁあぁ」
「はい、すみませんでした……」
居間にて大の大人が一人、尻尾を畳に叩きつける黒猫一匹。
俺は正座させられ、その上で同居者の小言を聞くこと十数分。そろそろ布団上げたいなぁ、と「うにゃあ!」……思うものの、少し気を抜くとすぐに彼女の声とパンチが飛んでくる。
なぜこうなったかを説明するため、時間を遡る。
朝、起きたら同居猫のキーが飛び回っていた。……かなり激しく。
このドタバタという音でよく目が覚めなかったなぁ、と思いつつ、腰を上げ、部屋から出ると、そのままキーもついてきた。
「ぬやふぅっー」
……しかもかなり不機嫌な様子で。さっきからどこを狙っているのか分からない猫パンチが空を切り裂く。なんて、表現でもいいのではないだろうか。
「そう言えば、猫って幽霊が視えるって言うよな。 ……ハハッ、まさかな」
どうせ来るとしたら、両親の幽霊だが…。ああ、そうか、両親とキーは出会ったことなかったか。
「キー、多分、それうちの両親だから放っておけ」
「な、うなう?」
は、何言ってんの?みたいな声と顔をしなくても…。え、違うの?
「なっー! なっー!!」
居間への扉に手をかけた時、突然、キーが騒ぎ出す。暴れすぎてお腹減ったか?
「に゛ゃっ」
「っ!!」
いつぞやと同じく、また足を噛まれた。その隙にキーは扉に体当たりをし、できた隙間から居間へと移動する。そして、扉のすぐ先でこちらを見、ぬやぁ、と鳴いた。
「だから、なんでドヤ顔なんだよ」
やれやれと思いつつ、ふと思いついた。このまま扉を閉めたら、どんな反応をするだろう。
そうして、俺はバタンと居間への扉を閉めた。
「にぅ!?」
ふっふっふ。今日は俺の勝ちだな。
……ところで、居間、カーテン閉めてたか?随分と暗いような。
…
……
………
期待していた反応が一切ない。…扉に爪をカリカリさせるとかさ、鳴いたりとかしないのか。静かな廊下で一人突っ立っている俺の方がギブアップしそうだ。ああ、なんかちょっと気温も下がっている気がするし。
って言うか、さっきキーが幽霊?とバトルしてなかったか、ここで!
「ひっ、ちょ」どんっ
ノブに手をかけた途端、扉が揺れ、向こうから馴染みの声が聞こえる。
「ぬやう!」
「ああ、すまんすまん」
こうして、居間へと入った俺だったが、怒り心頭なお猫様は、どうやら気が済んでいないらしく、居間のど真ん中で正座をさせられ、そのままお説教タイムとなってしまった。
「お兄ちゃん! 大丈夫っ!?」
遠くで幼馴染みの声と家の玄関の鍵が開く音が聞こえる。どうやら、勝手に侵入してきたようだ。返事をしたいんだが、「うなぁ!」はい、すみません。
「……っ、うあ、何これ、異次元?」
……いや、それ多分、キーが暴れた後だと思う。
「とと、あぶな、これヤバっ」
……勝手にタンス開けないでくれよー?
「うなぁ」
「え、もういいの?」
「なっ」
どうやら、やっと解放されるらしい。と、同時に居間への扉が開く。
「あ、お兄ちゃん無事だったんだ。 よかった」
「いや、流石に猫が暴れたくらいでどうにもならんって」
そもそもこいつ、今日みたいに暴れたの初めてだし。
「うん、まぁ、お兄ちゃんの顔を見れたから帰るね。 ……ノワちゃんありがと」
「? ああ」
……何しに来たんだ、あいつ。
「ぬやぁ」
ノワと呼ばれた猫はいつも通りに、ドヤ顔をしていた。いや、なんでだ。