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余談のため、毛色がかなり違います。
「ついに魔王城まで来たか。 皆、準備は良いな」
「行きましょう!」
「はいっ!」
「……ええ」
戦士の掛け声に、魔道士と聖女が勢いよく返事する。遅れて召喚士の私も答える。
(……どこで間違えたんだろう?)
この考えは、旅の間、ずっと私の頭の中をぐるぐるとループし続けていた。
… … … … …
始まりは三年前。私は自身のスキルより、一つの予言を行った。これより一年後、魔王が復活し、遅れて半年後に魔王を討つ『勇者』『戦士』『聖女』『魔道士』がこの城に集まる、と。そして、その予言は一部を除いて、当たった。
「かの国の高名な戦士が、魔王の噂を聞きつけ、この城に援軍に現れました!!」
「神の申し子、過去最大の力を持つ聖女様が、こちらにいらっしゃるとの知らせが!」
「行方不明になっていた王子が見つかりました! 魔王討伐のため、仙人に弟子入りし魔道士として修行されていたようです!!」
その知らせを聞いた王は、私の予言を信じ、最後の一人を待った。しかし、いくら待っても最後の一人、かつ、一番重要な『勇者』が現れることは無かった。
… … … … …
「王よ、かの予言者を処罰するべきでは?」
いくら待っても現れない勇者に、城内でも私を非難する声が大きくなってくる。しかし、勇者が来ないとはいえ、他の『戦士』『聖女』『魔道士』の出現を言い当てた実績が私の身を助けていた。
「予言者よ、お前にチャンスをやろう。いつ、『勇者』は現れる?」
その問いをされたとき、私はぞっとしていた。なぜなら『勇者』が現れる未来が全く見えなくなっていたからだ。最初は、他の予言を当て、能力が一時的に弱くなっていたのだと思っていたのだが、数ヶ月の間、他の予言は当たるが、『勇者』に関することだけは全く分からなくなっていたのだ。
そのため、王に聞かれた際、予言を答えることは出来なかった。そのため、別の答えを言わざるをえなかったのだ。
「王よ、勇者は召喚によって現れる、と出ています。そして、これが召喚術の法術理論でございます」
「なんと! つまり、『勇者』が現れなかったのは、それを行わなかったため、ということか」
「はっ」
こうして、召喚術の準備が行われ、速やかに起動することになった。私は少しでも成功率を上げるため、自分のジョブを『予言者』から『召喚士』に切り替えていた。
……結果は、失敗だった。
その結果を認められず、何度も召喚術を繰り返し、ついに大きな扉を召喚するところまで完了した。向う側には『勇者』と見られる影が見え、その扉を開ける、その寸前で扉がブレ、そのまま消え去ってしまった。その後も扉を召喚するが、あっという間に消え去ってしまった。そこで、私の魔力は尽き、気を失った。
… … … … …
「予言者、いや、召喚士よ。もう良い、そなたが『勇者』の代わりとなれ」
「は? あ、いえ、はっ、承りました」
召喚に失敗した私に言い渡された命令は、『勇者』代わりに『戦士』『聖女』『魔道士』と共に旅に出よ、とのことだった。『勇者』の代わり、と言えば聞こえが良いが、正確に言うと他の三名の盾となれ、という意味が正しい。ましてや、『魔道士』はこの国の王子でもある。死なせることがあれば、真っ先に私が責任を取らされるだろう。
その後の旅では、なぜか多くの幸運に見舞われた。
聖女でも浄化しきれない猛毒の沼を渡らなければならなくなったのだが、なぜか空から大量の札が舞い、それが道を作った。聖女は神の導きと感激していたが、普通に考えて、あり得ないと思う。
また別の日、聖女と魔道士が罠に嵌まり、残された戦士と私が物理の効かない大量の亡霊と対峙することになってしまった。対亡霊武器を入手するため鍛冶屋に行ったのだが、銀鉱石が手に入らずその日は亡霊に効く武器を入手することが出来なかった。八方塞がりとなり、人質となった二人の命が危ぶまれたころに荷物袋の隅に残っていた大量の黒い炭ようなものが目に付いた。鑑定すると魂のなれの果てであることが、そしてそれが対亡霊武器の素材として使えることが判明した。こうして、手に入れた魂のなれの果てだが、どこから手に入ったのかは未だに分からない。本当にいつの間にか荷物袋に入っていたのだ。
勝手に荷物袋に入っていた、と言えば、私が魔王城へ到達している現在使っているこの杖もそうである。いつの間にか入っており、鑑定すると伝説級の武器であることが判明した。ましてや、『勇者の祝福』などというエンチャントまでついていたのだ。しかもなぜか『勇者』代行である私にしか使えない代物だった。もはや訳が分からなかった。……そして、また例の黒い炭のようなものは増えていた。
… … … … …
「フハハハッ、そんなものか」
「大丈夫か、召喚士っ」
「ぐっ、なんとか」
魔王の居る奥間まで辿り着いた私達だったが、魔王の圧倒的な力の差で『聖女』と『魔道士』がやられてしまった。残る私達もほぼほぼ体力が尽きている。
「ふ、聖剣を持たぬお前らに、我を倒すことは出来ぬわっ!」
聖剣。それは私達の冒険で唯一の心残りだった。様々な幸運に見舞われた私だったが、さすがに『聖剣』を抜くことは叶わなかった。さすがに『勇者』代行ではどうにもならないのだろう。
「くそ、『聖剣』――」
そう嘆いたときである。魔王の真上から光が降り、真っ直ぐと見覚えのある剣が、魔王の脳天を貫いた。と同時に魔王は叫び、聖剣からは精霊が――、いや、黒い毛玉が私の方へと転がってきた。
「にぅ」
「猫?」
「ぬやっ」
私の顔を見てすぐにその場を逃げていく。一体何なのか、そう考える間もなく『戦士』が私の肩を掴む。
「さすがだ、召喚士! 抜けないなら抜かずとも『聖剣』を召喚するとはっ!!」
「え、ちがう」
「はっはっは、遠慮するな。世界は救われた! よし、すぐに聖女と魔道士を助けるぞ!」
「あ、はい」
こうして、私は世界の英雄となった。
しかし、本当に良かったのだろうか。私は決して『勇者』ではない。なぜなら、あの後、魔王の玉座を貫いたままの聖剣を抜くことも、召喚することも出来なかったのだから。