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異世界日本で秋葉原を!  作者: 永谷裕一郎
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そういう意味での切り餅だったの!? ぽっくりはやめてよ!?


「め、めいどぉ?」


 俺の言葉に秋丸さんは何も分からないようだ。

 当たり前だ、メイドなんて遥か未来の言葉、——西洋的な意味でカタカナになっている。

 メイドなんて、キャバクラとは違い、接客も——ごめん、体験したこと無いから分かんない。

 一応、メイド喫茶は知っている。何故かというと、テレビで特集されたことが、極稀にあったからだ!

 それは一応置いといて、俺はその情報を、うろ覚えでありながら、できるかぎり、秋丸さんに説明した。


「メイドと言うのは、俺たちが住んでいた日本と言う、この国での文化——大金持ちの身の回りを世話する人達を、特に女性達がメイン、っていうかな?」

「ぶ、文化? メイン?」

「め、メインは、う〜〜ん、中心ってことかな?」

「成る程……それがメイドと言うことですか?」

「まあ、そうだ。メイドはあまり文化に馴染みあっても馴染みないことがあるけど、メイド喫茶という接客形の物もある——それを、お持て成しにしよう」

「お、お持て成しって、それでは料亭のことですか?」

「合ってるというか、違うな——料理は西洋が多いけど、此処は菓子で勝負だ」

「お菓子? 私達に用意出来るものですかね?」

「できるだろ? 日本、大和には御手洗や草餅、それらを使って、お持て成しをするんだ」

「そ、それでは、向こうは納得いきますかね?」


 俺は首を左右に振った。


「そこまでは分からない、向こうの気持ちを考えろと言われても、無理だ」

「で、では、お、お菓子とはいったい?」

「……う〜〜ん、それは理由があるんだけど、それより、メイド喫茶は斬新だろ?」

「ま、まあ……貴方様が言うのならば、確かに斬新ですが、その知識はいったい、どこから?」

「……そ、それは、俺の近くにそんな店をしているのが幾つも、あ、あるから!!」


 俺は思わず、秋丸さんから顔をそらした。

 ……い、言えね〜〜メイド喫茶が、この千代田の、遥か未来にできる秋葉原にあるなんて言えね〜〜!

 俺がそう簡単に言うのもそれが理由だ。メイド喫茶を真っ先に思い浮かべたのも、この場所が千代田で思いついたからだ。

 

「それに、料理の奴は御手洗か草餅にしてくれ!」

「御手洗に草餅、ですか?」

「あ、ああ! 料理よりも手軽な料理の方が話に集中出来るからな!」

「そ、そうなんですか? 普通、酒などで持て成した方が……」

「それはそれ! まあ、俺を信じろ!」


 俺は思わず、胸を張ってしまった、同時に話を無理矢理終わらせていた。

 御手洗や草餅などの甘いお菓子にしたのも、疲れた身体には甘いもんがいい——そう考えていた。

 それが本当かどうかは、医療番組を観ていないから分からない! 

 話を逸らそうとしたのも、そのことを指摘しそうになったからだ!

 俺の言葉に秋丸さんは少し驚きつつも、直に喜ぶ。


「そうですか! 貴方様の言葉を信じればいいのですね!?」

「えっ?」


 俺は驚いた。その後に、秋丸さんは立ち上がると、そのまま部屋を出ようとした。


「当主様の言いつけ通りに御手洗などを用意致します! 勿論、余った切り餅が沢山あるので何とかなります!」

「えっ? えっ!?」


 俺が何かを言う前に秋丸さんは部屋を出て行った。襖をちゃんと閉めてからだ。立派だなおい。


「…………そう言う意味かよ!?」


 俺は思わず突っ込んでしまった。理由は、切り餅にだ。

 俺はてっきり、悪代官と悪い問屋が話をする時に出る切り餅のことを考えてしまったよ!

 だってあれだよ!? 二十五両くらいの小判が白い紙で包まれている奴のことかと思ったんだよ!?

 普通そう思っちゃうし、それで打ち首の未来しかなかったから!!

 秋丸さん、ややこしいよ! 否、ちゃんと聞かなかった俺も悪いけど!


「…………まあ、切り餅の件はいいけど……これからどうするんだよ〜〜」


 俺は切り餅の件は片付いたと思った。しかしだよ? 俺に出来るの?

 この町を発展させるって、俺には無理だよ? 二十歳のバイトの人だよ?

 得意なことはないし、趣味でアニメ鑑賞をするくらいのオタクだよ?

 好きな女の子がいて、俺の嫁発言はしないよ? 

 この町で召還されたのは驚いたし、夢かと思ったよ!?

 俺はとうとう、妄想と言う危険な領域にまで来てしまったのかさえ思ったんだよ!?

 

「……俺にできんのかよ……」


 ……その前に、俺に出来るのか? 俺はこのままこの町で過ごすことになるのか? この町を発展させるためにそうした方がいいのか?

 本来の世界で行方不明——最悪、死亡者届で帰らぬ人になることになるし、父さんや母さん……妹も哀しむ。

 この世界で俺は町を発展させるけど、いきなり無理難題だし。


「メイドでもいいのかよ……」


 メイド喫茶で行列の人達を喜ばせることはできるのか?

 文化の、遥か未来でできた行事で上手くいくのか?

 もしも、上手くいかなかったらどうよ?

 行列のお奉行様に俺は処刑——最悪、この町その物が歴史から消えることになるかもしれないぜ?

 そうなったら……千代田は、秋葉原は歴史の闇へと葬られるし、フィギュアやアニメ関連は別の町で発展することになる。

 まあ、どうなるのかは分からんけど、俺は不安でしかないんだよな……。

 自身がない方、って訳じゃない。俺の考えが、功を奏するのかを、不安に思っているだけだ……。


「……はぁ〜〜っ、どうすればいいんだよ……」


 俺は腕を組んで大きな溜め息を吐く。




「あのぉ……」

「うん?」


 突然、後ろから声がして、俺は振り返る。

 後ろには、秋丸さんが出入りしていた、この部屋の扉からだった。

 扉と言っても、扉の向こう側からだ。

 その声の主は、扉の向こうから聞こえた声の人は、幼い女性、所謂、少女の声だ。

 声で判断するのは可笑しいけど、確かに少女の声だ。

 俺はその声に反応した——同時に、その声には聞き覚えがあった。

 昼間に会い、町のことで少し熱くなっていた少女。

 本来の仕事はどうしたのか? と聞きたかった。

 ——否、言い方は変だけど、もう終業時間だからだろうか? 巫女では無く、一人の少女として時間を過ごそうとしてるんだろうな。

 もう夕方でありながら、少女らしいことをしたかったのにも関わらず、俺の所に来た。

 何の目的で来たのかは分からない——俺がそう考えていると、また、声が聞こえた。


「あのぉ、何処か具合が悪いのですか? もしかして……召還された際、身体の何処かに不調があるのですか!?」

「あっ、い、いや! 俺の身体は何処も悪くないよ!? って言いたいけど、入ってきたら?」

「……失礼します」


 襖が開いた。そこにいたのは、大和撫子——ではない、薄赤色の着物を纏った、真白明さんがいた。

 いつもの巫女服ではない——普段着にも思えるが、彼女が普段着ている着物を纏っただけなんだろうか?

 俺はそう考えている中、彼女の表情は少し安堵しているようにも思えた。

 どうしてそんな顔をしているのかは分からないし、どうしてここに来たのかも分からない。

 指摘すれば答えるだろうな〜〜なんてそんなことも考えていたら、真白さんは聞く前に答えた——少し表情が暗く感じた。


「一応、舞様のことで報告が……」

「えっ? 舞様……なっ!?」


 俺は思わず、戦慄した。まさか……そのままぽっくり……いやいやいや! 何を考えてんの俺!?

 俺のせいでばあさんが……だなんて嫌だよ!?

 そうなったら、俺はこの歳で殺人を犯したことになるよ!? 嫌だよ!


「ま、舞様がどうしたんですか……!」


 俺は冷や汗を流す。暑い季節の中、クーラーや扇風機を節電する意味でこまめに点けたり消したりしているせいで、蒸し暑い部屋の中にいる程の汗を流していた(関係ないが、実体験だ)。

 俺の様子に真白さんはどう思っているんだろうか? 否、その前に舞様はどうなったんだ?

 俺は震える——ホラー映画を観ているくらい、戦慄していた。心臓の鼓動が早くなって行くのを感じていた。

 真白さんの言葉を待つのが、ホラー映画並みの恐怖と緊張を走らせるくらい、嫌な物だったからだ。


「舞様は……ぐったりしていましたがそのまま寝息を立てています。二、三日、寝ていれば大丈夫だとお医者様が」

「…………」


 真白さんの言葉に俺は……そのままダンゴムシのように丸くなりながら座っていた——否、正確には正座しながら倒れていた。


「あっ、えっと、秋葉さん!?」


 真白さんは俺の方へと駆寄ってくるけど、俺の意識は……なかった。

 理由は……死んだのではなく、生きていることに安堵したために、そのまま気を失った……からだ。

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