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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第3章 精神の魔石とイカサマギャンブラーズ
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第84話 佐沼真は信じている

「ミストリア! 前みたいに全員気絶させられないのか!」

「無茶言うな! 出来てもあと五人程度が限界だよ!」


 そうこうしているうちにゾンビじみた客共がじりじりと近づいてくる。

 何か……何か策はないのか。


「ミストリア、賢者の石が暴走してると言ったが、賢者の石自体が意志を持って魔法を使うわけじゃないんだよな?」

「あ、ああ。もちろん術者が介在しなければ──おい、まさか」

「さすが探偵、察しが良いな」


 シャルの閉じ込められた黒い立方体を見る。要はあの中から精神の魔石を取り出せれば良いわけだ。


「無茶だ! あんな得体のしれないものに接触したら、どうなるかわからないぞ!? もし身動きが取れなくなったらコイツらの餌食だ」

「そこはまあ、お前が何とかしてくれるだろ」

「……私は君からそんな信頼を受けるようなことをした覚えはないよ」

「ハッ、冗談。俺もお前も、そう簡単に他人を信じないだろ。だからお前はお前を信じろ。俺は俺と、あの馬鹿どもを信じる」


 少し話し過ぎた。操り人形共はもう目の前だ。


「ミストリア! お前の魔法で俺を立方体まで飛ばせ!」

「勝手なことをっ!」


 そう言いながらもミストリアは光の束でトランポリンを形作る。


「さっさと飛んで行きたまえ!」


 身体が宙に浮く。俺はまっすぐに黒い立方体へと飛び、それに手を伸ばした。


「……うっ」


 手が立方体に触れた瞬間、身体が痺れる。立方体の触れた場所がぐにゃりと変形し、徐々に吸い込まれていく。


「クソが……!」


 痺れを無視して入り込んだ腕で立方体内部をまさぐる。ふと、何かに触れたその瞬間。


「ぐああああ!」


 チカチカと目の前に火花が走る。脳に大量の情報が入り込んでくる。無数の情報はおそらくシャルの記憶。


「シャロ、シャル。貴方たちは自分のしたいことをして。カジノに縛られずに、あなた達の望む幸せを」「二人は私たちの天使よ」「君たちを愛している」


 幸せな記憶。


「嫌だ、嫌だよお母さま。私たちを置いていかないで!」「どうして……どうして死んでしまったの」「お父様、お願いだから目を覚まして。また私たちの頭をなでてよ」


 そして──


「可哀そうに。カジノの子でなければ」「どうせ殺したのも……」「だが、これはチャンスだ」「そうだ、チャンスだ」「今ならカジノは私たちの思うまま」「シャロ様、シャル様。大丈夫ですか?」「困ったことがあればいつでもご相談下さい」「ええ、ええ。いつでも」「カジノ運営は大変でしょう」「私たちにお任せくだされば、すべてつつがなく」「大丈夫です。私たちは貴方の味方です」


 気持ちの悪い、欲にまみれた笑顔。笑顔。笑顔。


「もう誰も信じるに値しないわ」「シャル、私達はもう誰も信じない」「私達だけで、このカジノを守るの」


 そうか、だからこいつらは──


「クソが。興味ねえもん見せやがって」


 だが、それももう終わりだ。シャルの手は掴んだ。あとはここから引っ張り上げるだけ!


「サヌマ君! 避けろ!」


 ミストリアの声が届く。避けろ? 何を?

 ふと視線をずらすと、そこにはランブルーがいた。おいおい、ここは空中だぞ。どんな脚力してやがる。


 すでにランブルーは脚を構えていた。俺にこいつの蹴りを避けられるはずがない。あーあ。こんなところで終わりか。まさか、よりによってコイツに邪魔されることになるとはな。

 俺は静かに──目を閉じた。


「諦めるのは早いでしょ!」


 目を開けると、ランブルーが地面で伸びている。

 今の、聞き覚えのある声は!


「遅れました! サヌマさん!」

「助けに来たわよ、サヌマ!」


 まったく、遅いっての。


「信じてたぜ、メアリー! ジン!」

「コイツらは私たちに任せて。あんたは自分の役目を!」

「わかってる!」


 ──でもよぉ。もしもお前に……仲間なんてのが出来ちまったらよぉ


 俺はシャルの腕を引っ張りながら、なぜか師匠の最後の言葉を思い出していた。


 ──信じちまうんだろうな。お前は甘ちゃんだからよ


 ああ、そうだな。あんたは正しかったよ、師匠。俺はあいつらがここに来ると信じてたから、こんな無茶苦茶やってんだ。


「どらあああああ」


 握る手に力を込める。少女の腕を力づくで引っ張り上げる。

 このカジノオーナーがどんな思いを抱えていたかなんて関係ない。例え同情に値する境遇にいようが、そんなことは関係ない。誰かを信じるか信じないかなんて、勝手に選べばいい話だ。誰も人間の気持ちを操ることなんて出来ないんだから。


「だから! 俺は俺のために! てめえを引っ張り上げるんだよ!」


 シャルの手が立方体から現れる。その勢いのまま、俺はその幼い体躯をまるごと引っ張り上げた。

 すかさずシャルから精神の魔石を引きちぎる。すると黒い立方体は賢者の石へ吸い込まれ、一瞬にして姿を消した。そして、空中に俺とシャルだけが残る。


「……ん?」


 あれ? これ、どうなるの?


「ぎゃああああああ」


 どうなるもこうなるもなかった。俺は物理法則に従い、真っ逆さまに落下する。

 ──あ、これは死んだ。今度こそ死んだ。

 そんな予感が脳裏をよぎり、俺は神に願う。


「助けてえええええ」

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