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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第3章 精神の魔石とイカサマギャンブラーズ
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第79話 ミストリアはそれなりに同類

 想像はできたはずだ。他者を操ることが出来る賢者の石──精神の魔石。それで俺たちが操られてしまう、なんてのは大前提だった。その前提を覆すのが、あの木の実。ミストリアは反転の実と呼んでいたものだ。


 これで俺たちが操られないと錯覚させられる。ついでに上手くいけばギャンブルにも大勝できる。完璧だ! なんて、そう思っていた。


 しかしどうだ。俺とミストリアが操れないなら、他の奴らを操って殺してしまえばいい、なんて思考を予想できないわけではなかったろうに。


「あーあーあー。ランブルーまで操られてるか。こりゃマズい。ピンチだな」

「余裕のある口ぶりだね」

「まさか。虚勢さ」

「虚勢なら言っちゃダメだろ」


 なんて言い合ってるが、状況は本当に絶望的だ。操り手がいるならそこを叩くのが一番だが、オーナー姉妹シャロとシャルは肉壁に囲まれて手出しが出来ない。そしてランブルー、ダスカス、エリー、ドラゴの四人も操られている。

 俺たちはたった二人でこの状況を打開しなければならない。


「あああああ」


 狂ったように観客たちがステージになだれ込む。


「チッ。ミストリア、一旦ステージを離れるぞ!」

「ああ、このままだと圧殺されてしまう」


 ステージを飛び降りるが、その後を無数の客が追いかけて来る。囲まれないように立ち回るしかない。飛び掛かる暴力を躱しながらカジノ内を縦横無尽に逃げ回る。


 ──シュウウウウウ


「マズい!」


 とっさにミストリアを蹴飛ばし、俺も横に飛ぶように倒れる。

 俺たちがさっきまで立っていた場所は、一瞬で氷漬けになっていた。


「ダスカスか」


 ただ、やはり大味な攻撃だ。ランブルーの攻撃を受けたときにも感じたが、やはり操るのはあくまでシャル。操られる側がどのような攻撃手段を持っているかを知らなければそれを再現することはできないのだ。


「なら、あいつらもそこらの有象無象と同じだな」

「おい、サヌマ君。まさかとは思うが」

「そのまさかだ。全員ぶっ潰すぞ。ミストリアが」

「私が!?!?!?」

「あったり前よ。俺は集団戦闘とか絶対無理だからな」

「いやそれは私も……ああ、もう!」


 再び大群が俺たちに襲い掛かる。もうなりふり構ってはいられない。それをわかっているミストリアは、俺の提案に乗った。


「そこに影あり。故に光あり!」


 光の槍、とでも言い表そうか。無数のそれらが現れ、観客たちを貫く。そして


「落とせ、落とせ、心に影を。落ちろ、落ちろ──奈落の影に」


 ミストリアが詠唱を終えると同時に、操られていた客たちを黒い影が覆い、すぐにパチン、パチンと風船ガムのように弾ける。そして影が弾けた客は膝をつき、虚ろな目で倒れていった。


「……ミストリア、お前今の」


 何なのだ?

 こいつは光の魔法を使うのだと聞いていた。魔法四元素以外の魔法、特異のギフト。しかし──


「ああ、まあ、そうだね。私のギフトは光の魔法じゃないよ。うん、そう、影だ。影を操る魔法──いや、魔法ですらないか」

「ギフトってことか? 俺の潜伏と同じで」

「違うよ。サヌマ君の潜伏と同じではあるが、ギフトではない。と言うか、勘違いをしているようだが君の潜伏もギフトではないさ」

「……まあ良い。詳しい話は逃げてからだ」

「ああ、そうだね……いや、ダメだ」


 ミストリアの視線の先を辿る。そこにいたのはランブルーたち四人。一人たりとも、倒れてはいなかった。


「なんでだよ……」

「妄執のある人間には効き目が薄くてね……ああ、オーナー二人も健在か」

「は。じゃあランブルーたちさえ倒せば何の問題もねえな」

「……本当に君は、薄情な奴だね。サヌマ君」

「そういうお前はどうなんだよ」

「…………同類だとも!」


 ミストリアは指を空に滑らす。


万物を縛る鎖(オールオブバインド)


 ランブルーは脚を。ダスカスとエリーは両腕を。ドラゴは身体全体を光の鎖が縛り付ける。


「無力化自体はたやすいさ」


 ミストリアはそう言い放つ、が。


「ふんぬ!」


 このギルド一の馬鹿力ことドラゴが鎖を引きちぎる。操られる側がパワータイプなのが一番厄介なわけか。


「どうする、俺はあんなのに勝てんぞ!」


 カジノに入るために武器の類は一切持ち込んでいない。潜伏を使っても力であれに敵うはずもない。


「自信満々で言わないでもらいたいね!」

 叫びながらミストリアは指先を地面に向ける。

「影は従者なり。影は後れを取るものなり。否、否。理よ、反転せよ」


 詠唱の間、ドラゴは飛び上がる。着地と同時にその剛腕をミストリアへ向けた。


「影縫い──磔」


 しかし剛腕がミストリアを穿つことはなかった。ピタリとその身体が動きを止める。時が止まったかのように、身じろぎ一つ許さない。


「あ、あああ」


 意思なきまま、意味のない言葉を発するドラゴの肩をミストリアが叩く。


「無駄だよ。君の影が動かない限り、君も動けない。もうしばらくは我慢してくれたまえ」


 ……ミストリアの奇妙な力は置いといて、これでひとまず障害はなくなった。ここからどう動こうか。


「ミストリア、ここまで来たならもう逃げるより、直接精神の魔石を奪う方が良いか?」


 そう尋ねると、彼女は顎に手を当てしばし思考する。


「ああ、そうだね。見た感じオーナーの二人も意気消沈のようだ。もう我々の勝ちと言って問題ないだろう」


 その言葉に頷き、俺はステージへ足を向ける。ミストリアと共に階段を一段、一段と上がり、体操座りをしたシャロの脇を通り過ぎた。


 姉を虚ろに眺める妹──シャルの目の前。


「……悪いが、これは頂くぞ」


 胸元に手を伸ばす。これで精神の魔石も手に入れられる。これで賢者の石は三つだ。

 しかし伸ばしたその手を、掴む手があった。


「ダメ」

「ん?」

「ダメ。これは、私達のもの。お姉さまが守ってきたもの。だから、今度は私が──」


 唐突に視界が歪む。床が、天井が、ステージが、装飾が、すべてが混ざり合い汚い飴細工のように渦を巻く。


「あああああああああ」


 ミストリアの悲鳴が聞こえ、その直後。


「仮想領域──リフレイン」


 シャルの言葉を最後に俺の意識は闇に落ちた。

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