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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第3章 精神の魔石とイカサマギャンブラーズ
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第74話 佐沼真は修行する(死)

「オロロロロ」

「だ、大丈夫?」


 ゲロを吐く俺の背中をエリーがさする。


「やっぱりこれ、危険なんじゃないですか?」


 エリーが不安そうに見つめているのは、ルームの姿だ。心配そうなエリーとは対照的にルームは能天気な顔を晒している。


「大丈夫だーいじょうぶ! 私が絶対サヌマちゃんを釣り上げるから」

「そこに関しちゃ心配はしてねえよ」


 ゲロの匂いにむせながらルームを睨みつける。ふふん、とルームは素知らぬ顔。俺、死ぬのかな。……すでに一回死んだけど。

 空を見上げると雲一つない青空。空の下に広がるのは花の香りのする草むら。そんな平和な空気が満載のシチュエーションで、俺は生死の境をさまよう特訓中だった。


「この作戦だと準備に十日はかかるね」


 俺の案と、そこから発展した議論の末。一つの作戦に辿り着いたミストリアがそう言ったのを思い出す。その十日という時間を無駄にしないよう、俺は自身の戦闘能力を鍛えるための特訓をする羽目になったのだ。しかも勇者パーティーの面々から直々に。


「初日からハード過ぎる」


 初日の担当は回復魔法使いのエリー。桃色の長い髪に優し気な表情、こぢんまりとした体躯に儚げなオーラ。まさかこの少女がハードな特訓を課すなど想像もしていなかった。いや、正確にはエリーはあくまで「提案」したに過ぎない。それを実行に持ってきたのが


「わたしよ~ん」

「心を読むな」

「賢者だもの、読むわよ」


 こいつである。

 流れとしてはこうだ。


「潜伏の時間制限、ですか……? 普通ならその魔法を使い続ければ効果は上がってくるものですよ? 限界ギリギリまで使い続ければ、時間制限も伸びるんじゃないかな?」

「うーむ……限界ギリギリって言ってもな。下手したら死ぬし」

「あら? サヌマちゃんたち、面白い話をしてるわね。私が手伝ってあげましょうか?」

「あん?」

「限界ギリギリ、いえ、それ以上潜伏して虚数空間に落ちたサヌマちゃんを私が現実に引っ張ってあげる。……あ、そうね~どうせだし、一日三十分なんて言わずに、一回限界迎えた後もやっちゃいましょう? 良い考えじゃない?」


 助けて。


 潜伏の発動限界を迎えたあの感覚。天地がひっくり返り、視界にあるすべてがフェードアウトするような、吐き気を催す感覚だ。と言うか実際吐いてる。すでに今日だけで二回。


「ささ、もう一回やっちゃいましょう」

「勘弁してくれルーム。さっきなんて五分もってないだろ」

「一分よ」

「余計ダメだろ」


 もう一回やるとか、考えただけで吐き気が……

 顔を青くする俺を見ても、ルームの表情は変わらない。


「サヌマちゃん、そんなで今後メアリーちゃんを守れるの?」

「守るような奴じゃないだろ、あいつは」


 ……。

 はあ。


「わかった、やるよ」

「そうこなくっちゃ」

「気分を良くする魔法をかけてあげますからね」


 エリーの優しい言葉が染みわたる。でもその言い方危なくない?

 結局その日は潜伏、気絶、嘔吐のループを日が暮れるまで繰り返した。




 二日目。


「今日は俺の番だな。魔導具の扱い方を教えるように言われたんだが」


 今日はランブルーか。てっきり武術でも仕込まれるのかと震えていたが、違うようだ。


「魔導具?」

「ああ、これとかのな」


 ランブルーがコンコンと足の武具を叩く。


「こいつは魔石をセットして、その魔法の出力を変化させる。普段セットしてる風の刃を発生させる魔法を脚にまとわせることが出来るんだ」

「そういう仕組みだったのか。だが俺は魔導具なんざ持ってないぞ」

「まさか。その銃は魔導具だろ?」


 ランブルーの視線の先。そこには魔銃があった。不可視の魔弾を放つ、俺の武器。そうか、これも魔導具だったのか。


「いや待て、こいつには魔石なんてセットしてないぞ」

「ああ、魔銃は自分の魔力を装填するものと、魔石の魔法を発射するものの二種類があるからな。そいつは前者だよ」


 知らん情報ばっかで面倒くさい……。俺は頭を掻いて、魔銃をホルダーから抜き取る。


「ま、とにかくコイツの扱いを詳しく教えてくれるってことだろ?」

「そうだ。メアリー=バーンからサヌマが魔弾の先鋭化は習得済みだと聞いてる。魔法と同じで、魔導具もイメージが肝要だ。イメージさえ明確ならもっと自由自在に魔弾を操れる」


 ランブルーは顎に手をあて、少し考えてから話を続ける。


「例えば、弾を曲げたりできる。試しにそこの木に魔弾を当ててみろよ。弾を曲げるイメージをしながらな」

「わかった」


 銃を構え、木の左側に銃口を向ける。そして魔弾が右に曲がるイメージをしながら、引鉄を引く。

 バン!

 破裂音が響き、木に穴が開いた。


「……」

「……」


 沈黙。


「……見えないな」


 そう、ランブルーの言う通り、見えないのだ。魔弾がどんな軌道を描いて着弾したのかが全くわからない。つまり曲がったのかがわからない。


「よ、よし。俺が見本を見せるから、こんなことが出来るんだ、とだけ覚えておいてくれ」


 貸してくれ、と俺の魔銃を手に取ったランブルーが引鉄を連続で引く。緑色の魔力塊が等間隔で打ち出され……いや、違う。二つ目の弾は少し早い。三つ目の弾は更に。同時に三つの弾丸が同じ個所に着弾する。


「こうすれば威力は格段にあがるし──」


 続けてランブルーは一発、あらぬ方向に弾を打った。その弾丸は一定の場所までまっすぐ進むと急に方向転換し、俺の方へ向かってくる。


「うおおっ!?」

「ははは、悪い悪い。こんな風に意表を突くこともできるってことだ」


 なるほど……俺の想像力次第だな。

 潜伏の時間制限を緩和する訓練中とはいえ、やはり潜伏にばかり頼っていられない場面も増えて来るだろう。なら、この魔銃は俺の大きな武器。もっと自在に操らなければ。


「ランブルー、もっと色々教えてくれないか」




三日目

「うおおおお筋肉うううう! 筋肉はすべてを解決するぅぅぅぅ!」


 担当は大剣使いのドラゴ。

 筋トレをしました。以上。




 と、まあこのような訓練を十日間続け、作戦の決行当日。

「まあ、こんなもんだろ」


 パッパッとと手の汚れを叩き落とす。目の前には見違えた姿のランブルーたち。見違えた、とはつまり「ほぼ別人に見える」という意味だ。端的に言ってしまえば──


「サヌマくん、君は変装の達人かい?」

「泥棒だからな。これくらいは出来る」


 師匠に仕込まれた技がここまで役に立つとは思わなかった。空き巣泥棒が変装なんて使うわけないだろ、と反抗したものだが、いつ何が役に立つかわからんな。


「あのー」


 ジンが言いづらそうに俺の顔をのぞいてくる。


「どうした?」

「いや、僕だけ変装してもらってないんですけど……」

「大丈夫だ、お前は前髪だけあげとけばオーケーだから」

「そんなに変わりますかね!?」

「ほぼ別人だぞ。つまりほぼ変装だ」


 釈然としない、とでも言いたげなジンのことは放っておき、俺はネクタイを締め背広に袖を通す。


 ロンリーガーデンに気付かれないための変装、ギャンブルのための資金、精神の魔石攻略のために用意した切り札。計画に必要な準備は全て整った。

 やたらと高い天井を見上げ、息を吐く。


「さあ、カジノを潰しに行くとしよう」


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