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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第3章 精神の魔石とイカサマギャンブラーズ
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第73話 ギルドハウスにはもう住めない

 最初に飛び出したのはドラゴだった。大剣を振りかぶり、十数人もいる黒服に向かってまっすぐ切り込んでいく。ドラゴが剣を振り下ろしたその時、空気が揺れた。

 心臓が跳ね上がるような錯覚。気づけば五人の黒服が地面に伏している。


 ……気絶したのか? 剣を振り下ろした衝撃で?


「あと頼むぞ!」


 ドラゴが叫ぶと、ダスカスはニヒルな笑みを浮かべて杖を構える。


氷王の吐息(コキュートス・ブレス)


 ドラゴの逃した黒服に向かって、ダスカスの魔法が放たれる。瞬時に黒服全員の動きが止まる。


「くっ……動け、ない」

「当ったり前だ。このダスカス様の魔法だぜ? あんたらは絶対に動けねえよ」


 ダスカスが得意げに鼻を伸ばす。──パキ、と割れるような音が微かに聞こえた。


「あ、あれ?」

「ふん!」


 黒服の中で最も恰幅かっぷくの良い男が足を踏み出す。すぐさま攻撃態勢に移る黒服。すでに拳がダスカスの目の前に──


「シーズナー流闘脚術・風・四ノ型」


 しかし黒服よりも速く、その男は脚をあげる。


「旋風!」


 一体何発の蹴りが黒服を襲ったのか、俺には視認できなかった。気づけば黒服は膝をつき、白目をむいて倒れ込む。


 これが色彩の欠いた傭兵団の攻撃戦力……。常識外れの怪力を持つ大剣使いのドラゴ、氷を操る範囲攻撃魔法の使い手であるダスカス、そして魔法と足技を組み合わせ素早い連撃を得意とする武闘家ランブルー。おそらく襲撃から一分も経っていない。一分未満で十数人を鎮圧してみせたのだ。


「あー。ははは」


 思わず乾いた笑いが漏れる。クエスト対決で勝負にならないはずだ。戦力としての桁が違う。


「さて、ここからは私の出番かな」


 後方で待機していたミストリアが重い腰を上げる。ダスカスの魔法で身動きが取れない黒服に近づくと、ぺちぺちとパイプで黒服の頬を叩いた。


「なぜ私たちを襲った? 派閥全体の戦力には開きがあるとはいえ、こちらに勝てると踏んだわけではないだろう?」

「……」

「まあ自陣の情報を漏らしたくないのは理解するがね。ただ君はもう少し立場というものを──」

「嫌だ、違う、違う、違うんだ。俺はこんなこと」


 言い終わる前に、男の頭が爆発した。肉片が四散した。


「──!?」


 ミストリアも、メアリーも、当然俺も事態を飲み込めない。


「一体何が」


 誰に訊くでもなく呟くと、残りの黒服の頭も次ぐ次に爆発する。血が飛び散る。それが目に入り、視界が赤く染まる。


「ロンリーガーデン……! ここまでやるのか、あいつらは……!」

「ミ、ミストリア。教えてくれ、何が起こっているんだ。俺には意味が」

「サヌマくん。これは警告だ。カジノでの異変。君の仕業とは知らないだろうが、あいつらは勇者派閥の仕業だと当たりを付けたんだ」


 警告。我々に手を出すな、我々は気付いている。そういった類のメッセージ。いや、だが待て。


「警告ってのは、あくまで黒服の襲撃が意味するものだろ。なんでこいつらの頭が爆発して、こんな状況になってんのかって聞いてんだよ」

「それは……口封じだろう。黒服が下手なことを話さないように。どうやらカジノのオーナー様は誰のことも信用していないらしい」


 そんな言葉を発し、ミストリアは一瞬顔を歪める。


「ともかく、次またいつ襲撃を受けるかわからない。私たちの企てが漏れれば、またここに黒服たちが来るだろう。……少しの間、このギルドハウスから離れた方が良さそうだ」

「そう、だな」


 ランブルーが歯を食いしばりながら答えた。悲しみと、怒りの混じったような表情。敵だろうと、このような扱いを受ける黒服に同情し、その死を悲しみ、そして怒っている。ほとほと甘い人間だ。そして強い人間だ。ただ茫然と目の前の状況に狼狽える俺なんかよりは、よほど。


「そうは言っても、ここ以外に拠点はないぜ?」

「あーら? もしかして、私をお呼びかしらん?」


 ダスカスの言葉を待っていたかのように、ギルドハウスに甲高い声が響く。……ルーム=スペック。それは久方ぶりの空間の賢者の声だった。


「呼んでないわ。帰って。帰宅して。帰らぬ人になって」

「もうメアリーちゃん。そんなに喜ばないで? 照れちゃうわ」


 相変わらずルームには当たりが強いな。


「随分とタイミングが良いんだな。で、何の用だ?」

「何の用だ? なんて冷たい言い方しちゃ嫌よ~? イイ男はこう言うの。キミが来てくれるなんて、一生の運を使い果たしたかもしれないな。ってね」


 今時いねえよ、そんな奴。


「ああもう、さっさと用件を言ってくれよ、賢者様」

「冷たいわね、ホント。お姉さんシュンとしちゃう。でも良いわ、そんな所もお姉さんが包み込んであ・げ・る」


 ……。


「ああっ、そんな顔しないで? もう、今日の話は本当にいい話なのよ? あなた達にお部屋を提供してあげるっていうね」


 メアリーの気持ちが少しわかるくらいにはウザイ口上だが、その言葉は魅力的に思えた。


「本当か?」


 そもそも俺たちもランブルーたちから部屋を借りていた身分だ。自分たちの拠点が持てるのは大変好ましい。そんな心情を察してか、ルームの顔がよりウザくなる。


「どうやら乗り気になってくれたみたいね。さ、荷物をまとめて? お引越しをするわよ」





「ここが……?」


 目の前にはみすぼらしい掘っ立て小屋。人がひとり生活できるかな、程度の大きさしかないボロ小屋である。


「そうよん」

「ルーム、お前あれか。え? 人間って立って寝れないの? 知らなかった~とか言っちゃう系の人外か」

「失礼ね。神の分身わけみとはいえ、ほとんど人間と同じよ。ま、言いたいことはわかるわ。でも百聞は一見に如かず。ささ、入ってみて」

「見た結果がこれなんだけどな」


 うんざりしつつ、俺は扉に手をかける。この見た目だ、中は一体どれだけ汚いのか。


「ん!?」


 ……扉を抜けると豪邸であった。

 パタン。一度扉を閉める。一度、大きく深呼吸。あなた、疲れてるのよ。こんなボロ小屋が豪邸のわけないじゃない。さあ、もう一度扉を開けよう。


 ……扉を抜けると豪邸であった。


「なんで!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

「驚いた!? 驚いたでしょう!? 遠い国の御屋敷と繋げちゃいました~」


 パチパチパチ~とセルフ拍手をかますルーム。俺に続いて入ってきた色彩の欠いた傭兵団(カラーレス)の面々も口をあんぐりと開けている。


 ……いや、待てよ。

 脳裏をよぎるのは武器屋の地下での戦い。地下から這い上がった先に見えた飲食店。


「なあルーム。やっぱお前が──」

「ささ、みんな荷物を運び入れてね~」

「おい話を」

「あ、ジンく~ん。ここのキッチン広いわよ~」

「本当ですか!? やった!」


 ジンがぴゅーとキッチンへ飛んでいく。

 また話をそらされた。振り返るとすでにルームはどこかへ行っている。引っ越し作業も大変だし、こりゃ完全に逃げられたな。


 数刻後、持ち込んだ荷物をあらかた整理した俺たちに召集がかかる。

 すでに俺は疲労困憊。もう寝させてくれないか、いいやもう寝る。と与えられた自室に閉じこもっているとメアリーに耳を引っ張られながらリビングに連れ出された。


「それではカジノ、ロンリーガーデン攻略の作戦会議を始める」

 召集の主であるミストリアが宣言する。

「現状の課題は大きく二つ。一つは戦力差。もう一つは資金差。この二つの差が生じている要因はなんだい? はい、ランブルー」


「……精神の魔石、だな」

「その通り。精神の魔石を利用したカジノ運営により多額の利益を出し、それを元手に戦力も増強している。つまるところ、ロンリーガーデン攻略の鍵は精神の魔石、というわけだ」

「それが大変なんだろ」


 ダスカスがつまらなそうに頬杖を突く。こういった会議は不得手そうだ。


「ああ。ランブルーは戦争を仕掛けるなんて張り切っていたが、乱戦になればこちらの勝機はない。味方が操られて同士討ちがオチだよ。だから、まあ気乗りはしないけど、盗むっていうのは良い案だと思う。どうだい、サヌマくん。盗みのプロとしての君に聞きたい。あれを盗めると思う?」


 精神の魔石。他者の精神に介入し、行動を意のままに操ることが出来る。そんな魔法を行使する相手に盗みを働くなんて──


「できない、とは限らない。ひとつ考えがある」

「ほう」

「強力な力を持ってる奴ほど、それが効かないと思いこんだら簡単に崩せるもんだ」

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