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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第3章 精神の魔石とイカサマギャンブラーズ
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第72話 ランブルー=リーディスは守りたい

「探知魔法! 早くしなさい!」

「あなたは魔力痕の記録を見せて」


 双子のオーナーはテキパキと指示を出し、侵入者──俺の捜索に乗りかかる。しかし捕まるかどうかは怪しいところだ。魔力痕を辿ったところで俺の姿は見えない。ただ万が一ということもある。相手は賢者の石の所有者。念には念を、潜伏深度を上げるべきか?


 脳裏によぎる発想をすぐにかき消す。ダメだ。タイムリミットは近い。ここで虚数潜伏なんて使えば美術館の二の舞だ。

 頭を回せ。時間はないぞ。次に俺の取るべき行動は──

 逃げる! 

 それしかない。存在を気取られた時点でタイムアップと考えるべきだ。


 泥棒というのは瞬時の判断力が命である。俺の数少ない長所をここで活かさないでどこで活かす。

 開け放たれたままの扉からVIPルームを飛び出した。


「オーナー! 探知できません!」

「この愚図が……!」

「す、すみません!」


 後ろから聞こえた声を振り切り、カジノの外を目指す。


「お客様にお知らせいたします。当カジノは現時刻をもって一時閉鎖させていただきます。どうかその場でお待ちください」


 アナウンスがカジノに響き渡る。それと同時に警備員が出入り口の扉に手を掛けていた。まずいまずいまずい! 潜伏を維持したままでは扉を破壊できないし、潜伏を解いても魔力痕を辿られてお縄だ。ここで俺の顔を知られるわけにはいかない。


 懸命に駆けるが、扉はすでに半分まで閉まりかけていた。その隙間に身体を滑り込ませるしかない。息が上がる。体力があればとこれほど思ったことはない。軋む身体を無理矢理動かす。走れ! 走れ! 


 頼む! 間に合ってくれ!






「で、自信満々だったくせに、結局逃げ帰って来たのね」

「あーあー聞こえませーん」


 耳を塞いで頭を横に振るとメアリーは呆れ顔を見せる。


「まあまあ、仕事はちゃんとこなしたんだし、良いじゃないか」

「ランブルー……! マイベストフレンドよ」

「サヌマさんの口からベストフレンドなんて言葉が出るとか、ゾッとしますね」

「お? なんだジン。嫉妬か? 嫉妬なのか?」

「……ち、違いますよ!」

「君たち。そろそろ本題に入っても良いかな?」


 ミストリアが机をパイプ煙草で叩く。その乾いた音とイラつき交じりの声音で、ギルドハウスの空気が瞬時に張り詰める……かに思えた。


「いやー、すまんすまん。機嫌を直してくれよ」


 ランブルーがカラっとした笑顔で彼女の肩を叩く。


「ああもう、面倒くさいな君は」


 そう言いつつもミストリアの表情は軽く崩れる。ランブルーの人の好さが為せる技か。見習うつもりは毛ほどもないが、まあ羨ましくはある。

 俺がフッと笑みをこぼすと、何を勘違いしたのかミストリアは俺をキッと睨みつけた。


「とにかく!」ミストリアはもう一度パイプを振る。「サヌマ君たちの協力が得られた今、計画は見直しが必要だ。そもそもランブルーの立てた杜撰な計画には手を入れるつもりではあったが、ここは全員で計画を一から考えるべきだろう。異論はないね?」


 あります! なんで俺も計画を考えるところから参加しないといけないんだ! 計画に協力するとは言ったがそこまでするつもりはサラサラあるわけが──


「異論はないね?」

「はい」


 ……? 俺はなぜ頷いているんだ……? おかしい、これは洗脳に違いない。俺の身体と口が勝手に動いた。べ、別にミストリアの妙な迫力に気圧されたわけではない。決して、ない。


「エリー、例のものを」


 ミストリアの言葉を合図に回復術師が杖を壁に向ける。すると壁に画像が投射された。さながらプロジェクターだ。魔法って便利。

 投影されたのは地図、この街の地図だった。地図は大きく赤青の二色で区分されている。


「これは?」


 尋ねると、ランブルーが声を低くして答えた。


「勢力図、だな」

「この街にあるギルドのね。私たち勇者派は青、ロンリーガーデン率いるカジノ派が赤」

「……劣勢みたいですね」


 ジンの言う通り、地図は赤の方が広い。赤対青の比率は6:4といったところか。


「ああ。この勢力差がさらに広がればロンリーガーデンは俺たちを襲撃してくるだろう。……勝ちを確信すれば攻めて来る、そういう奴らだからな。その前に俺たちから仕掛ける」

「なあランブルー、なんでそこまで──」


 違和感があった。たいして親交を深めたわけでもない俺たちのために一肌脱いでくれた男が、なぜここまで好戦的なのか。いや、なぜここまで必死なのか。


「今までの均衡は、あいつがつくってくれたものなんだ」


 あいつ、という言葉が示すものはすぐにわかった。ベイズレッド、すでに亡き勇者。

 ランブルーが歯を食いしばる。拳に力を入れる。それを見かねたのか、エリーが遠慮がちに補足を始めた。


「元々ここは争いの絶えない場所だったの。色々なギルドが乱立して、それぞれがそれぞれを自分の支配下に置こうとしていた。でも彼が──ベイズレッドが均衡をつくってくれたの。同じだけの力を持つ者をトップに据えた、二つの勢力をつくることでね」


 同じだけの力を持つ者……?


「ベイズレッドと、ロンリーガーデンのかつてのオーナー。どちらも今は、亡くなってしまったがな」


 ドラゴが独り言のように呟く。その大剣使いの目は、どこか遠くを見つめているようだった。


「そして現オーナーに代わってから、徐々に徐々に勢力差は開いていった。俺は……あいつの残してくれたものを守りたい。それを踏みにじったロンリーガーデンを許すことが出来ない」


 つまりはそれが、ランブルー=リーディスの動機なのか。とことん甘いと言うか、まあやはり、お人好しか。


「サヌマ、ジン、メアリー」ランブルーは俺たちをまっすぐ見つめる。「改めてお願いしたい。俺たちに協力してくれ。あいつの作ったものを、一緒に守ってくれ」


 美しい友情だ。死んだ友のために、友の遺したものを必死に守ろうとする。ああ、そのうち伝記にでもなりそうな、素晴らしいお話だ。だからこそ、俺の答えは決まっていた。


「嫌だね」

「ちょ、サヌマ!?」

「いやいやいや今の流れでそれ言いますか!?」


 耳の両側からメアリーとジンの声を浴び、俺はもう一度耳を塞ぎたくなる。


「うるせえ、うるせえ。いいかランブルー、ベイズレッドの遺したものとか俺にとってはどおおおおおでも良いんだよ。俺はただ俺の利益を追求するだけだ。俺にとって最も利益になるのがお前らとの共闘だった。俺が協力するのはただその一点があるからだ。勘違いすんな」


「……? ちょっと待ってくれ、サヌマ。それは、つまりどういうことなんだ?」

「理解が遅いぞランブルー。協力はしてやるが、それはお前の守りたいものを守るためじゃねえって言ってんだ」

「つまり、協力はしてくれるんだな?」

「……さっきからそう言ってんだろ」


 するとまるで幼い子供みたいに、ランブルーの顔がクシャッと崩れる。


「ありがとう! サヌマ!」


 本当に理解しているのだろうか。

 渋面を浮かべて頭をポリポリと掻いていると、両脇から肘で小突かれる。


「少しは素直に言ったらどうなの?」

「サヌマさん、滅茶苦茶面倒くさいですね」

「その顔気持ち悪いからやめろ」


 それでもなおニヤニヤしながら小突いてくる二人が鬱陶しく、俺は勢いよく立ち上がった。


「ああもういい加減にしろ! さっさと作戦を──」


 瞬間、竹を割ったような音が鳴る。同時にギルドハウスに光が射した。……扉が破壊されているのだ。


「襲撃だ! 臨戦態勢を整えたまえ!」

「だ、誰の襲撃だよミストリア!」

「決まってるだろうサヌマ君。──ロンリーガーデンだよ」

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