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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第3章 精神の魔石とイカサマギャンブラーズ
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第70話 佐沼真は掌を返す

「……ん? すまない、聞こえなかった。何と言ったんだね」

「俺らの仲間にならないか」

「聞き間違いではなかったのか……」


 こめかみに指を押し付けるミストリア。それから彼女はいぶかし気な視線を俺に向ける。


「なぜそんな提案をするんだ、君は」

「いやまあ、ただの思い付きなんだけどな。俺はそばに賢者の石を置いておきたい。お前もそれが必要。なら一緒にいれば良いんじゃねえの、みたいな」

「短絡的だね」


 ミストリアは深いため息を吐いて、それからいつものようにパイプを回す。


「そうか?」

「ああ。……だが、合理的だ」


 パイプをくわえてミストリアが立ち上がる。そして俺の目の前に右手を差し出した。


「ん?」

「握手だよ。君とはまあ、捕まえたり協力したり対立したりと色々あったが、もろもろは水に流してとりあえずお互いに利用し合おうじゃないか」

「さすが探偵、話が早いな。そういうドライでロジカルな奴は嫌いじゃない」


 俺が差し出された手を握ろうとした、その瞬間。


「ちょーーーと待ったあああああ!」


 さながら元カノの結婚式に乱入してきた元カレのような声がギルドハウスに木霊する。元カレ──もとい声の主はランブルーである。全員の視線が彼に集まる。


「どうした、ランブルー」

「どうしたもこうしたも! ミストリア! お前、サヌマの仲間になるって言うのかよ!?」

「そうだが」


 熱く語りかけるランブルーとは対照的に、ミストリアの返事は冷ややかだった。何か問題でも? と続けそうな勢いである。


「そうだが??? いや、おま、俺たちはずっと一緒に……俺たち、仲間じゃなかったのか?」

「言ってて恥ずかしくないのか、君」

「は、はぐらかすなよ」


 うんざりしたように、あるいは小動物でも見るようにミストリアは目を細めた。


「君は勘違いしているようだが、誰もギルドから抜けるとは言っていないぞ」


 ハウスに沈黙の幕が下りる。ランブルーは完全に思考を停止させ、目をパチクリとさせていた。


「ん? え……ん?」

「だから、別にギルドを抜けるわけじゃない。サヌマたちも書類上は我々のギルド所属だろう?」

「ええ……いや、確かにそうだけど」

「そもそも、私はもとより君たちと共に行動する方が少ないだろう? なにせ調査で忙しいからね。その間にサヌマ君たちといるようになるだけさ」

「た、確かに……!」


 さすが探偵、と言うべきか。見事にランブルーを説き伏せて見せた。……ランブルーが素直過ぎるだけか?

 まあともかく──


「これで万事解決だな」

 今度は俺から手を差し出す。

「ようこそ。俺たちコソ泥同盟へ」

「君たちそんな名前だったのかい!?」

「違うわよ!? 勝手に変な名前にしないでサヌマ!」


 メアリーから抗議の声を浴びながら、俺は背伸びをして立ち上がる。


「じゃあ、俺らはそろそろお暇とするか」


 このギルドハウスにはいささか世話になりすぎた。いい加減別の活動拠点を考えるべきだし、次の賢者の石を探さないとならない。


「……行くのか」


 ランブルーが少し寂しそうにうつむいている。そんな何か月も一緒にいたわけでもあるまいに、人が良いにも程がある。


「ああ。世話になった、ランブルー」

「またいつでも遊びに来てくれ。……歓迎する」


 別れの挨拶が済んだところで、俺は色彩の欠いた傭兵団(カラーレス)の面々に背を向ける。ありがとう、お前らのことは決して忘れな──


「あのー、水を差すようで悪いんだけど……ミストリアにはもう少し残ってもらわないと困るって言うか」


 おずおずと手を上げたのはギルドメンバーの治癒魔法使い──エリーだ。


「どうしたエリー」

「どうしたって……ランブルー、あんた忘れたの? ロンリーガーデンのこと」

「あ」


 ランブルーが宿題を家に忘れた少年のように青ざめる。


「あー、そうだったね。私も忘れていたよ」

「もー、ミストリアちゃんもしっかりしてよ」


 いまいち状況をつかめない俺は、頬杖を突くエリーに問いかける。


「何の話だ?」

「うーん、まあ、ちょっとね。こっちにも切迫した事情があるって話かな」

「そうだ!」


 ランブルーが唐突に手を打って、俺へ期待に満ちた視線を投げる。

 俺は直感した。こいつはまた、面倒なことを言い出す気がする。


「サヌマにも手伝ってもらおう!」

「……一応聞いておくが、何を?」

「今俺たち色彩の欠いた傭兵団(カラーレス)は、ちと面倒なことに巻き込まれてるんだ」

「面倒な事ねえ」


 やっぱりかと渋面を見せるも、ランブルーは気付かない。


「この町のギルドは協会が全て統括しているんだが、一枚岩ってわけでもないくてな。要は派閥争いが起きてるんだ」


 ふむ、と少し疑問に思う。元とはいえ「勇者パーティー」なんて大層な名前で呼ばれてるこいつらが、派閥争いねえ。ランブルーの人柄とも無縁に思えるそれが、どうもしっくりこない。

 まあ一々話を遮ってもいられないので先を促す。


「で?」

「その大詰めとして、俺たちはロンリーガーデンというカジノと戦争をするつもりだ」

「せん!?」


 思わず目を見開く。戦争とはまた仰々しい。あくまで比喩ではあるのだろうが、ドンパチと戦闘行為をするのは間違いないのだろう。


「それを手伝ってほしいわけか」


 俺は顎に手をやり考える。

 ランブルーには借りがある。鑑定の魔石強奪とメアリーの奪還に手を貸してもらったのは記憶に新しい。借りを返す絶好の機会ではあるだろう。ほぼ無条件の厚意を、ただ受けっぱなしというのは寝覚めが悪い。


「普通に嫌だけど」


 まあ断るんですけど。これ以上危険な目にあってたまるかよ。借り? それはそれ、これはこれ。うちはうち、よそはよそ。隣の迫田君がゲーム買ってもらったからってうちは買いませんよ!


「この恩知らずがー!」

「ぐへっ」


 メアリーから怒りのドロップキックをもらい、俺の身体はギルドハウスの端まで吹き飛ばされる。


「加減ってものがあるだろ!」

「恩知らずには良いおきゅうになったでしょ?」

「うるせ、毎回毎回命が危険に晒されてちゃ身が持たねえんだよ。今回はパスだ。間違いなくパスだ。さっさとここからサヨウナラしますよ。ほら、ミストリアも」


 しかしミストリアは困ったように渋い顔を見せる。


「いやー、悪いんだけど、この件は私も前々から関わっていてね。今さらバックレるわけにもいかないんだ」

「……そ、そうか。じゃあ、終わったら合流ってことで」

「ああ、それが良い。……あれ? でも君は良いのかい?」


 ミストリアの表情を見て気付く。あの困ったような顔は演技だったのだ。今彼女はわざとらしいくらい嫌らしい笑みを浮かべ、俺を見ている。


「ロンリーガーデンには賢者の石があるらしいのに」

「もちろん手伝わせてもらうぜランブルー。お前には借りがあるからな。お前からの頼みを断るわけないだろう?」

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