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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第1章 元素の魔石とプリズン・ブレイク
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第7話 囚人たちはプリンに踊らされる

「それではルールを説明する!

 制限時間は就寝時間の三十分前、つまり八時三十分までとする。

 先程このフロアの様々な場所に宝箱とお題を設置した。お題をクリアすれば宝箱は開く。また、本物の宝箱は一つしかない。その中にプリンを入れたからな。それ以外は空箱だ。

 探索者は各チーム二名とする!」


 以上プリン争奪戦のルール解説担当、食堂のおばちゃんでした。いや、おかしいだろ。誰? この人誰? 「はい、どうぞ」と笑ってご飯をよそってくれたおばちゃんはどこ?


「おばちゃんはね、長年レクリエーションの解説役をやってるのよ」


 俺が相当変な顔をしていたのだろう。メアリーが解説をしてくれた。まあ納得できないんですけどね。

 思わず首を振ってしまう。


「いやいやいや」


「ん? ああ、宝箱のこと? 毎月のレクリエーションで使ってるやつよ」


 あ、もう良いでーす。


「ちょ、待てよ!」

 ジンの取り巻きの一人が声を上げる。

「二人じゃこの広い監獄を探すのはきついだろ!」


 ごもっともだ。しかし、そもそもメアリーには仲間がいないのだからすでに協力者を一人探さなければならない状況である。まさか俺が含まれているわけもないだろうし。二人も支援者を見つけるのは難しいだろう。


「そうね、サヌマ君もこの監獄のことはあまり知らないし、不安だわ」


 はい、ばっちりチームに数えられてました。しかし抗議はしない、燃やされるから。長いものには巻かれるたちなのだ。


「うーん、じゃあメアリーちゃんのチームに入ってくれる人いない? ジン君のチーム以外で」


 おばちゃんが食堂中に呼び掛ける。なんかあれだ。学校の班分けで微妙に人数が足りない厄介者の気分だ。「誰か入ってあげなさいよ~」みたいな委員長の声が聞こえる。


 この手の問題は、先生が指示を出さなければ解決しない。自ら手を挙げる聖人みたいな奴なんているわけが……いた。手が挙がっている。


「あ、あの、良かったら私が」


 手を挙げていたのは銀髪の少女だった。俺よりもいくらか年齢が低そうだ。十代半ばくらいだろう。前髪は長く目が隠れており、おどおどとした雰囲気を醸し出している。

 背はこの子の年代の平均か、それより少し低いくらいだ。正直な話、頼りになるとは思えない。ただし俺にとってプリンはどうでも良いので、メアリーの判断を仰ぐことにする。


「本当に? 助かるわ!」


 どうやら良いらしい。


「じゃあメアリーちゃんのチームはメアリーちゃん、シルビアちゃん、あと、えっと」


 おばちゃんが俺の顔に視線を送る。


「佐沼です」


「サヌマ君ね。で、ジン君のチームは? ジン君と誰?」


「俺と、こいつです」


 どうやらすでに話し合いは行われていたらしい。参加者は屈強な男と、そして屈強な男だった。すでに勝てそうにない。


「じゃあ両チーム、メンバーは決まったみたいね」

 おばちゃんは周りを見渡す。

「話し合いの時間、いる?」


 別に本気出してこれにのぞむわけではないが、メアリーに後で殺されたくもない。一応頑張ろうとする姿勢くらいは見せた方が賢明だろう。


「できれば」


 俺がそう言うと、おばちゃんはうなずいて「じゃあ五分だけ」とほほ笑んだ。




「とりあえず、ここの地図とかないのか? バーンさん」


「資料室にはあるけど、取りに行く時間はないわね」


 まあ、それもそうか。


「じゃあ簡単にで良いから、口で説明してくれ」


 俺がそうお願いすると、メアリーはしばし考える。


「えっとねえ……、うーん、そうねえ……。えーっと」


「あ、私が説明しましょうか?」


 シルビア、と呼ばれていた少女が遠慮がちに提案した。

 もしかしてだが、メアリーって頭悪い?

 その疑念は一度わきに置いておくとして、シルビアの提案は非常にありがたい。すぐに肯定する。


「よろしく頼む。……シルビア、で良かったか?」


「は、はい! シルビアです。よろしくお願いします!」


 ああ、素直でいい子だ。ここにはまともな人間はいないのかと思った。あ、安心で涙が出そう……。


 しかし急に泣き出す成人済みの男というのはそれだけで気持ちの悪い存在なので、そこは抑えておく。


「俺は佐沼真。こちらこそよろしく」


「ちょっと! 時間なくなっちゃうわよ」


 メアリーの注意喚起が入る。確かにまずい。おばちゃんが時計をちらちらと気にしていた。


「えっと、それじゃあ説明しますね。

 このフロアは単純に言えば縦長のTの形をしています。この食堂はTの上棒の左端になってます。逆に右端は食糧庫です。


 Tの縦棒にあたるところからは、細い道がいくつも分岐していて、交差もしているので複雑です。私もすべてを知っているわけではないですが、たいていは牢屋があるはずです。


 他には……縦棒の底には階段があるくらいでしょうか」


 ふむふむ。最低限の情報ではあるが、今はそれくらいがありがたい。頭の中に簡易地図を描く。


「どうやって探索するべきだと思う?」


「適当よ、適当。きっとすぐ見つかるわ」


 俺の疑念が確信に変わる。ああ、メアリー。君はやっぱり……。

 仕方がないから再びシルビアに考えを聞くことにする。


「どう思う? シルビア?」


「えっと、分担は決めといた方が良いかもしれません。横棒、縦棒の右側、左側そ

れぞれの分岐、といったかんじで探索するのはどうでしょうか?」


「五分経ったわよ!」


 おばちゃんの声が響く。そんな大きな声出さなくても……。


「じゃあそれでいこう。バーンさんも良いか?」


「良いわよ。あと、そろそろさん付けは良いわ。もう仲間なわけだしね」


 ……仲間、ね。


「そうか、じゃあよろしく。バーン」


「ええ、よろしく。サヌマ」


 おばちゃんは俺らをのぞき込み、準備ができたことを確認したようだ。

 おばちゃんの顔が変わる。まるで鬼神のようだ。


「それじゃあいくよ! 監獄トレジャーハント、開始!」


 おばちゃんの怒声と共に、戦いの火ぶたは切って落とされた。(※これはプリンをめぐる争いです)

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