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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第3章 精神の魔石とイカサマギャンブラーズ
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第68話 ゴーレムの所有者は

 ゴーレムとは石を魔力で無理矢理につなげた絡繰り人形だ、というのはメアリーの言である。つまりこの石の巨人たちは魔法の産物だ。しかし、その事実はこの遺跡にひどく不似合いだった。


 この遺跡は魔法を使えば簡単に踏破出来た。様々なトラップが仕掛けられていたが、そのどれもが「魔法を意識したものではなかった」からだ。トラップの製作者──日記から推測するに俺と同じ世界から来た漂流者は、魔法を正確に理解していなかった。だからこそ、このような遺跡が出来上がったのだ。


「なるほど、ゴーレムはお前が仕掛けたものだったんだな」


 目の前にいる金髪の少年に問いかける。

 ゴーレムは遺跡の最後の防御機構だと思っていた。しかしそれなら、魔法を意図しないトラップと齟齬が生じる。つまりこう考えるべきだった。


 ──ゴーレムは第三者によって設置されていた。


 その正体が、金髪の少年というわけだ。


「お留守番もできないガラクタだけどね」


 少年がケタケタ笑う。それは絶対的強者であるという自信から出る余裕なのだろう。決して幼い故の万能感とは程遠い、確信に満ちた笑み。風貌は少年のそれだが、どうも違和感がある。まるで……


「ま、五体いれば君らを殺すくらいのことは出来るはずだよ」


 パチン、と少年が指を鳴らす。それを合図にゴーレムが一斉に攻撃を仕掛けてきた。絶望的な状況であることは明らかだが、しかし勝算がないわけでもない。ゴーレムの所有者が判明したのなら、それを潰せばいいのだ。


 取り出した魔銃の引鉄を引く。不可視の魔弾が少年に真っ直ぐ向かうのを直感した。しかし──


「ん? 面白いね、それ」


 少年は弾丸を避けた。最低限の動きで、まるでそこに弾が通るとわかっていたみたいに。


「な……!?」


 そもそも、これは銃だ。拳銃に比べれば速度は劣るだろうが、それでも銃であることに違いない。仮に見えていたとしても「避ける」なんて芸当が出来るはずがない。


「ははは、ゴーレムに魔法が通じないんだから、僕に通じるわけないだろう?」

「無茶苦茶を言うな!」


 しかしこれで、勝ちの目はなくなった。

 ……メアリーとジンに視線を向ける。全員、固唾を飲んだ。メアリーは魔法の詠唱をはじめ、ジンは大剣を構える。俺も、悪あがきくらいはさせてもらう。

 そこにあるのは、死の予感だった。


「じゃ、バイバーイ」


 ゴーレムの十本の腕が、同時に俺たちの頭上を──


「とまれ」


 その一言で、場が静寂に包まれる。ゴーレムが振り下ろしかけた腕を同時に静止させていた。


「なに……が」


 真っ白な頭を必死に動かす。──今なら逃げれる?

 しかし出口を見ると、そこには男が立っていた。男は金色の長髪を揺らしながらこちらへゆっくりと近づいてくる。


「お兄ちゃん!」

「愚弟よ、遺跡を汚い血で汚すではない」


 お兄ちゃん……? こいつが、この少年の?


「でも! あいつらが!」

「ふむ……先遣隊のようだな。直にここも調査隊の手に……うむ、ここは捨てるぞ、愚弟」

「ええ!? どうして!?」

「どうせここにもアーティファクトはなかったのだ。手放しても構わないだろう」

「そりゃあ、そうだけど……じゃあ、あいつらはどうするの?」


 少年が俺たちに指を向ける。


「別に殺す必要はないだろう。あれを読めたわけでもなし。読めたとしても……いや、待て。見覚えのある顔がいるな」


 男がジンの顎に手を当て、クイと頭を持ち上げる。ジンが抵抗できないということを、俺はわかっていた。身体が動かないのだ。さっきから口が微かに動かせるだけで、それ以上の動きをとることが出来ない。


「別人、か? 他人の空似? ……それにしては」

「お兄ちゃん! 不確定要素は殺しとかないと!」

「愚弟よ、だからお前は愚弟なのだ。無暗に人を殺すのは我らの本懐ではない。……はあ、父に似たのだろうな、お前は」


 男は溜息交じりに言うと、俺たちに背を向けた。


「もう動いて良いぞ」


 それを聞いた瞬間、今までピクリともしなかった身体が自由を取り戻す。


「お、お前らはいったい……!」

「二度も会うことはない。故に、名乗る必要もない」


 そして遺跡には俺たちと、静けさだけが取り残されていた。







「俺たちが達成したのはこの三つ」


 色彩の欠いた傭兵団(カラーレス)のギルドハウス、そのテーブルに三枚の紙を並べる。それはクエストクリアを証明するものだった。


「それぞれ十、二十五、三十三ポイント。計六十八ポイントだ」


 俺はこみ上げてきそうな笑いをこらえながら言う。最後のクエストはどうも締まらない結果に終わったが、完遂したことには変わりない。

 A+の魔物を倒せば十八ポイントなので、六十八ポイントはA+の魔物を四匹対峙しないと追い越せない数字だ。

 ミストリアの眉がピクリと動く。


「へえ……中々どうしてやるじゃないか」


 現在ギルドハウスには色彩の欠いた傭兵団の全メンバーがそろっていた。リーダーのランブルー、自称探偵のミストリア。そしてさっき名前を聞いたばかりだが、ここに始めて来た日に顔だけは見ていたメンバーが三人。大剣使いのドラゴ、治癒魔法使いのエリー、攻撃魔法使いのダスカス。


 それらメンバー全員を前に言う。


「お前らはどうだったんだ? ん? どうした? 鑑定の魔石を譲る決心はついたか?」

「煽るな煽るな。何考えてんのよあんたは!」


 メアリーにみぞおちを小突かれる。

 するとランブルーはテーブルに紙切れを一枚置いてみせた。そこに書かれている文言を俺は読み上げる。


「ん? ……災厄竜エルゴライドの討伐、ランクA+」


 じんわりと額に汗がわく。A+って、一番討伐難度が高い魔物を……? いや、しかし。


「はっはっは! いくら強い魔物を討伐したからって、クエスト一つだけじゃあなあ?」


 すると今度は大剣使いのドラゴが懐から討伐証明書を取り出した。


「死這虫ムルムル、ランクはA+だ」

「へ? ……えっと、依頼者は何人いるんだ、それ」


 誰にともなく尋ねると、ランブルーが口を開く。


「この手の災害級魔物のクエストは災害管理協会っていう十五人の団体が管理しているんだ。だから、二つあわせて三十ポイント。討伐した魔物のポイントをあわせて、計六十六ポイントだ」


 ……!? 災害級ってなんだ聞いたことないぞ。台風とか、地震とか、その手の自然災害と同等ってことか? 魔物が?


 しかし、今はそんなことはどうでも良い。ランブルーは何て言った? 六十六ポイント? ということは──


「は、ははは! ビビらせやがって。つまり俺たちの勝ちってことじゃ──」

「誰がこれで終わりだと言ったんだい?」


 俺の勝利宣言を遮ったのはミストリアだった。彼女の手には一枚のクエスト達成証明書があった。


「私はランブルーたちとは別で行動していたんだ。魔物対峙よりも頭脳労働の方が得意なものでね。……クエスト名『セント・レスペウス号連続殺人事件の解決』、依頼人は船の乗客と乗組員全員。計三十人だよ」


 ……えっと、三十足す六十六は……えっと……あー? ああ、そうか。


「じゃあお前らは五十ポイントくらいか」

「サヌマ、現実をみて」

「……はい」


 メアリーにたしなめられるまでもなく、負けたということは理解していた。


「よーしメアリー、ジン、集合!」


 ハウスの隅に移動して招集をかける。作戦会議である。


「まずいことになった。鑑定の魔石があいつらにとられちまう」

「ねえ、サヌマ」

「なんだ」

「よく考えてみたんだけど、あの子たちに賢者の石が渡るのは私的には問題なかったわ」


 なんて!?


「何を言うんだメアリー!」

「あ、それなら」


 と、ジンがおずおずと手を上げる。


「な、なに」

「僕的には賢者の石が誰の手に渡るかは、正直どうでも良いと言うか」

「この薄情者どもが!」


 良いよもう! なんだよお前ら、チクショウ!


「あーもう良い! じゃあ良いです! 俺が一人で勝手にやりますー!」


 俺はメアリーとジンに背を向け、コツコツと靴を鳴らしてミストリアの方へ向かった。


「おいミストリア、そもそもだな、このクエストって勝負方法はお前たちに有利な方法だよな?」

「君からの了承は得たはずだがね」

「まあ知らなかったからな、クエストのこと! それに討伐依頼じゃなかったからポイントに加算できないだけで、いろいろ魔物とかも倒してんだからな! 俺たちは!」

「で、何が言いたいんだい?」


 スーッと息を吸い、ミストリアへ指を向ける。


「今度は俺の提案する方法で勝負しろ」

「何で勝負するんだい?」

「テキサスホールデム」


 そう言うと、ミストリアは目を見開く。


「……!」

「クエスト勝負で負けている以上、これで俺が勝ってもイーブンだ。だから一つ縛りをつける」

「……縛り?」

「勝負はお前ら全員と一対一で行う。俺の勝利条件は全勝。一回でも負けたら諦めてやるさ」

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