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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第3章 精神の魔石とイカサマギャンブラーズ
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第65話 泥棒たちは遺跡の謎を解き明かさない

「いてぇ……」


 うめき声をあげながら何とか立ち上がると、そこは暗闇だった。何も見えない。何も聞こえない。懐かしさすら覚えそうになる暗闇である。


「無事ですか?」


 ようやく聞こえたのはジンの声だった。姿は見えないが、どうやら右にいるらしい。


「ああ」

「ええ、何とかね」


 左からはメアリーの声。全員無事か。……ふと胸をなでおろす。

 それにしても、このままでは不便だ。


「メアリー、火を出せないか」

「そうね。ちょっと待って」


 すると空中にボゥと薄く火が灯った。やっとお互いの顔を認識する。


「あの、すみませんでした……」


 ジンが目を横に逸らしながら謝罪する。確かにここに落ちたのはジンが何やらスイッチのようなものを踏んでしまったからだ。しかし。


「仕方ないだろ。それに元々ここにたどり着く仕組みだったかもしれない」

「え?」


 首をかしげるジン。そこでメアリーが天井――俺たちが落ちてきた場所を指さした。


「ほら、あそこ行き止まりだったじゃない? 転がる巨石を避けるなら、本来はここに落ちるのが正解だったのかもしれないわ」

「巨石が転がって来るまでずっと一本道だったしな」


 そしてここもまた、一本道のようだ。

 火のおかげで見えやすくなった道の先は、しかしそれでも暗く見えない。


「とにかく、先に進みましょ」


 メアリーの言葉に頷いて足を一歩前へ踏み出し――


「おっととと」


 何かにつまづいたらしく、体勢を崩す。倒れないように踏ん張ったが、その努力も虚しく盛大にずっこけてしまった。


「なーにやってんのよ。新しいキャラ付け? ドジっ子キャラなの?」

「うるせえよチクショウ」


 身体を起こして砂を払う。

 いったい何に躓いたのか。足元に目をやると、何か板のようなものが見えた。その片手に収まる大きさの板切れを拾い上げる。どこか見たことのある液晶、丸いボタン、裏にはレンズのような物体。……これは。


「スマホ?」


 いや、待て。どういうことだ? この世界でスマホを見たことなんて一度もないぞ。

 頭が一瞬で真っ白になる。このスマホが何を意味しているのか、全くもってわからない。


「ちょっとサヌマ? どうしたの? ちょっと言い過ぎた……かしら」

「ん……ああ、いや悪い。何でもないんだ。気にしないでくれ」


 そう言いつつも頭のどこかにスマホがチラついたまま、俺は遺跡の奥へと進んでいった。




 何分くらい歩いただろうか、妙なものが見えて俺たちは同時に足を止めた。


「今度は随分わかりやすい罠ですね」


 ジンの言う通り、それは今までの罠とは毛色が違った。今までただの無味乾燥な経路に過ぎなかったのが、急に文字の描かれたパネルに変わっていた。横に五、縦に十五のパネルが並んでいる。


「どうすりゃいいんだ? これ」

「さあ? とりあえず踏んでみれば――」


 そう言って無鉄砲にメアリーが足を踏み出した、瞬間。ピン、という音と共に彼女の鼻先を矢が掠めた。


「さ、さささサヌマ。これは危険よ」

「分かりきってんだろうが」


 グイ、とメアリーをこちらへ引き戻す。


「考えなしにもほどがあるだろ」

「ご、ごめんなさい」


 やけに素直だ。

 落ち込むメアリーを尻目に俺はパネルへ相対する。


「正しい順番でパネルを踏めば良いんだろうな」

「ですね。ただ、パネルの文字が何を表してるかが分からないと……」


 うーん。何か引っかかる。不自然なことがあったような気がするものの、その正体がわからない。もう少しでのどに刺さった小骨が取れそうなのだが……


「あ」

「どうしました? サヌマさん」

「いや、さっき変な音が聞こえなかったか?」

「音……ですか」

「ああ。メアリーがパネルを踏んだ時に、ピン、みたいな音が」

「あー、確かにそんな音が聞こえたような気がするわね?」


 メアリーがポンと手を叩く。


「矢を射出する音にしては不自然だと思うんだよな」


 そう言いながら、俺は身体を後方へ逸らしつつメアリーが踏んだのとは別のパネルを踏んでみる。すると今度はディンという音が鳴り、矢も射出された。


「鳴りましたね、音」

「だろ? もしかして、パネルの文字は音を表してるんじゃないか? それで何かの曲になるようにパネルを踏めば良いとか」

「でも、何の曲を? そんな都合よく課題曲が書かれてたり」

「するわよ」


 コツコツ、とメアリーが壁を叩いている。その先に確かに課題曲らしきものが書かれていた。


「『扇動者のためのレクイエム』……?」


 聞いたことない、のは当たり前か。この世界の音楽なんて知るはずがない。


「あー、昔歌ったかもです。孤児院にいた時」

「お、マジ? 助かったな」

「でも音階はわからないですね」


 ……マジ?(二回目)


「な、ならメアリーは」


 期待を込めてメアリーへ視線をあーダメです両手でバッテンをつくってます。


「どうしようか」

「どうしましょうか」


 俺とジンはがくりと肩を落とした。どんよりとした空気が身体にのしかかる。のだが、メアリーは知らぬ存ぜぬといった風体だった。


「おいおい、その態度はどういうことだよメアリー」

「だって、別にパネルを踏まなくても良くないかしら?」

「どういう意味ですか?」


 ジンに質問に答えるように、メアリーはスッと右手をパネルロードの先へ向けた。


「こういう意味よ」


 その言葉に呼応するように地面が盛り上がり、パネルロードの奥へと伸びていく。その土が作り上げたのは、まぎれもない橋であった。


「ズルくない!?」

「サヌマの頭が固いだけよ」


 ふふん、とメアリーは得意げな顔を見せる。えー、良いの? これ許されちゃうの? 渡ってみたら矢が次々に射出されるとかあるんじゃないの? 疑心暗鬼になりながら橋に足をのせたが、特に何も起こらない。許されました。クソが。


 パネルロードから先へ進むと数分で開けた場所に到達した。しかしまた、そこにはわかりやすい罠が待ち受けている。いや、罠と言うか謎解きだな、これは。


 目の前には奈落の落とし穴が広がっており、先に進むには掛かっている橋を渡るしかない。しかしその橋はバラバラに配置されており、到底渡れたものではなかった。おそらく仕掛けを作動させることで橋を完成させれば良いのだろう。


「橋のパーツは五つ。……それぞれ別のマークがあるな。そしてこれ見よがしに設置されている歯車。これにもマークがある。おそらく最短手で組み合わさなければリセットされて――」

「ちょっとー。何ブツブツ言ってるのよサヌマ。魔法で橋掛けたから渡りましょ」

「チクショウ!」


 こういう頭使う奴自信あったのに!


 そして例えば水を用いたパズルとか、光と鏡を使った仕掛けとか、その他もろもろの遺跡のトラップを魔法の力でごり押ししていき、特に俺の活躍の場はないまま最深部へとたどり着いた。


「なんか、アレだな。俺とジンだけ別のクエストやってた方が良かったかもな」

「……まあ、そうかもですね」

「え、ちょっと何でへこんでんのよ!?」


 ともかく、後はこの部屋を調べるだけ――と、そこで俺たちは足を止め、それを見上げた。


「おっと、これは」

「中々ヤバそうじゃない」

「こんなの聞いてないんですけど」


 おそらくはこの部屋を守るために設置された存在。この遺跡の最大のトラップ。メアリーに訊くところの「ゴーレム」、それも目測五メートルほどの石の巨人が俺たちを待ち構えていた。

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