第57話 佐沼たちは魔物(弱)を狩る
「ゲホ! ゲホ! オエ……オロロロロロ」
「吐くな吐くな。ちょっと走っただけでしょうが! この……体力なし!」
俺への罵声を吐きながら、メアリーが魔法を放つ。炎はカエルの魔物に直撃し、カエルは叫び声を上げてのたうち回る。炎はじわじわと氷の角を溶かし、数秒後には完全に破壊された。
「た、助かった。メアリー」
「あんたね、危ないなら潜伏使いなさいよ」
「この前死にかけたトラウマが……」
「言ってる場合か! ホントに死ぬわよ?」
まあ本当に死にそうなら使うけどさ……。頭を掻きながら倒した魔物を見下ろす。人間大だった氷蛙は、すでに普通のカエルのサイズまで萎んでいた。
「これがあの魔物とは信じられんな」
そんな感想が口から漏れるが、ジンにもメアリーにもピンとこない感覚らしい。キョトンとした顔が俺を見つめている。
魔物は魔力を過剰摂取した動物であり、角を破壊すれば死に、魔物になる前の身体に戻る。そんな不思議現象には違和感しかないのだが、これがこの世界の常識なのだから当然俺と同じ違和感を抱く人間はいない。
「それで、氷蛙の討伐ランクは何でしたっけ?」
ジンがカエルをひょいと摘み上げて尋ねる。
「F+よ」
メアリーがため息を吐きながら答えた。
草原に風が吹く。どんよりと生暖かい風は、俺たちの気分をより盛り下げた。
「三点ってことか」
「口に出さないでくださいよ、サヌマさん」
ジンが肩を落とす。
「色彩の欠いた傭兵団」との対決、そのルール上氷蛙を倒しても三点しか得られないのだ。
ミストリアが示したルールは点数制だった。点数はクエストをクリアすることで得られ、討伐対象のランク、依頼者の人数(助けた人数)により点数が決まる。魔物の討伐ランクはF-からA+までの十八段階あり、F-は一点、A+は十八点だ。依頼者の人数は一人につき一点。
「ま、これは解ってたことだろ。依頼者はここらの畑を所持してる七人だから、合計十点だ。まあ、悪くない」
そう言うと、メアリーは「うーん」と不満げな声をあげる。
「そうは言うけどね」
その先は言わずとも伝わった。ミストリア達は元勇者パーティー。魔物狩りのプロだ。さすがにA+級の魔物を何体も狩れるとは思わないが、BからCの魔物を討伐していてもおかしくはない。そうなると、今日で十点以上稼いでいる可能性はある。
「ま、まあまあ。まだ二日ありますし」
ジンがメアリーをなだめる。そう、点数を稼ぐ期間は三日。まだ時間はある。
見上げるとすでに日が沈みかけていた。今日達成できたクエストはこれだけだ。依頼者の多いクエストを選んだため、移動に時間がかかりすぎてしまった。
「今日はもう潮時だろ」
「そうね」
「ですね」
疲れた身体に鞭を打って、俺たちはランブルーのギルドハウスに戻る。しばらくの間はランブルーのギルドハウスに寝泊まり出来ることになっているのだ。
翌日は早朝から活動を開始した。まだランブルーたちが寝ている時間にギルドハウスを出る。
「なあ、クエストを探す前に――」
「あ」
俺が言い終わる前に、誰かの声がそれを遮った。声の主はメアリーでも、ジンでもない。声のした方向に視線を向けると、そこに立っていたのは警官だった。女の警官である。長い黒髪が紺色の制服に映えている。
「……ん?」
なんか、どこかで見たような。
同じ違和感をメアリーとジンも抱いたようで、互いに顔を見合わせる。
「何か、もうちょっと、もうちょっとで出てきそうなんだけど」
「私も。こう……喉元まで出てきてるのよ」
「僕もです。絶対に見覚えが……」
もう一度警官を見る。うーん、わからん。でもまあ、この町ではランブルーの仲間として認知されているし、警官と出会っても何も問題は……
「あなた達は……ジン=ノーディンの一味! 今度こそ逃がしません!」
……あれ?




