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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第2章 鑑定の魔石とクライシスマーケット
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第44話 泥棒たちの計画が始まる

「さて、と」


 ミストリアは椅子に深く腰掛け、大きく息を吐いた。

 俺たちは彼女の自室に案内されていた。なんでも、一度ランブルー抜きで話がしたいそうだ。俺たちが賢者の石を狙う本当の理由を訊きたいんだろう。


「まずは君たちの疑問を解消しよう」

 ミストリアが書類の乱雑に散らかった机上から、キセルを取り上げてくわえる。しかし煙は立っていないし、そもそもマッチも使っていない。


「火、つけないんですか?」


 耐えきれなかったのか、ジンが訊ねるとミストリアは何でもない風に「ああ」とだけ答える。


「じゃあなんでキセル咥えてんだよ」


「ん? 私が探偵だからに決まってるだろう? サヌマ君」


 ミストリアが心底意外そうな顔で俺を見るもんだから、俺の方がおかしいのではないかと錯覚する。いやいや、違うよな。おかしいのはこの女だよな?


 メアリーに視線を向けると「こいつやべー」みたいな顔をしていた。よし、大丈夫だ。俺は正常。俺は正常。


「ん? それはどういう顔なんだい? ……まあ良い。さっき君たちに言った『もう指名手配されていない』ということについて説明しよう」


 ミストリアは机から三枚の紙をひょいと持ち上げる。


「これが君たちの手配書」


 それには確かに、俺たちの顔と罪状が書かれている。


「それがどうしたって言うの?」


「まあ慌てないでくれよ、メアリー=バーン。君たち、この町に入ってから手配書を見たかい?」


 俺たちは顔を見合わせる。言われてみれば、見たことはなかった。最後に見たのは、二つ前に滞在していた集落でだ。そのせいで、少し気は緩んでいたかもしれない。


「見てはないです」


 ジンが答えると、ミストリアは大きくうなずく。


「そうだろう。なにせ、この手配書は少し前にすべて回収されたからね」


「な……!」


「そう驚くことでもないよ、サヌマ君。君たちのしたことが、どういう意味を持つのかをきちんと考えればね」


「師匠たちの、したことの意味?」


「難しい話じゃない。元素の魔石は監獄長セッタ=セルルクリが持つことに意味があったのさ。あれはかなりの抑止力だった。犯罪を犯せば、狂った趣味の監獄長に好き放題やられる。しかも彼は賢者の石を持ていると来た。普通の感覚を有しているなら、恐怖を感じるはずだ」


「まあ、そうだろうな」


 監獄の中のことを思い出す。監獄長が現れた時の、奇妙な静寂を思い出す。


「だからね、政府側としては監獄長が殺されて、しかも賢者の石まで奪われているなんて情報を公表なんてしたくないわけだ。それ故に、手配書は取り下げられた」


「ちょっと待ってください」


「お、なんだい? ジン=ノーディン君?」


「それならどうして、最初から手配書を刷るなんてマネをしたんですか?」


「おお、良い着眼点だ。答えはね、凡ミスだよ」


「は?」


 こいつ、また適当なことを言ってるんじゃないか? そう思い、視線が鋭くなる。


「そんなに睨まなくても良いだろう。私はいたって真面目だよ。


 つまりさ、ただの警察にとっては、そんな政府の事情は関係なかったんだ。監獄長が殺されて、しかも賢者の石まで盗まれている。普通は手配書を出すさ。魔力痕を調べればヤッたのは君たちだってすぐに分かっただろうしね。

 で、しばらくして手配書の回収命令が下されたわけだよ」


「じゃあ本当に、俺たちはもう指名手配犯じゃないのか?」


「最初からそう言っているよ、サヌマ君。ただ勘違いしないでね? 君たちは指名手配犯ではないが、秘密裏に警察から追われている。むやみやたらに顔をさらすのは感心しないな」


 まあ、さすがに完全に警察から追われないなんて都合の良い話はないか。


「肝に銘じておく」


「なら良い」

 ミストリアはキセルを一度口から離し、ナーシャに視線を向ける。

「それじゃあ、次のトピックだ。ナーシャちゃん、だったね? これから君の父からモノを奪う相談をするわけだが、問題ないかい?」


 ナーシャにはまだ迷いがあるのか、ためらうような表情を一瞬だけ見せるも、頷く。


「そのために来たッスから」


「そ。それじゃあ結論から言おう。クレストブルク博物館に行くのはおススメしない」


「は? じゃあどうやって盗むって言うんだ」


 俺の抗議など予想済みと言うかのように、ミストリアが笑う。


「落ち着きなよ。何も家に盗みに入るだけが、盗みの常道とは言わないだろう」


「なら、どうしろって言うのかしら?」


 メアリーが不機嫌そうに頬杖をついた。


「簡単さ。出先を襲えば良い」


「スれってか?」


 馬鹿げてる。そもそも館長が出先に鑑定の魔石を持って行くとも限らない。


「だから落ち着けってサヌマ君。都合の良い舞台があるのさ。通称クライシスマーケット、つまり闇市だ」


「や、闇市!?」


 ジンが椅子から立ち上がる。


「随分おおげさな反応だなぁ。行ったことない?」


「ないですよ!」


「あやしいなぁ。まあ良い。とにかく、クレストブルク博物館館長、クリスタ=ハマックも毎月闇市に参加している。当然、掘り出し物を求めてね。

 さてここで問題だ。クリスタは闇市で代理を立てることはあるだろうか?」


 少し考える。


「ないな」


「ほう、その心は?」


「闇市で確実に掘り出し物を買うには、鑑定の魔石とやらが必要だろう。それを代理に持たせるのは俺なら絶対にやらない」


「チッ、正解正解。欲を言えばもっと悩んで欲しかったけど」


 こいつ性格悪いなぁ。


 しかしまあ、これで今後の方針は決まったわけだ。クライシスマーケットに現れたナーシャの父クリスタから鑑定の魔石をスる。そこまで難しい話ではない。ナーシャがいればクリスタの顔はわかるし、俺の技術があればただスるのは簡単だ。


「ああ、そうだ」

 そう言ってミストリアは計画にあることを付け加えた。

「これを勇者ベイズレッドの復活の儀にしようと思う」


 つまりは闇市の存在を衆目にさらすことで、勇者の活躍を彩りたい、という話だった。もともと情報提供と交換条件だったし、異論はなかった。

 



 俺たちは計画の詳細な部分を話し合い、そして、クライシスマーケット開催の日を迎えたのだ。


「ここで、良いんだよな?」


 ミストリアに教えられたクライシスマーケットの開催場所に来たのは俺と、メアリー、ナーシャの三人。ミストリアとランブルー、そしてジンは別行動だった。クライシスマーケット摘発の準備をしている。


「んじゃ、探すか」


 二人をちらと見ると、同時に頷いた。

 まず三人で一緒に行動し、ナーシャがクリスタ館長を探す。見つけたら俺が鑑定の魔石を盗む。盗みが終わったことをジンたちに知らせるために、メアリーが軽い爆発を起こす。簡単な計画だ。


 クライシスマーケットは薄暗い路地で開催されている。滅多に人が寄り付かないような、人目に付きにくい陰気な場所だった。


 その陰気な路地に、所狭しと売り買いが行われている。この場にいる誰もがフードなどで顔を隠していた。俺たちも事前に用意しておいたフードで顔を隠す。


「顔隠れてるけど、見つけられるか?」


「大丈夫ッスよ、師匠。娘ですから」


 なら良いんだが。今さら心配になってきた。

 しかしそんな心配は杞憂きゆうに終わる。すぐにクリスタ=ハマックを発見したのだ。その男はある美術品を険しい表情で見ていた。

 ナーシャを見ると、こくりと頷く。間違いないようだ。


 遠巻きに男を観察する。しきりに指輪を気にしているようで、あれが鑑定の魔石なのだとわかる。

 クリスタの近くに一人の薄汚い男が寄る。どうやらその男も、クリスタが買おうとしている商品を狙っているらしい。……ここらが好機か。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」


 二人にそう告げて、クリスタに近寄る。クリスタともう一人の男は何やらもめているようだ。一つのことに気を取られている時が、一番無防備なのである。


 あと、一歩。一歩近づいて、隣に立ち、よろけた振りをしてぶつかり、指輪を抜き取る。昔やったことがある作業だ。簡単だ。やれる、俺ならやれる。


 一歩、近づこうとした時だった。


 ガン!


 後方で鈍い音が聞こえる。思わず立ち止まり、振り返った。


「……は?」


 目を疑う。

 視線の先で、メアリーが倒れていた。頭から血を流し、地面に伏していた。そしてそのそばに、鈍器を持ったナーシャが立っていた。

 ナーシャは数人の黒服の男と一緒にメアリーをどこかへ連れて行く。気づけば、クリスタの姿も、もうそこにはなかった。


 ただ立ち尽くしている俺の頭の中ではナーシャが最後に言った言葉がリフレインしていた。


「ごめんなさい。……師匠」


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