第42話 探偵は泥棒たちを捕まえる
……バレた。俺たちが指名手配犯だということが、バレてしまった。頭で考える前に勝手に身体が動く。
俺は隣にいたメアリーの手を引いて扉へ駆けた。
「早く来い!」
ジンとナーシャに向かって叫ぶ。何よりも、逃げることが先決だ。
「ランブルー! 逃がすな!」
情報通の女が指示するとすぐに、ランブルーが困惑の表情を浮かべながらも扉の前に立ちふさがる。俺たちの方が速く動いていたのに、何てスピードだ。……魔法か。クソ。
ランブルーと情報通に挟まれる形となってしまった。
さすがに万事休すか? 潜伏を使えば俺だけなら逃げれる可能性もあるが、こいつらを見捨てるわけにはいかないだろう。
いや、俺だけでも逃げるべきか? 全員が捕まれば完全にゲームオーバーだが、俺だけでも捕まらなければ後でいくらでも救出できる。
そう考えて、首を振る。ダメだ。今日はもう、潜伏は使えないんだった。クソ、メアリーと特訓なんてするんじゃなかった。
だが、できる限り可能性は探ろう。
「は! 何のことだかわかんねえな。指名手配犯? 覚え違いじゃないか?」
「無理があるぞ、君。先程の挙動からして、やましいことがあるのは確実だと思うのだがね?」
情報通がじりじりとこちらに詰め寄ってくる。
「ははは。一介の情報通がやけに必死じゃないか。そうまでして捕まえたいのか?」
そう言うと、女はあからさまに不機嫌になった。
「おい、ランブルー。君はまた私のことをただの情報通として伝えたのか?」
女の声が低くなる。
「す、すまんミストリア。その方がわかりやすいと思って」
「私は! 探偵! もう一度言うぞ。た・ん・て・い・だ! 覚えておきたまえ、指名手配犯諸君!」
ミストリアとやらは声高に叫ぶ。これは好機ではないか? 彼女は動揺し、ランブルーも彼女に押されている。隙ができるなら今しかないだろう。
メアリーに目配せをして、魔法を放つよう合図をする。しかし、だ。
「万物を縛る鎖!」
ミストリアが叫ぶと同時に俺たち四人を囲うように光の輪が現れる。それは一瞬で縮まり、俺たちを拘束した。
「な、クソ! どうなって!」
「ちょ、これ高等魔法じゃない!」
俺とメアリーが叫ぶ。
「ふっふっふ。覚えておきたまえ、指名手配犯。優れた探偵とは、同時に優れた魔術師でもあるのだよ」
ミストリアが魔法陣の書かれた紙をペラペラと揺らす。
「放しやがれ」
「そう言われて犯人を放す探偵がいるとでも?」
ニヒルな笑み浮かべる探偵は、しかし少しもの惜しそうな顔をする。
「まあ、すぐに警察に突き出してやるのも勿体ない。少しは話を聞いてあげようじゃないか」
「話?」
ジンの疑問を受け、少しだけ得意そうな顔になるミストリア。たぶん人に何か教えるのが好きなんだろう。
「ああ。警察は犯人がわかるとすぐに逮捕してしまうからね。あまり犯罪者と話す機会には恵まれないのさ」
そう言ってから、頬を膨らませる。
「もっと動機とか聞いて『それでもあなたは罪を償うべきです』みたいなことを言いたいのに!」
ええ……。
俺たちの視線を感じたのか、ミストリアは咳払いをする。
「と、とにかく! 君たちは何をしたんだい?」
「答える義理はない」
プイと顔を逸らす。
「な、なんでだい? 良いじゃないか!」
「嫌だ」
「むむむ」
そう言うとじりじりとまた詰め寄ってくる。そしてじーっとただ黙って見つめるのだ。
「じー」
……。
「じー。じー」
……。
「じーーーー」
~~~!
「何だよ!」
「早く言いたまえよ」
クソ。まあ、別に言ってどうこうなるわけでもないか。
「チッ。脱獄だよ」
「ほお! ちなみにその前の罪状は?」
「窃盗」
「ほうほう! それで? 隣の彼女はどうだい?」
今度はメアリーに話を振った。
「それは……」
「それは?」
「い、言いたくない!」
「むむ」
ミストリアは再び頬を膨らませ、ポケットから魔法陣の描かれた紙を取り出す。
「な、なによ」
「万物を縛る鎖でもうひと縛りいっておくかい?」
ただでさえキツク拘束されているのに、さらに縛られるというのか? こんなので喜ぶのは真正のマゾヒストくらいだ。勘弁願いたい。
メアリーもそれは同じだったのだろう。
「……む、無銭飲食よ」
と、あっけなくゲロってしまう。まあ、言いたくない気持ちはわかるよ。
「あっはははは! 無銭飲食! 無銭飲食で脱獄!」
このように馬鹿にされるのは目に見えているからである。まあ、妥当な反応ではあるな。改めて思うが。
「そこのベイズレッド君似の君は?」
ジンも言い渋るかと思ったが、案外そんなこともなかった。言い渋ってもメアリーと同様に脅されると思ったんだろう。
「……殺人」
「うっわ……。マジ?」
そこは普通に引くんだ?
「そこの幼い君は?」
「脱獄なんかしてないッス」
ナーシャがキッとにらむ。そう。ナーシャは俺たちが脱獄した後に知り合ったのだから、脱獄囚でもなければ指名手配犯でもない。とは言っても、日常的にスリはしていたみたいだが。
「え? 本当に? ……あー、まあ君一人だけ年齢が低いしなあ。もしかして騙されてた感じ?」
ナーシャがちらと俺の方を見た。罪悪感が表情に現れる。しかし俺はそれを責めることはできない。ナーシャはここで自分は騙されていた、指名手配犯とは知らなかったと言うべきだ。
「そういうわけでは、ないッスけど」
? なぜだ? どうして言わない? 逃げるチャンスがあるとしたら、今ここで騙されてたと言うほかないだろう?
頭の中に疑問符が浮かぶ。しかしそれ以上に、ミストリアの方が困惑を示していた。
「あ、あれ? ちょっと待って? じゃあ、君たちは三人組の脱獄囚で? 殺人、窃盗、食い逃げ? え、じゃあもしかして……」
「な、なんだよ」
ミストリアが頭を抱えるのを見て、疑問が上書きされる。こいつは何を言いたいんだ?
「君たち、監獄長殺しか!」
俺たちが外から何と呼ばれているかは知らないが「監獄長殺し」と言われれば心当たりがありすぎる。
俺はメアリーとジンに目を合わせ、それからミストリアに向き直りコクリと頷いた。
「あー。そうか。やっぱりそうなのか」
「なんなんだ、さっきから」
「うーむ。少し事情が変わってしまった。君たちを捕まえるのは人材的に惜しすぎるし、なによりも君たちの事情にある程度察しがついてしまった。私の心情的に、君たちを警察に引き渡すのは極めて遺憾だ」
察しがついた? 本気か? 本当なら、どこまで?
しかしそれを訊こうと口を開ける前に、ミストリアがグイと顔を近づけた。
「君たちと、一つ取引がしたい」




