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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第2章 鑑定の魔石とクライシスマーケット
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第40話 佐沼真は交渉する

「な、なんで……」


 ランブルーは硬直し、それから周囲を確認する。この反応が、勇者がすでに死んでいるということの証左に他ならない。

 勇者が死んだと知っているなら、勇者を名乗る者が現れた時当然、偽物であると考えるだろう。それだけの理屈で考えた思い付きだったが、どうやら正解らしい。


「……俺たちのギルドハウスに来てくれないか」


 周囲に人だかりはないものの、それでもこのレトネーゼは活気盛んな町だ。どこに聞き耳をたてられているかわからない。

 俺は黙って頷いた。


「ちょっと、何を考えてるのよ!」


 ギルドハウスとやらに案内されている最中、メアリーがひじで小突いてきた。


「情報収集だよ」


 ランブルーが先行して歩いているとはいえ、もし聞かれるとまずい。声を小さくする。


「情報は有名人に集まってくるからな」


「何の情報ッスか?」


 ナーシャが小首をかしげる。


「決まってるだろ。クレストブルク博物館とその館長のだよ。情報もなしに盗みに入るわけにはいかないからな。それに――もし盗みに入らないで済むなら、それに越したことはない」


「……どういうことよ?」


「ま、それは後々に」


 無理だったら恥ずかしいしな。

 そうこうしているうちに、でかい建物に行き着く。ランブルーの足が止まったのを見るに、どうやらここがギルドハウスという建物らしい。三階建てで、横に長い。

 ランブルーが扉を開ける。


「入ってくれ」


 足を踏み入れると、そこはロビーのような場所になっていた。いくつかのソファーにバラバラに座っていた三人の男女が一斉にこちらに視線をよこす。


「嘘……」


 その中のいる一人、杖を持った女がそう呟いた。しかしランブルーは何かを否定するように大きく首を振る。


「そう」


 腰を上げかけていたその女は、再びソファーに深く腰掛けた。


「どうして連れてきたんだ?」


 この場にいる中では最年長と見える男が立ちあがる。ジンよりもでかい印象を受けるのは、おそらく筋肉量の違いからだろう。ごつい。それに尽きる。


「いやー、それが……」

 ランブルーは言いにくそうに目を伏せるも、すぐに向き直っておとぼけた仕草で頭を掻いた。

「バレた。あいつが死んだの」


 静寂。しかしそれは長続きしなかった。三人は同時に目を丸くした後、これまた同時にこう叫んだ。


「なんでそうなる!」


 三人は一斉に立ち上がってランブルーに詰め寄ってくる。


「お前あれか? また余計なこと言ったんか!」


「あんたホントに、何してんのよ!」


「馬鹿なのか! 馬鹿なのか!」


 三人の追求にあわあわと圧倒されていたランブルーは、なんとか言葉を発する。


「ちが、違うんだ! 俺は何も言ってないんだよ!」


「そんなわけないだろ!」


 入った時大きい反応を示した女とは違う、ちっちゃい女が声を大きくする。それを見てランブルーは助けてくれとでも言わんばかりに俺を見てきた。まあ、仕方ない。俺がまいた種みたいなものだしな。


「あー、ちょっと良いか?」


「何?」


 ちっちゃい女がキッとにらみつけて来る。


「本当にこの人には落ち度はなくてさ。俺が思い付きで言ってみただけなんだ。それで……」


「そんなことあるか?」


 最年長の男が疑問を呈する。当然と言えば、当然の疑問かもしれない。


「あー、一応簡単な説明くらいならできるけど、する?」


「どうでも良いわ」


 杖を持った女が静かに、けれど力強く拒絶する。


「そんなことより、あなたは何がしたいの? 探偵でもしてくれるのかしら?」


 探偵、ときたか。こりゃ勇者は事故死とか魔物に殺されたわけではなさそうだな。しかし、そんなことは俺としてもどうでも良い。


「なに、ちょっとした交渉ができるんじゃないかと思って言ったんだ」


 そう言うと三人の目が細くなる。ついでにジンも。いや、確かにお前に半ば脅しみたいなことしたけど、今回は違うから。そういうのじゃないから。


「まあ、とりあえず座ってくれ。立ちっぱなしじゃあれだろ?」


 ランブルーに促されるまま、俺たちは空いているソファーに腰かけた。一つのソファーに俺、メアリー、ジンの順で座るとソファーひとつはいっぱいになってしまったので、近くの一人用の椅子にナーシャが腰を掛ける。

 俺たちとちょうど向かい合う位置にあるソファーに、ランブルーたちが座った。最年長とみられる男はその後ろで腕を組んで立っている。……圧力がすごい。なんだか怖くなってきた。


 おもむろに、ランブルーが口を開く。


「それでサヌマ、どうしてあんたは『勇者は死んでいるのか』なんて聞いたんだ?」


 繰り返しになるが、これは俺がどうしてその事実に思い当ったのかをいているわけではない。彼、いや彼らが聞きたいのは俺の目的だろう。

 これから話す内容を頭の中で軽くまとめ、一つ息を吐いた勢いにまかせて話す。


「あんたら、勇者が死んだことは隠してるんだよな?」


 町の人間の反応を見れば一目瞭然(りょうぜん)だ。彼らは勇者が死んだことを知らない。それなら、こいつらが勇者の死を隠しているのは自明だ。

 想像通り、面々が頷く。


「なんで隠しているのかは知らないが、良かったら勇者が生きていることを周知させるために協力してやろうかと思ってな」


 ……。反応が鈍いな。そう思っていると少し間を空けてからランブルーが口を開いた。


「どういう意味だ?」


「どういう意味も何も、あんたらにとって勇者が生きてるって証拠をこの町の人間が見ることは、都合が良いんじゃないか?」


「そりゃあ、まあ……」


「だからそれに協力してやるって言ってるんだ。ここには勇者クリソツの人間がいるからな」


「ちょっとサヌマさん!」


 横からジンが抗議の声を上げる。ジンと視線を合わせ、「すまん」と両手を合わせる。ジンは不満そうな顔をしながらも、上げかけた腰をソファーに落ちつけてくれた。


「それをする理由はなんだ?」


 最年長の男が怖い顔で尋ねる。毛ほども信頼されていないらしい。


「勿論対価はもらう」


「対価?」


 男の顔が一層怖くなる。


「ああ。情報をもらいたい。俺たちはある目的のためにこの町に来たんだが、それに関する情報が欲しいんだ」


 そう言うと、ランブルーたちは互いに顔を見合わせた。しばらくして、ランブルーが代表して口を開く。


「うちのギルドにも、情報通はいる。そいつに情報を提供させるってことで良いなら」


「構わん。助かるよ」


「待って!」


 杖を持った女がソファーから立ち上がる。


「何か、隠してない?」


 何かを見通すように、女は俺の瞳をにらみつける。最年長の男と同じく、俺を信用できないのだろう。


 そしてもちろん、隠していることはある。


 第一に、これは公平な取引ではない。俺たちは勇者一行を名乗るだけでメリットがあるのだ。潜伏魔法を心置きなく使えること、勇者はそれだけで恩恵を得られること、そして情報は有名人のもとに集まってくること。普通なら対価は要求できない。


 第二に、俺たちが犯罪者だということだ。こいつらは気付いていないようだが、バレたらこの要求は拒絶されかねない。


 しかし隠していることを「実は隠していました」と言えるならこの世界から欺瞞ぎまんは消滅していることだろう。

 俺は女の瞳を見つめ返し、堂々と言った。


「何も」


 沈黙。それに耐えかねたように、女はため息を吐きながらソファーに腰をうずめる。

 取引は成立、ということで良いだろうか。


「じゃあ何をするかはあんたらで決めておいてくれ。あと情報提供もよろしくな」


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