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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第2章 鑑定の魔石とクライシスマーケット
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第36話 ジン=ノーディンを見間違う

 いや、待てよ?


 再考する。店の中で悲鳴が聞こえたとしても、関係はないのではないか? 店の中で起きた問題はあくまで店の問題なのであり、俺が関わる理由は全くないじゃないか。


 危ない危ない。この世の問題すべてが自分に関係するような錯覚を起こすところだった。思えば盗みに入った屋敷での出来事も、盗賊を制圧したのも、魔物との戦闘もすべて俺がそうするべき理由があったじゃないか。

 こんな店のトラブルにまで首を突っ込もうなんて、いつそんなに偉くなったんだ?

 全く、呆れてため息が出る。


「おらおら、俺はお客様だぞおい!」


 どうやら悲鳴の原因は迷惑な客によるものらしい。魔法をぶっ放して店員を困らせているようだが、俺には全く関係ない。さて、何を注文しようかな。


「あ」


 ジンが小さく息をこぼす。ついでに水もこぼしていた。ジンの手からグラスが離れ、向こうへ飛んでいったのである。

 パリン!


「い……てえなあ!」


 迷惑客にグラスがクリーンヒット。坊主頭から血が流れている。


「なあ、ジン君」


「何ですかサヌマさん。君付けなんてやめてくださいよ」


「いやいや。ねえ、なんでこうなるのかな?」


「……すみません」


 どうやったらグラスがすっぽ抜けてあいつに当たるんだよ。わざとか? わざとなのか? ……なわけないよな。ジンの悪運がなせる技でしょうね、はい。


「無視とは良い度胸じゃねえかおい!」


 迷惑客は俺たちのテーブルに近づいてそう吐き捨てる。

 どうするべきだろうか。話し合いで、と言うか言葉巧みに言いくるめられたらそれに越したことはないだろうが。


 ……男の様子を見るに無理そうだな。


 メアリーに視線をやる。彼女は軽くうなずき、すぐに行動を起こした。


「あっつ!」


 男の鼻先に炎が掠める。彼はのけ反り、体勢を崩す。なんか、監獄にいた時の俺を思い出すな。


「てめえか女! 舐めやがって!」


 怒りに火を注いだ形となるが、もはや関係はない。男は立ち上がり魔法を打とうと構える。そして何やら詠唱をはじめるが、それはあまりに遅すぎた。メアリーの放った炎弾が男の腹部を直撃し、その衝撃で男は壁まで吹き飛ばされる。

 テーブルやら何やらも壊れてしまっている。ちょっとやりすぎな気もする。


「クソ、なんだよ、お前ら……」


 男はかろうじて上体を起こし、憎らしそうに俺たちをにらみつける。


「ただの観光客さ。お前はその観光客にやられたんだぜ?」


「サヌマは何もしてないでしょ……」


 すると男は力尽きたように倒れた。すぐにドタバタと店員が駆けつけてくる。


「あ、ありがとうございますお客様」


「いえ、当然のことをしたまでです」


「私がね! 私が! 君は無視しようとしてただろ! ……あ、それより、テーブルとか壊しちゃって……」


 シュンとするメアリーに、店員のお姉さんは優しく声をかける。


「気にしないでください。これくらいの被害で済んでむしろありがたいくらいです。本当にありがとうございました。よろしければ何か一品サービスを……」


 そこで店員が言葉を止める。何か珍しいものでも見たかのように眼を見開いていた。その視線の先にいたのは、ジンである。


「あの、もしかして、あなたは」


「え? 僕ですか?」


「はい。あの、勇者様ではないですか?」


 ……………………は?


「え、いや、僕は」


「いえ、間違いありません。勇者ベイズレッド様ですね!」


 はあああああああ?


「ゆ、勇者様!?」


「勇者様の仲間ならこの強さも納得だ」


「まさか戻ってこられていたなんて!」


「大変だ! みんなに知らせねえと!」


 ぞろぞろと客も他の店員も集まってくる。まさか本当にジンは勇者……いや、な

いな。俺を見てぶるぶる首を振っている。

 そりゃそうだ。勇者なんて呼ばれる人間が片田舎の監獄にいるわけないよな。まして監獄長を殺して元素の魔石を奪い、脱獄まで果たすとか、そんな極悪人のわけないか。ま、俺が計画したんですけどね。


「勇者様どうぞこれを。こちら当店自慢の一品になっております。お代はいりませんから」


「いや、そんな悪いですよ」


 ジンが遠慮するも、店員はグイグイくる。


「悪いだなんてそんな! どうか召し上がってください! ささ、お仲間の皆さんもどうぞ!」


 それから次々と料理が運ばれてくる。テーブルは皿でいっぱいだ。すべての料理が運ばれた時には少し騒ぎも落ち着き周りから人もはけていたのだが、未だに視線を感じる。遠慮もなしにガン見してくる。なんだこいつら。


「すごいなー。勇者様のお力は」


 ニヤニヤしながら言うと、ジンは小声で反論してくる。


「だから! 違うって言ってるじゃないですか!」


「いやいや、何をおっしゃいますかベイズレッド様。ご威光マックスじゃないですか」


「や、やめてくださいよ」


 にしても、ジンが勇者ねえ。まあ体格はでかくて勇者向きではあるけれど。

 と言うか、勇者なんてRPGなシステムがあるとは驚きだ。昔、一度だけやったゲームのことを思い出す。まあこのレトネーゼに限って言えば、あの世界観からは遠く離れているけれど。


「ところで勇者がいるってことは、魔王もいるのか?」


 尋ねるとメアリーは怪訝な顔で見つめて来る。


「魔王? なんの話よ。……あ、まさか勇者が何か知らない?」


 どうやら勇者とは、俺の知る勇者の定義とはまた異なるものらしい。素直に頷いて説明を頼んだ。


「勇者は魔物を狩る特別な力、ギフトを得た人間のこと」


「ギフト?」


「師匠は本当に何も知らないんスね。記憶喪失?」


「ほっとけ」


 出された料理をつまみながらフッと鼻から息を出す。……うまいな、この料理。


「はいはい。で、ギフトって言うのは、まあそうね、才能って言えばいいかしら。ただ才能と言っても、常識ではありえないくらいの才能ね。そういう特別な力を持って生まれる人間が何人かいるわけ。

 で、魔物を殺すのに特化したギフトを持っている人のことを勇者と呼んでいるわけね。だから勇者ってのは俗称よ」


「ほーん。じゃあ何人か勇者はいるわけだ」


「そゆこと」


 メアリーはそう言って料理に箸を伸ばした。たいそう美味そうに食っている。それにつられて俺も……。あれ?


「なんか随分と料理が減ってないか?」


 話に夢中で気づかなかったが、あの大量にあった皿の半分が消えている。ジン、ナーシャ、メアリーの順で顔を見回した。


「僕じゃないです」


「わたしでもないッスよ?」


「私もたいして食べてないわ」


「メアリー、ダウト」


 明らかである。なぜ騙せると思ったのか。


「ち、違うわ! 本当にそんなに食べてないの!」


「料理を口に運びながら言っても説得力がないんだよ、お前は! それでそんなに食べてないって、胃袋どうなってんだ!」


「だ、だってえ。お腹減ったんだもん」


「お腹減ったんだもん、じゃない。かわい子ぶりやがって。食べてる量は全然かわいくないんだよ」


「まあまあ。まだ全然残ってますし」


 ジンがなだめてくる。


「……ま、そうだな」


 考えれば半分は残っているんだ。そうカッカすることでもない。俺は一つ揚げ物に手を伸ばす。香ばしいタレのかかったそれを頬張る。


 ……! なんだコレは。外はカリッ、中はとろーり、かと思いきやさらにその中にカリッとした触感、またまたその後に今度はふんわり。口の中が様々な触感で洪水を起こしている。これが魔法料理か。確かに魔法でも使わなければ再現できそうもない。


「ちょいちょーい。サヌマー?」


 おっと。随分と感慨にふけっていたらしい。メアリーが顔の前で手を振っている。


「ほら、あの話しなきゃでしょ? 大丈夫?」


「あの話?」


 なんだっけ。


「珍しいわね。そんなに美味しかった? ほら、鑑定の魔石について、知りたいんでしょ?」

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