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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第2章 鑑定の魔石とクライシスマーケット
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第27話 泥棒は泥棒を捕まえる

 こんな真昼間から入る空き巣に、勝算はない。いや、もちろん入ることはある。むしろ夜の方が危険だったりもするが、俺が言いたいのはそもそも空き巣と定義できない場所に、こんな昼間に入る意味が分からない、ということだ。


 それでも、侵入者がいるというのは事実。俺は急いで屋敷の外周を走る。少ししてすぐに、侵入口が見つかった。


「チッ。やってくれたな……!」


 窓ガラスが割られている。これだけで警備が強化される可能性があるが、万全は尽くすべきだろう。


 割られた窓から身体をぬるりとすべり込ませる。そのまま屋敷の中へ落ち、軽く受け身を取った。


 さて、先ほど見た泥棒がいたところはどこだろう。頭の中で地図を描く。……だいたいこっちか、と当たりを付けれた。息をひそめながら移動する、

 探索時間はほんの数分だった。廊下の曲がり角の先に、人影が見える。屋敷の住人としては明らかに不自然な立ち振る舞い。先程の見た泥棒と考えて間違いないだろう。


 幸い、泥棒の向いてる方向は俺の立ち位置とは逆。つまり、俺は奴の背後を取れている。


 ――潜伏


 これで気配を察知されることもない。

 泥棒は黒ずくめの服装で、身体は細身である。監獄でのプリン争奪戦で戦った屈強な男とは違って、俺でも組み伏せることは出来そうだ。とは言っても、俺も今まで肉弾戦を経験してきたわけではない。そうやすやすと上手くはいかないだろう。 

 今までであれば、だが。

 

 ――ここで腕をつかんでください。そうです


 ジンによるレクチャーを思い出す。

 少し生活が安定してきた時のことだ。これからのために、少しはこの世界で戦えるようになりたかった。そこで俺は、まずメアリーに魔法を教えてくれないかと頼んだのだ。しかし。


「そんな一朝一夕に身につくもんでもないわよ? それに、初心者はたいてい魔石を使うのが一般的。今は手持ちがないわね」


 なにせ、メアリーは天才だから魔石なんて持ち歩かないらしい。当然、元素の魔石はデメリットがあるから一日にそう何度も使うものではない。


 そこで、ジンに護身術を習うことにした。


「護身術、ですか?」


「ああ、何かないか? あんた、ずっと囚人のボスの真似事やってたんだろ? 荒くれ者の戦い方とか、わかるんじゃないか?」


「まあ、僕なりにで良いなら」


 というわけで、ジンから護身術を教わることになったのだ。


「あー、でも、たぶんサヌマさんならもっと簡単なのがありますね」


「ん? どういうことだ?」


「ほら、サヌマさんは潜伏が使えるじゃないですか。それをうまく活用したら、ある程度屈強な男でも組み伏せられますよ。……たぶん」


「ちょっと自信ないのかよ」


「いやー。僕自身ができるわけじゃないですし」


 ――まず潜伏した状態ですぐ後ろまで近寄ってください


 俺は泥棒に近づく。


 ――次に相手の左肩に右手をかけて、右足で相手の左足を払います


 潜伏、解除。


 ――相手がバランスを崩したら、肩に置いた右腕で力ずよく地面に押し付けます


「え?」


 泥棒の素っ頓狂な声が聞こえた。体制が崩れる。右腕で、思い切り。


 ――そうすれば大抵の相手には馬乗りになれます。ここからは、サヌマさんの独壇場です


 泥棒は唐突に現れた俺にひどく混乱している様子だった。まして気づけば倒れ、馬乗りにされているのだ。無理もない。


 それを好機と、泥棒の腕をつかむ。腕を背中側に持っていき、これ以上曲がらないところまで曲げてやる。


「いったたたた」


「うるせえ、静かにしろ」


 気付かれるだろうが。


「な、なんだよお前」


 俺は深く息を吐き、できるだけ声を絞って男に語り掛けた。


「良いか。今すぐ諦めてここから出ていけ。そうしたら見逃してやる」


「は、はあ? それってどういう」


「あんま声を荒げるな。屋敷の人間に気付かれたくはないだろ?」


「……お前は、屋敷の人間じゃないのか?」


 泥棒の声音が変わる。


「そうだ。だが、お前がこの屋敷に侵入したという事実は不都合なんだよ。良いから出ていくと、それだけ言えば良い」


「……ダメだ」


「はあ?」


 見逃すって言ってるんだぞ? お前はもう詰んでるだろ? 泥棒は誰かに見つかった瞬間ゲームオーバーなんだ。わかってないのか? そう言おうと口を開けるが、それをさえぎるように泥棒が言った。


「今日しかないんだ」


「おいお前、何を言って……?」


 泥棒の身体に力が入る。


「うおおおおおおおおおお! 離れやがれええええええ!」


「あ、お前そんな大声を」


 それから瞬く間にどこかの扉が開く音がした。誰かがこの事態に気付いたのだ。まずい。非常にまずい。


 どうする? ここから逃げるか? いやしかし、すでにこの屋敷のあらゆる場所から誰かが駆けつけてきてもおかしくない。その状態で誰かに見つかったらアウトだ。

 潜伏を使うか? いや、ここでそれは得策ではない。潜伏という魔法はどうやら相当に特異なものらしい。そもそも存在すら想定されていないほどに、だ。

 潜伏を解除して唐突に現れる、くらいならまだ「不注意だった」で説明がつく。しかしここで潜伏をすれば、その姿を最低一人に目撃されることになる。それはまずい。できれば潜伏については、噂にすらなってほしくない。

 だがこのままでも時間の問題。どうする? どうするのが正解だ?


 問、見つからずにここから庭へ出るにはどうすれば良いか?


 今まで見つかったことなどない俺には、難しい問題だ。 逡巡しゅんじゅん刹那せつなの思考。それでも脳は正解をはじき出す。


 答、見つからないという前提を捨てる


 ……これだ。幸い、外の警備員さんは俺がボールを追ってこの屋敷の外をうろついていたことは知っている。あとで説明してもらおう。


 俺はこの場でじっとするという選択を取ることにした。


「クソ! クソ! 離しやがれ!」


 泥棒の抵抗を必死で抑える。そうしているうちに、屋敷の人間がやって来た。


「だ、誰だ! お前ら!」


 やって来たのは金髪の男。しかし不良のような粗暴さはなく、貴族様らしい風貌である。服も相当に上等なものらしい。


「く、クソ……!」


 ついに泥棒が力を弱める。


「お前は……」


「ああ、ああ。お前はあああああ」


 何か合点がいったかのように呟いた屋敷の男に、泥棒が激昂する。泥棒は力を弱めていたので、ついつい油断していた。俺の身体がついに泥棒にはねのけられる。


「うおおおおおお」


 泥棒が屋敷の男に殴りかかった。かなり大振りだが、当たってもさほどの威力もないだろう。それでも、その拳が男に傷をつけるのは許されなかった。屋敷の男の後ろから、追いついた勢いのまま黒服の男が飛び出てくる。


 一瞬で、泥棒は黒服に抑えられる。鮮やかな体技。俺の付け焼刃などかすんでしまうほどだった。


 身動きが取れなくなった泥棒に、屋敷の男が近づく。


「君は、このまえ絵画を譲ってくれたところのご子息だね。どういったご用件かな?」


「何が譲っただ! お前らは家宝を奪ったのだ! だから私は、それを奪い返しに来た!」


「はっはっは、何を言うかと思えば。ちゃんと合意のもとだったはずだよ?」


「お前らが、合意せざるを得ない状況にしたんだろうが……!」


 屋敷の男は、やれやれとわざとらしいため息を吐く。


「連れて行きなさい」


「はい」


 男の指示で、黒服が泥棒を連れ去る。最後まで、泥棒の恨み節は屋敷に響いていた。

 そしてその呪詛さえ聞こえなくなってから、屋敷の男は視線を俺へと向ける。


「君は、誰だ? なぜ、あの男を押さえていた?」


「説明を、させてくれませんか? できれば、外の警備員さんと一緒に」


 俺はとびきりの作り笑顔で、そう言った。

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