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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第1章 元素の魔石とプリズン・ブレイク
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第16話 ジン=ノーディンは知っている

view point――ジン=ノーディン



 それは、灼熱しゃくねつの球だった。


「死ねぇ! ジン!」


 僕の名前を叫びながら魔法を放つのはメアリー=バーン、僕がただ悪運の強いだけの男であるという秘密を知る一人である。


「ふん!」


 僕はバーンさんの放った火の魔法を振り払う。だんだんと周りが騒がしくなってきた。この作業場で僕とバーンさんが戦っていることが広まりだしたのだろう。


 右、左、右、右、上、下、上。


 バーンさんは構わず僕に同じ魔法を連打した。僕は魔法を使えないが、体格には恵まれている。手で払うことで魔法を打ち消せることに、違和感はないのだ。


「へえ、やるじゃない」


 バーンさんが余裕の表情で語りかける。


「それで本気か?」


 負けじと僕も挑発を試みる。 


 僕はそのまま近くにあるビンを手に取り、バーンさんに向かって投げつけた。クルクルと綺麗に回転しながらビンはバーンさんへ飛んでいく。

 それがバーンさんに届く前に、大きな炎がそれを包んだ。一瞬視界が赤く染まる。すぐに破裂音が木霊した。


「や、やべえぞ」

「ついにジンさんとクソ女が」

「看守に知らせないと」


 周囲にいた囚人たちが口々に騒ぎだした。


「本気か、なんて言ってくれるじゃない!」

 彼女は掌を前に出す。

「炎熱の鳥よ、その羽を散らし、駆け巡れ」


 バーンさんの詠唱が作業場に響く。瞬間彼女の頭上に炎に包まれた鷹のような鳥が現れる。熱い。まだ現れただけだというのに、部屋の温度が急激に上昇している。その鳥が、僕を目がけて飛んできた。鳥は火の粉を周囲に巻き散らしながら直進する。


「はああ!」


 僕は力を込め、拳を正面に打ち出した。風圧が発生する。それに押されたかのように火の鳥は上へ進む向きを変え、滞空たいくうする。


 すると火の鳥は翼を大きく広げ、羽ばたいた。火でできた羽が宙を舞い、その無数の火の粉が針のような形状に変わり襲ってくる。

 

 危機感を抱いたのか周囲で物見遊山ものみゆさんを決め込んでいた囚人たちも悲鳴を上げて方々《ほうぼう》へ散っていく。しかしそれでもこの作業場から出ようとはしなかった。皆、刺激に飢えているのだ。


 見るとバーンさんは火の鳥を見つめるばかりで何もしかけてこない。火の鳥を操るだけで精いっぱいなのだ。これはチャンス、に映る。


「どうした? お前は直接攻撃しないのか?」


「う、うるっさい!」


 鳥が再び僕の方へ向かってくる。直進。それ故に軌道は予想しやすい。

 

 僕はそれを軽々と避け、バーンさんとの距離を一気に詰める。そもまま拳を繰り出した。しかし回避。その結果、火の鳥は姿を消す。彼女の集中力が切れたのだ。

 しかしそれでも僕は手を緩めなかった。連打、連打、連打。彼女に余裕を与えない。


「クソ!」


 バーンさんが横に炎を放つ。その炎の噴射を勢いに変えて横に退避したのだ。しかし僕もそれから目をそらさずに追撃を試みる。バーンさんが向かった方向へと詰め寄る。そして足元に、()()()()()()()


「トラップ……!」


「燃え上がれ!」


 バーンさんがそう唱えた瞬間に魔法陣から炎が湧き上がる。僕はとっさに後ろに倒れ込み、なんとか命をつないだ。


「やるじゃない」


 バーンさんが余裕の表情で、全く同じ挑発をする。しかし今度の意味は、以前のとは違う。明確に、強者の立ち位置からの挑発。


「うるせえ!」


 僕は立ち上がり、地面を蹴る。高く飛び、バーンさんに一発蹴りを決めに行った。


「なななななにをしているんだお前らあああ!」


 来た! 扉の所に看守が一人立っている。僕は狙いをバーンさんからその横にあるぼろい机に変える。


 メリッときしむような音をたてながら机が二つに割れた。バーンさんは火の玉を看守の隣に置いてある安物の絵画に放つ。


「ああああああ水水みずううう」


 看守は取り乱し、「緊急連絡、緊急連絡!」と叫ぶ声と共に作業場を後にする。

 これで一応の目的は達成したことになる。僕とバーンさんの目的は、刑務作業の時間に看守を引き付けておくことだ。


 この監獄で最も看守の視線が厳しくなるのは午前と午後の刑務作業の時間である。この監獄がいかにゆるゆると言えど、数人の看守が仕事をさぼる程度で刑務時間は見張りをすることが多い。したがって作業に参加していない人間がいれば、さすがにばれてしまうのだ。つまりサヌマさんが監獄長を探っているのがばれてしまうというわけだ。


 そこでサヌマさんは僕とバーンさんに看守たちを引き付けるアクションを起こすように指示した。戦闘である。これまでの戦闘は綿密に計画したものだ。そうでなければバーンさんとここまでやりあうことはできない。


 事前に火の玉を飛ばす方向は教えてもらっていたし、バーンさんは僕が手で払うのに合わせて火を消している。火の鳥に拳を突きだしたときは火の鳥自身に風圧を発生させていた。魔法陣に飛び込んだのもわざとだ。そもそも突発的に起こった戦闘でトラップが仕掛けられているなんておかしな話である。


 看守が来て増援を呼んでいるようなので、後は適当に暴れれば良い。バーンさんはそこら中に火の玉を放ち、僕ば威圧感をかもし出しながら適当な囚人ににらみを利かした。作業場は混乱に陥り、何人もの看守が駆け付ける事態へ発展した。


 とりあえず一息付けそうだが、午後にもまた別のアクションを起こさなければならない。サヌマさんは上手くやっているだろうか。


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