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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第1章 元素の魔石とプリズン・ブレイク
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第15話 佐沼真は性格が悪い

「あ、あはは」


 扉の隙間から顔を出して頭をいている青年がいる。金髪、かき上げられた前髪、鼻のところにある切り傷。見間違いようもない。そこにいたのはジン=ノーディンだった。


「ジン君……!」


 メアリーが呟く。


 この場所、つまりは俺とメアリーが脱獄と元素の魔石強奪の話し合をする場にジン=ノーディンがいるというのは、どう考えてもまずい。しかしそれでも、彼がジンであったことは幸運だったと、俺は胸中でほくそ笑んでいた。


「あの、脱獄とか、賢者の石を奪うとか、聞こえちゃったんですけど。……冗談ですよね?」


 すでにジンはいつもの擬態ぎたい、囚人のボスとしての皮を脱いでいた。そこにいるのは気弱でちょっと運が悪い、いや悪運が強いただの青年である。


「冗談よ、ジン君」


 メアリーがまっすぐに言う。あまりにも大胆な嘘に俺は目を見開いた。さすがに嘘が下手すぎるだろう。そしてジンもこのような嘘に騙されるほど馬鹿ではないようだ。


「えっと」


 と、俺とメアリーを交互に見やる。


「諦めよう、バーン」


 この状況で嘘を吐き通すのも困難だし、何よりも盗み聞きをされた時点で俺たちの確認不足であり敗北なのだ。


「諦めるって……」


 メアリーが俺に視線を向ける。


 そう、諦めなければならない。俺たちが賢者の石の奪取、および脱獄を画策していることをごまかすことはできない。その一点において、俺たちは諦めなければならないだろう。

 

 しかし、だからと言って計画自体を諦めるわけではない。知られてはならない情報を知られてしまった場合、それをカバーする手段は少なくないのだ。


「君、今すごい悪い顔してるよ?」


 メアリーに指摘され、俺は意識して表情を元に戻す。確かに悪いことを考えてはいるが、あくまで平和的な解決を目指したものだ。そこは誤解しないでもらいたい。


「なあ、ジン」


「は、はい?」


「君は濡れ衣を着せられたらしいね?」


「え、まあそうですけど」


 確かジンの罪状は殺人。カスカナの虐殺とかいう事件の犯人らしい。しかしこの間の一件で彼はそれを否定していた。


「ならここから出たいとは思わないか?」


 そう言うと、メアリーも俺の意図に気付いたようだ。


「サヌマ、君はまさか」


「ああそうだ。ジン、あんたに賢者の石の奪取と脱獄を手伝ってもらいたい」


「え、えええええええええ」


 ジンが後ろに飛びのきそうな勢いで驚いてみせる。俺は慌てて彼の口を手でおおう。


「バッカ、大声を出すな」


「ほ、ほへんははい」


 ごめんなさい、と言っているんだろう。


 ジンが落ち着きを取り戻すまで待ち、それから手を放す。


「はあ……。そんなに驚くことでもないだろう。ジン」


「いやいやいや、無理ですよサヌマさん。無理無理無理!」


「そう言うなよぉ。な? 悪い条件じゃないって。こっちにはちゃんと勝算もあるんだ」


 俺はジンの肩に腕を回す。


「いやでも」


 まあ、ここで拒絶されるのはまだ想定内だ。すぐに首を縦に振っても逆に信用ならないというものだろう。


「……バラしちゃおっかな」


 と、俺は呟く。その瞬間ジンの顔から血の気が引いた。


「な、なにを?」


「……さあ?」


 明らかにジンの顔が引きつる。当然、俺の意図を察したのだろう。ジンには明らかに弱みがある。ジンがここのボスをするだけの実力がない、ということ彼は隠しているのだから。


「脅しですか?」


「いや、ただの独り言だよ? でも俺たちが何か企んでる、みたいな噂を聞いてしまったら、それに対抗して面白い噂話を流してしまうかもしれないなと思っただけだよ」


「そんな」


 ジンがすがるような眼で俺を見る。……そんな眼で見ないで欲しい。

 それでも俺はやめない。これ以上のこともやってきたんだ、今さら引き下がれるか。


「どうするんだ? 秘密をバラされて囚人どもからリンチされるか、俺たちに協力して自由を手に入れるか。()()()()()()


 二つに一つ。その部分を強調する。よくある詐欺の手段だ。この二択以外に選択肢はないのだと錯覚させる。


「うぐぐ、わ、わかりましたよぉ」


 ジンが力なくうなずいた。

 情報がれた時、その情報を知った人間を共犯にする。失敗の効率的なカバー方法の一つである。

 俺はもう一度ジンの肩に手をかける。


「よろしくな、ジン=ノーディン」


「君、だいぶ性格悪いな」


 メアリーの小言は気にしないことにする。




「え、それ本気で言ってるんですか?」


 ジンが若干引いたような顔で言った。

 俺はジンにこの世界に来てからこれまでの簡単な筋書きを話したのだ。「協力してくれるのだから隠し事はない方が良い」とはメアリーの談である。確かに潜伏魔法を前提にした計画なんだろうし、情報の共有は必要ではあるが……、まあこんな顔されるんだろうな思ってたよ。割とすんなり信じたメアリーの方がおかしいのだ。


「どうやら信じてないみたいね。サヌマ、あれを見せてやりなさい!」


 なんでメアリーが得意げに言うのかはわからないが、俺は言われた通り潜伏魔法を発動させる。


「……へ?」


 おそらくジンの視界から俺の姿が消えたのだろう。ジンはキョロキョロと周囲を探り始める。

 しばらくしてから俺はジンの目の前の姿を現した。


「うおっ!」


 突然現れた俺を見てジンが尻もちをつく。こいつ本当にあのジン=ノーディンなのか? 今でも疑問である。今日取り巻き立ちにヘコヘコされていた男とは別人だろこれ。


「これが女神からもらった能力、潜伏だ」


「す、すごい。手品みたいだ」


 ジンの純粋な呟きにショックを受ける。そうなんだよ、手品止まりの能力なんだよ。


「信じてもらえたか? ジン」


「そう、ですね。まだ少し疑ってはいますが、だいたいは」


 なら、まあ良いだろう。メアリーも納得のはずだ。


「じゃあ具体的な計画についてだが」


 と、俺はメアリーに視線を送る。


「ええ。やっぱりまずは監獄長の一日のスケジュールを把握する必要があると思うの。それを潜伏魔法が使えるサヌマにお願いしたいわ」


 まあ一日三十分の制約があるとはいえ、ずっと泥棒だった俺だ。魔法を使わずともある程度までは潜入できるだろうし、ヤバくなったら潜伏を使えばいい。


 しかしそれでも、問題はある。


「で、俺がいない間はどうやってそれを隠すんだ?」


「隠す?」


 メアリーがとぼけた顔をする。……いや、わかってないな。


「この監獄だって、さすがに一人消えたら騒ぎになるだろう。俺がいないことを隠す必要があるはずだ」


「確かにそうですけど、どうしましょうか?」


 ジンが俺とメアリーの顔を交互に見やる。さて……と。


 俺は目をつむる。考え事をするときの癖だ。余計な情報が入ってこないから考えがまとまりやすい。

 今までの情報を考慮こうりょして、何が最善かを考える。様々なケースを想定する。


「そうだな、良いことを思いついた」


 せっかく新しい仲間が加わったのだ。早速ジンには共犯になってもらうことにしよう。


 俺の顔を見て、メアリーが呆れたように呟いた。


「まーた悪い顔してる」

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