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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第1章 元素の魔石とプリズン・ブレイク
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第10話 佐沼真は二度災難に遭う

 ジンチームの男が倉庫に、そして俺とシルビアはその外にいる。


 先程この倉庫に来た時のことを思い出す。扉は珍しく引き戸で、それを開けると扉に何かがぶつかった。それは空の段ボールと()()()()()()だった。


 俺は男との距離が十分に離れていることを確認する。そして素早く扉の近くにある箒を手に取った。すぐに扉を閉めて、箒をつっかえ棒にする。緩まないように、しっかりと押し込んだ。


 シルビアの方を見ると、「え、え」と戸惑いを隠せない様子である。

 宝箱の確認を終えたのか、閉じ込められた男が扉の前まで来たようだ。


「え、ちょ、どういうことだ?」


「あー、悪いねケリー。終わるまでそこで待っててくれ」


 沈黙。そしてようやく、自分の置かれた状況に気付いたらしい。


「だ、だましたのか?」


「そんな人聞きの悪いこと言うなよ」


 あまりここで問答を続けても仕方がない。俺はシルビアの手首をつかみ、倉庫の前から立ち去る。


「待てえええ。出せやこらあああ」


 男の叫びが後ろから聞こえたが、聞こえないふりをする。振り返ろうとするシルビアを半ば強引に連れて行く。ようやく、大通りまで出てこれた。


 するとシルビアが俺の肩をつかんできた。


「どどど、どうして?」


 大通りに出ても動揺を抑えられないらしい。


「落ち着いてくれ、シルビア」


「で、でも! どうして!」


「いやあ、どうしてって言われてもな。あいつから逃げるにはこうする他なかっただろ。あのまま殴り殺されるのも嫌だしな」


 正確に言えばシルビアと一緒に逃げるには、だが。俺だけなら潜伏を使えば余裕で逃げれた。しかしシルビアは怯え切っていたから一緒に逃げるのも難しそうだったし、俺だけ逃げても後でシルビアに何があるかわからない。


「つまり、全部演技だったんですか?」


「ま、そういうこと」


 するとシルビアは大きく息を吐いた。


「ビックリしましたよ。まさかサヌマさんがバーンさんを本気で恨んでいたのかと」


 ま、半分くらいは本気だったけどな。

 シルビアの顔を見て、少しだけからかいたくなった。


「本当に裏切ったと思われたなんて、全く信用がなかったんだな。少し傷つくなぁ」


「いや、そんな、わけでは。ただ、少しビックリしただけで。本当に裏切ったとは」


「へー?」


 俺はじとーっとシルビアを見つめる。


「いや、その……うう、やめてくださいよぉ」


 心底困ったというようなシルビアの姿に、少し笑ってしまう。


「ま、本当に裏切っても良かったんだけどな?」


「えぇ!」


「冗談だよ、冗談」


 シルビアがほほを膨らませた。


 俺は笑いながら、あることを考える。――別に本当に裏切っても問題はなかったんじゃないだろうか、と。


 メアリーに対するちょっとした恨みがあるのは本当だし、何より裏切りを避けるだけの理由も見つからない。そもそも俺は死ぬ前まで散々人を裏切って来たのだ。どうして今さら……?


 いや、と俺は考え直す。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「じゃあ、これからどうしますか?」


 シルビアが切り出す。この争奪戦も、残り時間はそう長くない。戦況を見るに、相手チームをひとり閉じ込め、俺はあの男が探索した場所の情報を持っている。どちらかと言えば、こちらが有利と言えるだろう。


 だが、何度でも言うが俺はそこまで協力的になるつもりはない。先程は結果的にメアリーに利する形になったが、積極的にそうするかと問われれば答えはノーだ。圧倒的にノーだ。


「ま、大通りの右側でまだ探索してないところを探せば良いだろ」


 俺の提案にシルビアは素直に頷き、俺たち二人は適当に探索を再開する。


 シルビアは、それはもう一生懸命に宝箱を探していた。物陰や一見空間のなさそうな場所、ひどく汚れた場所まで探すのだ。……健気がすぎる。


「なあ」


 俺はなんだか気まずくなってしまって、シルビアに話しかけた。


「はい?」


「シルビアって結構物好きだよな」


「え? ど、どういう意味ですか?」


「だって、あのメアリーだぞ? この監獄の二大要注意人物のメアリー=バーンだ。そいつに関わるとか物好き以外に誰がいるんだ? しかも今回は要注意人物のもう一人、ジン=ノーディンまで関わった大ごとだ」


 プリンを巡って、だけどな。


「うーん」


 と、メアリーは考えるしぐさをする。それでも探索の手は緩めない。


「でも、それはサヌマさんも同じではないですか?」


 ……。


 少し面食らってしまった。しかし、それは違うと否定できる。


「俺は巻き込まれたんだ。不注意が原因とは言え、どこから見たら俺が好きであんな女に関わる奴に見えるんだよ」


 自分でムキになっているのがわかって、ますます腹立たしい。


「うーん、そうですかねえ。私にはとても仲良しに見えるんですけど」


 おいおい。


「そもそもシルビアはなんで……」


 そこで、言葉が途切れる。シルビアは探索に夢中で見えていないが、俺にははっきりと見えている。ジンチームのメンバーの一人、当然先程閉じ込めた奴とは別の男が、俺たちに視線を向けている。男が舌なめずりをするのが見えた。


 ――まずい。


 俺はシルビアの手首をつかみ、再び走り出す。今度はなかなか距離がある。逃げるという選択肢も十分にとることができる。


「え、え、何ですか急に!」


「後ろにジンチームの奴が追って来てる!」


「え、えぇ!」


 必死に逃げる。また騙すにしても、閉じ込められる場所を俺は他に知らない。地面を蹴る音が鮮明に聞こえる。すぐに俺もシルビアも、息が切れ始めた。


 分岐路が見えたらお構いなしに入りまくる。それでも執拗しつように俺たちは追い詰められた。だんだん方向感覚もなくなってくる。やばい、これは、捕まる。


 訳も分からない状態で、また道を曲がった。その先に、人影が見える。まずい、挟み撃ちになってしまう。……いや、あれは。


 脳を懸命に動かす。視線の先には二人いる。ジンと、そしてメアリーだ。

 助かった。メアリーがいればさすがにもう追ってはこないだろう。


「ん? サヌマに、シルビアちゃんじゃない」


 俺たちの足音と荒い息遣いに気付いたのか、メアリーが振り返る。何とかメア

リーのもとまでたどり着き、地面に座り込んだ。


「ぜー、ぜー」


「なんでそんなに息切れしてんの?」


「ぜー、ぜー」


 声が出ない。メアリーは呆れ顔を浮かべている。


 無理に呼吸を整え、一度追ってきた男の方を見る。男はこの状況にどうすれば良いのか判断のつかない様子だった。


「バ、バーン。……今、どんな、状況?」


「こっちが訊きたいんだけど。まあ、良いわ。ジンと私が宝箱を同時に見つけちゃってね。どっちが開けるかを争ってるの」


 心底どっちでも良いが、助かった。


「たぶんこの宝箱に入ってるわ、プリン」


 ?


「なんでわかるんだ? バーン」


「勘よ」


 やっぱりメアリーはあまり頭がよろしくないようである。


「いや、別に俺は……」


 ジンが口を開く。しかしメアリーはすかさずさえぎった。



「油断させるつもりね? そうはいかないわ」


「ジンさん、やっちゃってください! そんな女ぶっ飛ばしちゃいましょう!」


 いつの間にか俺たちを追いかけていた男が近くまで来ている。


「あ?」


「ヒッ」


 しかしメアリーの鋭い眼光にやられ、また後退した。


「とにかく、もう戦うしかないわね。そうでしょ?」


 ジンは重い口を静かに開く。


「ガードル」


「は、はい!」


 返事をしたのは俺たちを追ってきた男だった。


「どっか行ってろ」


「え、いや、手伝いますよ!」


「足手まといだ。ケガするぞ」


「……わかりました」


 ガードルと呼ばれた男は不服そうに言う。


「ここは良いから、適当に探索を続けろよ!」


「はい、わかりました!」


 ガードルは大きな返事をするとどこかへ行ってしまった。


「で、だ」

 ジンが今度は俺とシルビアに目を向ける。

「お前らもどっか行ってろ」


 と、言われましても。


「ちょ、ちょっと、きついん、ですよねぇ。しばらく、動けそうに、ないと言うか」


「わ、私も、です。さっき足を、くじいたみたいで」


「……どうしてもか?」


 頷く。


「そうか……。わかった」


 ジンが静かにため息を吐いた。なんか、すいません。


「気にしなくても、私がケガなんかさせないわよ」


 なんだかメアリーがとても頼もしく見える。悪口言っちゃってごめんね?


 ジンとメアリー。互いに強者であることは間違いない。二人は見つめ合い、機をうかがっているようだ。


 数分の静寂。そして、先に動いたのは――ジンだった。


「どうか見逃してください!」


 それはとても綺麗な、土下座だった。


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