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【二章完結】浮気された賢者  作者: 底一
浮気された賢者と神竜教団

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集い始めたかつての仲間


「久しぶりだね、ナナリー」

『……ええ、そうね』


 最後に会話したのはリオン王国だった。

 告白を断った翌日、泣きながらオレを見送ってくれたナナリー。

 以降は彼女が一番信頼しているメイドのレイやリオン国王など、人を介してでしか言葉を交わしていなかったな。

 今回の神竜教討伐に快諾してくれた彼女だけど、直接話すとなるとまだ若干の気まずさを感じる。


「神竜教の件、ありがとう。まだ直接お礼が言えてなかったな」

『え? そ、そんなの別にいいわよ! 私だってカルにいっぱいしてもらったんだから』

「あ、ああ……いや、そんなこと……」


 参った、なんだか妙に話しづらい。

 幼い頃から十年以上は一緒に居たはずなのに。

 アランとの一件以降、僅か二年近く離れただけでここまで気まずくなるものなのか。

 昔はもっと気兼ねなく話していて、喧嘩してもすぐ仲直りしていたのに──なんて思っていた時だった。

 

『ナナリー様! 感傷に浸ってる場合じゃありません!』

『ちょっレイ⁉︎』

『カルエル様、挨拶は省略させて頂きます! 至急、パラティッシまでお越しください!』

「あ、はい……え?」


 突然、会話に入り込んで来る者がいた。

 声で分かるが、メイドのレイだ。

 屋敷で見かけた時や普段会話している時もクールな印象しかなかった彼女がとても慌てている。

 至急とは、何か緊急事態が起きたようだ。

 その割にナナリーは落ち着いていたけど……。


『こらレイ! 勝手に伝心に入って来ないでよ!』

『ナナリー様が目の前のアレを放置して変な空気出してるからじゃないですか!』

『へ、変な空気なんて出してないし!』


 二人の関係がなんとなくオレとロンに似ていて親近感が湧く。

 というか、目の前のアレとはなんだろう?


「何かあったのかナナリー?」

『あのね、カル。シースと一緒にいた太ったおじさん……多分この国の王族なんだけどさ、今目の前でとんでもないことになってるの!』

「はい?」


 記憶に無い風貌だ。

 太ったおじさんで王族……確かロンを襲った盗賊の裏にいた黒幕だったか?


「そいつがどんなことになってるんだ?」

『なんかこう、グワーって!』


 なるほど、分からん。

 ナナリーの説明に耐えかねたのはオレだけではなく、聖女も痺れを切らすように語りかけた。


「ナナリー、ユーリよ。もう少し詳しく説明してもらえるかしら?」

『だからこう、ボハっ! グワー! って感じなのよ!』


 ナナリーと、ユーリが頭を抱えて呟いた。

 一緒に旅をしていた時によく見た光景だ。

 直情的なアランとナナリー。

 そんな二人の舵を取るため苦労させられるオレとユーリ。

 大変な様子の向こうには申し訳ないが懐かしさを感じて温かい気持ちでいると、今度は男の声が割り込んで来た。

 

『賢者殿、シンだ。我からも頼む、いかにマケドニア軍が味方しているとはいえ、少しまずい事態になりそうなのだ』

「わ、わかりました。ではすぐにそちらに向かいます」

『うわあ、何あれ⁉︎ 気持ち悪‼︎』

『ちょっ⁉︎ ナナリー様! 引いてないでさっさと斬ってください!』

『アバローナ! 至急民を避難させよ!』


 とんでもない事態が起きてるようだ。

 混線した伝心魔法からは余裕のない、慌てる向こうの声がひっきりなしに聞こえて来る。


「やれやれ、すぐに向かわないとな。シン国王の慌てよう、余程の何かがあったのか」

「私も行くわ、カル。ナナリー、何だか大変そうだったわね」

「おいマスター、話は聞いた。私も行くぞ」

「エリィ?」


 どうやらエレノアもこっそりパスを繋げて話を聞いていたようだ。

 いや彼女が行くとなると……シースと鉢合わせすることになる。

 まずい、砂の王国が無事でいられる保証が効かない。

 いや十中八九、壊滅してしまうだろう。

 仮にも太古の昔に竜神がその羽を休ませたとされる神聖な場所なのだ。

 いくらなんでも自分の父親縁の地を滅ぼすことは彼女もしないと思うのだが……。


「だめだ、不安しかない」

「何か言ったかマスター?」

「いや⁉︎ なんでもないよエリィ」


 ぼそっと本音を漏らしたオレを笑顔で脅迫するエレノア。

 彼女を置いていくという選択肢は最初から無かったようだ。

 必要な魔力を計算するため、渋々転移魔法で連れていく人数を数え出した時だった。


「会長! 私も連れてってください!」

「ロン? お前、どうしてここに」

「シンが慌てていたというのは本当ですか⁉︎ パラティッシに何が起こってるのですか⁉︎」

「いや、それを確かめに今から行こうとしてたんだけど……」


 避難所に連れて行かれたはずのロンが汗ばんだ顔で後にいた。

 戦いの終わりを察知して急いで走ってきたようだ。

 話を聞いていたらしく、体で大きく息をしながら鬼気迫る顔でオレに尋ねてくる。


「っ‼︎ じゃあ、私も行きます」

「おいおい、流石に無理だ。お前の安全を保証できない」

「パラティッシは私の国です。行かない選択肢はありません‼︎」


 追放されたから、もうどうでもいいって言ってなかったか?

 前言撤回もいいところだ。

 ──でも。


「やれやれ」


 どれほど嫌っていても、どれほど(わだかま)りを覚えていても。

 慣れ親しんだ者達にいざ何かあると、心配になってしまうのが人の性なのかもしれない。

 オレを裏切った剣聖と勇者。あの二人が魔王を倒した後、瀕死の重症を負っていて余命すら危ういと聞いたあの時のオレのように。

 共感できる部分もあるので、ロンのことを無碍にはできない。

 左の人差し指に着けていた指輪を外し、彼女に渡した。


「これは?」

「オレが得意とする障壁魔法:玄武を閉じ込めた指輪だ、身につけておきなさい。最悪、何があってもお前の身は守られるから。効果はエレノアの魔法を防いだことからも実証済みだよ」

「副会長の……わかりました。ちなにみにこれだけですか?」


 ほう、在庫を確認して来るとは。

 もしかしてシン国王やアバローナ公爵にも持たせたいと思っているのだろうか。

 でも残念なことにこれは試作品で一つしかない。

 魔法を閉じ込めたスクロールはあれど、携帯に向かない。

 雷光水晶のように、より便利にならないか試行錯誤の末に成功した一品ものだ。

 そう説明すると、ロンは露骨に目を細めた。

 こいつ、もしかして……。

 

「売れるって思っただろう?」

「ええ、まあ」


 誰かに持たせるとかじゃなく、商人としてこれの価値を計っていたようだ。

 さすがは我が商会の大幹部にしてオレの腹心。何故これを作ったのか、その理由を瞬時に推察するとは。

 でも、今は何より命が大事。変に温存などしないようロンに釘を刺しておく。


「魔国連邦との取引が開始できれば量産の目処も立つ。いいか? 絶対ケチるなよ? 振りじゃないからな?」

「チッ、わかりましたよ」


 自分の考えをオレに見透かされたことを知り、舌打ちをするロン。

 全く、困った部下だ。

 商売のことを考えてくれるのは頼りになるが、少しは自分の身を心配してほしい。

 ロンがいなくなるなんて、オレには考えられないのだから。


「ねえカル。ナナリーのあの感じなら急いだ方がいいんじゃない?」

「おっと、そうだったな。じゃあ行くか」


 聖女の呼びかけで、おざなりになった目的を思い出す。

 転移魔法発動の準備をしながら、ふと気付いたことがある。

 今からパラティッシに行くのはオレと聖女、その他もいるが向こうにいるナナリーと合流すればこれは──。

 

「かつての仲間の集合かな?」

「これでアランがいれば完璧だったんだけど……そういえばアランは? 裁判にも来てなかったみたいね」

「ミシェル王女によれば、旅に出たらしいよ」


 オレがあの日、瘴気を回復して調子を取り戻したアラン。

 その後はリオン王国の王女であるミシェルさんと結婚して幸せに……とはいかなかったようだ。

 王女の話によれば、体は回復したはずなのにいつも何かを考え込んでいたらしい。

 誰かが側にいるときは明るく振る舞っていても、ふと目を離すと思い詰めるような表情を浮かべていることが多かったという。

 聞けばアランは、ナナリーが魔王の攻撃で吹き飛ばされ腕を失い気絶した後、ナナリーの回復をする聖女を護るため一人で真正面からヨルムンガンドと斬り結んでいたらしい。

 魔王の膨大な瘴気を後ろに漏らせまいと、一身に引き受けてのことだろう。

 その所業はまさに勇者と言える。そんな男がこの平和な今、一体何を思い詰めていたんだろうな。


「もしかしたら、力を取り戻すために修行でもしてるのか?」


 オレの中和剤で余命の心配がなくなったとはいえ、アランはまだ全盛期の力を取り戻してはいない。

 異常な身体強度と回復力を誇る種族覚醒者といえど、蓄積した体のダメージはまだ抜けていないのだ。

 それほどに彼の体を蝕んでいた瘴気は強かった。

 オレでも自分の力に変換できるかどうかわからないほどに大量の瘴気。

 あの時、実は彼の体を蝕む瘴気をいくらか頂いたが、それでも全て吸いきれないことに驚いた。

 こんなものを体に抱えてまだ生きているなんて、さすがは勇者だと感嘆したのを覚えている。

 

「うーん、どうかしら? アランって力にこだわるタイプだった?」

「そう言われれば、確かに」


 アランとはナナリーの一件でオレとの関係にヒビが入ってしまったけど、最初に出会った時はとても気さくでいいやつだった。親友と呼び合える間柄で、よく平和になったら何をするかなんて夢の話もしたもんだ。

 アランは勇者としての使命を自覚しながらも、それでもいつか魔王を討伐したら戦いとは無縁な人生を送りたいとよく言っていた。

 元は平凡な一市民の自分が、何の因果か膨大な力を授かってしまったと本人は呆れていたので、力を望むタイプでもないだろう。そんな彼が何かを思い詰めて旅に出る。心配というには大袈裟だが、少しばかり気になってしまう。


「何にせよ、元気だといいけどな」

「そうね……」

「さ、そろそろ行こうか。パラティッシへ」


 期せずして、砂の王国へと再び集まることになったかつての仲間達。

 例え再び一緒になったとしても、様々な出来事と互いに抱く想いもあって、もう昔のあの頃には戻れない事実に僅かな感傷を抱きつつオレ達はパラティッシへと転移した。

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