第3話 探とユリアの思い
今回はかなりセリフが多めです
「……ごめん。そのお願いには答えられない」
「え?」
「他の人に頼んでくれ。協力すると言ってくれる人はきっと見つかる」
だけど、俺はやっぱり断ることにした。
ここまで俺にこだわるのは何かしらの理由があるからだと思う。
俺だってできれば、この子を助けてあげたい!
でも、俺はこの子が思っているほど強くない。
『普通の中学生が古の秘宝を取り戻す冒険に出る』
なんて夢があるのだろう!……と俺は思えない。
現実はそんなに甘く出来ているものじゃない。
特別な力や豊富な知識があるわけでもないのに冒険に出るなんて危険すぎる。
俺は、その危険の領域に入るか入らないかの境目にいる。
だったら、俺は入らないのを選ぶ。
根性なしと呼びたければ呼べばいい。
この子の手を差し伸べるのは俺の役目じゃない。
俺よりもっと、この子の力になれる人は必ずいるはずだ。
「待ってください!私は今まで様々な『モノ』の心を見てきました。どの『モノ』にも必ず怒り、憎しみ、悲しみの感情がありました。
でも、サグルの『モノ』たちは……みんなサグルを愛している。大切に使ってくれてありがとうと言っています!」
「………」
「あなたのその『モノ』に対する感謝の心は古の秘宝たちの心にも届くと思うのです!だから……」
「……ごめんね」
その子は俺が何を言っても受け入れてくれないと知ると、
俯いてしまった。
今でも泣き出しそうな顔で、涙をこらえているのがすぐに分かった。
……どうしてそんな顔をするんだ。
俺は……この子を泣かせるために断ったわけじゃないのに。
「……無理を言ってすみません。私はこれから、古の秘宝を一緒に取り戻してくれる人を探しに行きます。短い間でしたが、お世話になりました」
その子は俺に一礼をした後、未来絵本を持ち、俺の家を出た。
たぶん、もうこの子と会うことはないだろう。
俺の物語はここでおしまい。
非日常から日常へと戻るんだ。
嬉しいことじゃないか。
……そう、これでよかったんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私、鍵田巡!
『始発町』に住んでいる元気が取り柄の女の子!
今日も探のお父さんがいないから、私がお昼ご飯を作りに行くんだ!
探も料理ができないわけじゃないけど、作るのが面倒くさいみたい。
だから、私が暇な時はいつもご飯を作って……
……え?
私、夢でも見ているのかな?
人形のように小さくて、綺麗な羽を持っていて、空を自由自在に飛べる……まさか、この世界にいたなんて!!
「妖精だー!!!」
「ふぇっ!?」
「かわいい!ねえ、あなたどこから来たの?
私、鍵田 巡!あなたの名前は?」
「ゆ、ユリアです。私は、サグルさ………いえ、なんでもありません」
今、探って言ったよね?
探と知り合いなのかな?
急に話しかけちゃったから、ユリアちゃんびっくりしちゃってる。
でも、妖精の女の子に会うなんてもう二度とないと思うし。
そうだ、ユリアちゃんに家に来てもらおう!
ユリアちゃんとお話ししてみたいな。
うん、それがいい!
「私の家、近くにあるんだ。一緒にお話ししない?」
「は、はい」
「よーし、決まり!」
本当に来てくれるなんて思わなかったけど、なんだかんだ結果オーライ!
なんか、あまり元気がない感じだったな。
何かあったのかな?
ユリアちゃんに聞きたいことがありすぎて、困っちゃう!
あれ、もう家に着いちゃった。
ユリアちゃんが好きそうなお菓子……クッキーとかでいいよね。
「お邪魔します……」
「どうぞどうぞ!ようこそ、私の部屋へ!」
私が明るく話しかけてもユリアちゃんは、全然笑顔を見せてくれない。
こんなにかわいい子なのにもったいない!
あ!そういえば、探のこと知ってそうだったし聞いてみよう。
「ねえ、探とどこで知り合ったの?」
「さ、サグルとは……だ、誰のことでしょうか?」
「うふふ。ユリアちゃん、嘘つけない子でしょ。さっきから目を逸らしてるし、バレバレだよ」
「す、すみません……。でも、サグルとはもう会いませんから……」
「え、どういうこと?」
ユリアちゃんは、自分のことや探について初対面の私でもいろいろ話してくれた。
自分が捕まってたのを、探とその絵本が助けてくれたこと。
3000年前の『モノ』についてのできごと。
そして、古の秘宝を取り戻すことを探にお願いしたけど……断られてしまったこと。
「そう。……探、断ったんだ」
「でも、サグルほど『モノ』を愛することができる人はいません。
机に置いてあったマフラーの心を見て思ったのです。
サグルになら、きっと古の秘宝たちを説得させることができると……」
「マフラー……ね」
……小学校2年の時だったかな。
探が、『モノ』を大切にするようになったの。
探には、誰にも話すなって言われてるけど……
ユリアちゃんには話してもいいよね。
探には悪いけど、話しちゃお。
「ユリアちゃん。探がどうして『モノ』を大切にするようになったか聞きたい?」
「え?…………はい、聞きたいです」
「そうこなくっちゃ」
探と私が小学1年生くらいの時だったかな。
探のお母さんは、昔の人たちが使っていたものや隠したものを見つけたり探したりするトレジャーハンターなの。
でも、その頃から探のお母さんは、各地を旅していて全然探と一緒にいなかったの。
探、すごい寂しそうだった。
お父さんも銀行のお仕事で遅くなるのが当たり前で、休みの日でも全然家にいなかった。
だから、探は一人の時が多かったの。
小学校に来てる時は友達もいたから楽しそうだったけど、いつも学校が終わると悲しそうな顔してた。
一人が寂しくて悲しくて仕方なかったんだと思う。
宿題の一つで書いた『ぼくのゆめ』の作文でも、
『ぼくのゆめは、おかあさん、おとうさんといっしょにすごすことです』って書いてたから。
探は毎日、お母さんとお父さんと一緒に過ごしたいって願ってた。
すると、探の願いが通じたのかその夢が叶ったの。
お母さんとお父さんと探の三人でプレゼントを買いに行ってた。
その日は探の誕生日だった。
そこで、探のお母さんがプレゼントを買ってくれた。
それは、何の変哲もないただのマフラーだったけど、探にとっては最高のプレゼントだった。
あっという間に一日が過ぎて、お母さんは、また仕事へ行っちゃうけど、最後に探に言ったの。
「探。『モノ』には心がある。『モノ』は大切にしないといけない。『モノ』は優しく丁寧に使ってくれる人を愛する。
だから、『モノ』全部にありがとうの気持ちを持ってね」
探は、初めてお母さんから貰ったマフラーを機に今でも『モノ』を大切にしてる。
「………ってわけ」
「わ、私……感動して……涙が……」
「ちょっと大丈夫?」
「決めました!!やっぱり私、もう一度サグルを説得してみせます!」
「わたしも行くよ!探にちょうど用事があったし」
「ありがとうございます!」
元気が出てよかった。
ユリアちゃんには笑顔が一番似合ってる。
……あ!聞きたかったことがあったのを忘れてた!
「ところで、その古代の秘宝っていくつあるの?」
「五十個です!」
「ごじゅ!?ご……五十……ね」
ちょっと多すぎる気もするけど……まあ、いいや。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あの子、大丈夫かな……」
自分で断ったくせに俺は、あの妖精の女の子がどうなっているのか気になっていた。
もう、取り戻すのを手伝ってくれる人が見つかったのかもしれない。
それならそれでいいけど……やっぱり気になって仕方ない。
時刻は12時30分。
そろそろ、ご飯を作って食べようと思い、冷蔵庫を開けるが中はほぼ空っぽだった。
食材を買いに行くのを忘れてた……
落ち込んでいる時、玄関のチャイムが鳴った。
もしかしたら、巡がお昼ご飯を持ってきてくれたのかもしれない。
そう思いつつ、俺は玄関のドアを開けた。
「やっほー。お昼ご飯持ってきたよ!」
「ありがとう。助かった……って、君は!?」
「サグル……すみません、やっぱり私諦めきれなくて……」
なんで巡とこの子が一緒に!?
俺の家を出た後に、巡と会ったってことか……
巡がファンタジー好きだったのを忘れてた。
「話はユリアちゃんから聞いたよ。それと、ユリアちゃんに『モノ』を大切にしてる理由、話しちゃった!」
「ええ!?マジかよ……あの話、なんかマザコンっぽくて思い出したくないんだよな……」
「そんなことないです!サグルが『モノ』を大切にしてるのは『モノ』に感謝し、愛しているから……ですよね?」
「まあ……そうだけど」
「だから、1個だけでもいいんです。どうか、私と一緒に古代の秘宝を取り戻してくれませんか?」
俺は、またこの子にお願いされてしまった。
でも、なぜか今は断る気にならなかった。
むしろ、1個だけでなく、2個でも3個でも……全部取り戻すまで手伝ってあげてもいいかなと思ってる。
『普通の中学生が古の秘宝を取り戻す冒険に出る』
なんだよそれ。最高じゃないか。
これが俺の本心だったのか。
我ながら気づくのが遅すぎると思った。
「いいよ。俺でよければ手伝うよ!」
「!!!
サグル……ありがとう!!!」
「よーし!じゃあ、今日のお昼ご飯は三人でタコパしよう!」
俺はこのお昼ご飯を食べる時間がとても嬉しかった。
俺の誕生日の日に母さんと父さんがいた、
あの日の出来事が……戻ってきた気がしたから。
次回更新は一応明日の夜を予定しています!
まだまだ続きますのでよろしくお願いします!