入学式
俺はおちゃらけてるから先生にいたずらでもしようかな。
私はおしゃれだから、学校に行くにも早起きしてメイクしないといけない。
僕は優等生だから、みんなが写せるノートを作って常にトップの成績を修めないといけない。
自分はインキャだから、なるべく迷惑にならないようにしておこう。
そんなこと、誰が決めたの?
高校に近いという理由で入学と同時に祖父母の家に引っ越してきた私は、同じ中学校の友達もおらず、転校初日から不安でいっぱいだった。中学時代、友達は多い方だったとはいえ、やはり知り合いがゼロの所から友達を作るのは勇気がいることだった。転校を過去数回数回レベルの経験値の持ち主である私は、春休みのうちに学校まで自転車の20分の道のりをたどり、みんなが話題にしそうなお店の予習に努めた。みんなが来るであろう中学校の特性や、本やドラマ、アニメを観ることで話題作りにも励んだ。
そうして迎えた高校の入学式。いくら自転車を漕いでも漕いでも自分以外の生徒が見当たらない。もしかして道でも間違えてしまったのだろうか。しかし、予習済みのこの道を今更間違えるはずもない。もう少しで学校に着くという時、細い脇道から大勢の自分と同じ服を着た生徒が視界に飛び込んできた。あまりにも細く目立たない道だったために、最初はみんな大通りからきたけど間違えた道をいって、引き返してきたのかと思ったほどだった。あとあと仲良くなった子に聞いてみると、ほとんどの生徒が駅から来ていて、国道の邪魔にならないようにと通ることが許されている駅まで続く細い道を皆通ってきたいるのだった。登下校から浮いていた私は、少し恥ずかしくなったものの、私以上に浮いている人物を見つけた。その子は、みんなが高校の制服を着ているのに対して、一人だけ中学校のものと思われるセーラー服を着ていたのである。声の大きい彼女は、友達と談笑しながらペダルを漕いでいる姿を、好奇の目の目で見られていた。
1年1組と書かれた看板のある駐輪場に停めて、見慣れない上履きを履いている自分の足を見ながら指定されている三階の一番奥の教室に入った。そこは、私の予習などなんの意味もないのだと嘲笑うかのように既にグループになって談笑しているクラスメイトの姿があった。こうなっても寂しくないようにと常に持ち歩いている文庫本を手に取り小説の世界に浸っていると、例のセーラー服の彼女が私の目の前の席に座った。
「遠藤です!みんなえんどぅーって呼ぶから、気軽に呼んでね!」
その子は好奇の目を逆手にとって、どんどん友達を増やしていった。彼女の明るく元気で聡明なその性格に引かせない人は少なかった。もちろん、私も彼女に惹かれたその一人である。
幸いなことに私にも友達ができた。セーラー服で入学式を迎えた彼女である。席の近かった私とコミュニケーション能力の高い彼女が私と仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。他にも、中学時代に彼女とテニス部でダブルスを組んでいたという松井さんという人とも友達になれた。こうして私は、少しずつ友達を増やしていった。
予習も少しは役に立ったようで、自分から話すことはできなくても、えんどぅーの輪の中にいるだけで自分もその話に乗っかることはできた。その時、興味もないことでも情報収集しておいてよかったお思う。詳しくは知らなくても、共感するふりをするくらいの知識は何に対しても持ち合わせていた。
いつものように一人っきりで学校に向かうために自転車を漕いでいると、同じ制服を着た女子生徒が道の横で止まって、携帯をいじっていた。自分と同じ方向から来ている人もいるのだと少し嬉しくなったものの、初対面の相手に声をかける勇気もなく、横を通り過ぎようとした時に、向こうの方から声をかけてきた。
「あのさ!同じ高校だよね?一緒に学校に行っていい?」
登下校中が寂しかった私にとっては願ってもいない話だった。並走をしていないルールを守っている私たちは、風邪や車の走行音でなかなか会話することは難しかったけれど、それでも一人でいるよりは気が楽だった。それに校舎内を歩く時に一人の方がかえって目立つから、彼女の存在はとてもありがたかった。
でも、卓球部に入った私とテニス部に入った彼女とでは、帰る時間も仲良くなるメンツも異なっていた。次第に一緒に学校に行かなくなり、学校内でみかけても一切言葉を交わさなくなった。
所詮、仲のいい友達なんてそんなものなのだ。