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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界転生したらゴキブリの天下でした。

作者: 朱雪藍

なぜだかわからないけれど、どうやら「異世界転生」なるものをしたらしい。

自分でも信じられないことに、その世界で人間社会はほぼ崩壊していて、ゴキブリが我が物顔ではびこっていた。


ゴキブリといっても、あの小さい状態ではない。本当に、人間の体に触覚とかを付け足したような見た目をしている。言葉も話すし、ものを作る知識も持ち合わせているようだ。


この時僕は知らなかった。裏である壮大な「計画」が立てられていたなんて……


崩壊した人間社会の人によると、大体こういう話なのだそうだ。


まず、温暖化や汚染が原因で、大多数の生き物が絶滅した。人間は汚染などから身を守るすべを持っていたため、生き残ることはできたが、それでも人口の8割ほどは減ったそうだ。そんな中、他の生物を差し置いて進化を繰り返していったのが、ゴキブリだった。順応性が高く、気温の高いところでは活動にさして影響を受けない彼らは、絶滅していく他の生物たちをよそにして進化を重ねた。今では二足歩行で、人と同じような見た目をしている。食べるものの習慣は残っているのか、雑食である点は変わっていないらしい。今この「区域」にいる人間は生き残った人たちの子孫で、細々と世界の「影」で暮らしている。


ゴキブリの進化にも驚いたが、それよりもこのひどい「世界」に驚かされた。こちらに来て訳の分からないときにここに連れてこられた。「おい、何で外にいるんだよ」と。


空気は吸えたものではなく、シェルターのようなところでないと息ができない。今こうして過ごしているこの場所も、おおきな屋根の下で、洗浄した空気を循環させているというのに息苦しかった。


ドォン……ドォン……


音が聞こえる。なんの音かと聞いたら、予想もつかない答えが返ってきた。

「実は、私たちの祖先がまだ栄華を誇っていた頃、ゴキブリは害虫とみなされていて、まあ殺したりとか結構してたらしいんですよ。で、まだそれを恨んでいる奴らがいて、こうやって攻撃しようとしてくるんです。人類駆除計画とかなんとか言って。まあゴキブリたちの攻撃でやられるようなやわな設計じゃないので。この施設は。まあ騒音くらいにしか感じてませんね。」

そんなものなんだろうか。


音に続いて、天井からパラパラと何かが降ってきた。これも駆除計画の一環だろうか。それにしては、周りの人たちの顔色がおかしい。ざわめきが広がっているようだ。


次の瞬間、天井の一部が音を立てて落ちてきた。いやな音がして真下に立っていたかわいそうな人が下敷き位になる。あれじゃあ生きていないだろうな。


「馬鹿な……この天井が壊されるなんてッ……」

どうやら天井にはよほど自信を持っていたようだ。


先程できた穴から二、三人、ゴキブリ人間が侵入してきた。手には、火炎放射器(?)のようなものを持っている。


嫌な予感がする。


予感は不運にも当たってしまった。一匹のゴキブリが引き金を引くと、炎が出た。もちろんその先には、人間。


皆散り散りになって逃げようとするも、すぐに行く手を阻まれて炎に包まれた。

「抵抗するなよ。抵抗しようとするやつらは……こうだ!!」

一匹のゴキブリが笑い声をあげて子供を焼き殺した。


断末魔の声が響く。悲鳴を上げ逃げ出そうとするもの、なにが何だかわからず立ったまま動かないもの、そしてそれを見て笑い声をあげるゴキブリたち。


少なくとも、自分の人生の中で一番地獄絵図に近かった光景だと思う。


後には俺と、さっき計画について説明してくれた一人の男、三匹のゴキブリ、死体が残った。

「お前らかぁ?昔ゴキブリを殺してたっていう人間どもの子孫はぁ。まあ抵抗しようとしなかったのは立派だったな。ま、いずれ死ぬんだけどよ(笑)ごめんなぁ、他の奴らと一緒に殺してやらなくて。でもお前らだって俺らを殺してたんだから、五分五分だよなぁ?」

一番ガラの悪そうなゴキブリが言う。どうやらどこかに連れていかれるようだ。






ゴキブリの王がいるというところに連れていかれた。ほかの偉そうなゴキブリたちは「なんですの、その汚いものは。同じ空気を吸うだけで汚れそうですわ。」みたいな反応をしてきた。もう一人の男の方はいまにもとびかかりそうな勢いだったが、目で制す。


そして、王と話すことになった。

「お前たちが、あの忌々しい人間の生き残りか。」

冷たく言い放つと、またすぐに次の言葉を発し始めた。

「本当ならば今すぐにでも首をはねたいところだが、今から二千年前に半数以上が世界から姿を消したあの人間の生き残りだからな。最後に話くらい聞いてやろう。」


男が口を開いた。

「お前らなんて、死んでしまえ。」

まだ若い筈なのに、その言葉には「重さ」があった。のしかかる「重さ」と、背筋を凍り付かせてしまいそうな「殺気」、そして抑えきれない「怒り」をはらんだその言葉に、一瞬ではあったが、王と側近たちがたじろぐのが見えた。

「話を聞こうといった私がばかだった。もういい、二人の首をはねろ。」


うすうす気づいてはいた。ここがあの地球の未来であるということに。異世界になんて、来ていなかったんだ。ただ未来に来ただけなのに、あまりの変わりように異世界だと思い込んだだけで、変わり果てた地球の未来に来ただけだというのに。


その原因だって、人間が作ったんだよな。子孫が殺される理由も。人がいなくなった理由も。







そして、僕は、首をはねられた。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  文章の書き方が丁寧で好感が持てます。 [一言]  面白い題材では有るが、テラフォーマーズを知っていると面白さが半減するのが痛い所ですね。
[一言] アニメとかの触覚生えてる女の子みたいの想像したけど全然そんなことなかったぜ! ほら、俺はゴキブリ殺したことないし、見逃してくれません? まぁ人間が散々いたぶった相手が優位にたったらそりゃ報…
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