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第7話 お願いと勝負

「まだこのモンスターは封印された状態にあります。封印が解除されるまでに準備を進めましょう。先に道中に現れるルルルの討伐をお願いできますか?」

「分かりました」


 最上級モンスターの説明が終わると、主人は最上級モンスターではなく道中に現れる中級モンスターの討伐をお願いしてきた。

 連続クエストによくある傾向だが、連続クエスト最後の討伐モンスターはまだ発生していない。この発生はクエストを受注してからある一定の時間が経過すると行われる。これは強制であり、例えばこの途中のクエストをクリアしなくても発生する。クエストをクリアしなければ前に進めないわけではない。

 しかし、連続クエストは途中のクエストをクリアしたか否かで最後の報酬が異なる。そのため途中のクエストもクリアせざるを得ないのだが。


「では、すぐにでも討伐に向かいます」


 樹がそう言って立ち上がると、主人も立ち上がる。


「それは心強い。よろしくお願いします」

「任せてください」

「それと、茜様に、よろしくお願いしますともお伝えください」

「分かりました」


 樹が帰ろうとするので、楓も立ち上がる。

 使用人が部屋の扉を開け、樹と茜はお辞儀と共に部屋を出る。そして来た時のように使用人が樹たちを玄関まで案内する。

 屋敷を出た樹と楓はそろって背伸びをした。

 堅苦しい雰囲気だったため、外の空気が美味しく感じられる。


「これから、そのルルルの討伐に向かわれるのですか?」

「先に茜と合流しようかなと思う。とりあえず茜に連絡送るかな」


 連絡はメール方式で友人になった相手に送ることができる。

 樹は見られていることを知っており、送らなくても茜は気づいていることも知っている。ただ連絡を送っておいたほうが、茜と違和感なく合流できる。

 それに、と思う。

 シャドースライムを使って監視をするのは安全なのかもしれないが、プライバシーの侵害でもある。

 何も知らない楓がこのことを知ると不快に思うはずだ。

 だからこの抗議の内容を連絡に入れて、樹は茜に向けてメールを送信した。


「しばらくしたら戻ると思うよ。街の入口に行こうか」

「はい」


 樹の言葉にうなずいた楓は樹の横に並び着いてくる。


「そういえば、ずっと聞きたかったのだけども」

「何でしょう」

「楓さんは何歳なのかなって」


 女性に年齢を聞くものではないが、あまりにもお互いに知らな過ぎて、樹はそんなことを聞いてしまう。


「18です」

「18歳か…………18っ!?」


 思わずその返答に驚きの声をあげてしまう。樹の中で楓は20代前半のイメージが強く、少なくとも二十代だと思い込んでいたからだ。

 樹の言葉に楓は笑いながら。


「意外でしたか?」

「意外というか、何と言うか。失礼かもしれないけども、楓さん。年齢よりもずっと大人びて見えるから」

「確かによくそう言われます」


 そしてまた上品に笑う。


「でも、こう見えて、受験生でした」

「受験生ということは、大学一年生じゃなくて、高校三年生だったということ?」

「はい。驚きですか?」

「うん。でも、まさか一つしか違わないなんて」

「一つということは、樹君と茜ちゃんは17歳ですか?」

「そう。高校二年生だった」


 なんて会話をして、樹は茜と本当に大違いだなと改めて思う。


「でも受験生か。もしも現実世界に帰れたらどうなるのだろう。また受験のやり直しかな」

「それは嫌ですね。でも、私個人としてはここにずっといたい気持ちがあります」

「そうなの?」

「はい。樹君と茜ちゃんが良ければ」


 そう言って、楓は立ち止まる。

 街の大通りだったが、NPCが少ないため人通りは少なく、二人しか歩いていなかった。

 つられて樹も立ち止まり、楓の方に振り替える。


「どうしたの?」

「私も樹君に聞きたいこと、いえお話したいことがあるのですが、良いですか?」

「良いよ」

「私はずっと一人でした」


 一人という言葉に深い悲しみを込めて、楓は続ける。


「だから、ずっとこういうことに憧れていました」

「こういうこと?」

「仲間と共に、旅に出ることに」


 どうしてそんな話を今したのか。

 樹は恐れていた言葉を耳にすることになる。


「だから、もし宜しければ、私とパーティーを組んでいただけませんか?」






 斎藤はガキの一人、茜というらしい少女が自身の知らない転移アイテムを使用したのをこの目ではっきりと見た。

 自身よりも高レベルか、あるいは自身でも手に入る転移アイテムを見落としていたか。

 昨日の話から茜がペットのレベル上げに行くことは知っていたが、まさか知らない転移アイテムを使われるとは思っていなかった。昨日同様、この辺りでレベル上げをするものだと思い込んでいた。


「参ったな」


 この街に戻ってくるならば、街の入口のどれかであるが、一人で五つある入口をすべて把握するのは難しい。仮にペットを使用したとしても、同時に二体しか召喚できないため、三つまでしか監視できない。

 ターゲットが泊っている宿の入口で待っていればいいのかもしれないが、宿で三人が落ち合うとも限らない。

 あくまで今回の目的は一人になった茜の情報を集めるためなのだから。

 そこでふと、斎藤は気づく。


「戦おうとしても、逆に相手に転移アイテムで逃げられる可能性があるもあるのか」


 とはいえ、すぐに大丈夫だろうと考え至る。

 逃げられる可能性も確かにある。しかし、山崎たちが襲おうとしていた時、自らの危険を顧みず救おうとした。よっぽど強さに自信がなくてはしない。そして高い正義感を持つ。

 仮に襲ったとしても返り討ちにしようとするだろう、と。


「まあ、どう転んでも良いか。仮に逃げられたら、安全に行動するプレイヤーだと分かる」


 そう思って、斎藤は街の入口、街にとって正面玄関と呼べる大きな門へと向かう。

 そして、その門で斎藤は微笑む。

 奇跡的に、ターゲットのプレイヤーが入口に転移して戻って来た姿を発見したからである。

 明らかに早い帰宅だったが、何かあったのだろう。何か忘れていたのか、あるいは思っていたほどレベル上げが難しかったからか。

 茜が街の中ではなく街の外に向かう姿を見て、斎藤は後者だと理解する。

 他の仲間二人が街の中央の屋敷に入ったことは知っている。それと逆の方向に向かうということはまだ当分一人でいるはずだ。

 チャンスは今しかない。

 そう思った斎藤は茜の後を追いかけた。


 茜は街の外、ダンジョン色の森すぐ近くで立ち止まった。

 斎藤はそれに気づくとすぐに木の影に隠れる。茜の様子を伺うが、明かにこちらに気づいている様子だった。


「街の外に出た辺りからつけていたけども、何か用?」


 強きな姿勢の茜の言葉に斎藤はこれ以上隠れるのは無駄だと悟り、現れる。

 そして、へぇと感心したように茜の方を見た。


「うまく隠れていたつもりだったんだけどな」

「私は隠れているモンスターを見つけるのが得意だから」


 この世界では、探すことが得意なのは隠れるのも得意につながる。言い換えれば斎藤の育て方と同様の育て方をしていることになる。

 嘘か真か、その真意はこの際どうでも良い。だから今回は斎藤は茜がそういった育て方をしていると思うことにする。

 同じ育て方をしているならば、強さはレベルと装備の差になる。


「それで何用?」

「君が可愛いもんだからさ。一人なんでしょ? 一緒にパーティー組まない?」

「お断りします。というよりも、その言葉」


 わざと気づかせるように、山崎たちと同様の言葉をかける斎藤に茜があからさまな嫌悪感を出しながら。


「先日、楓さんを襲った人の仲間だよね?」

「へえ、よく分かったね」


 褒めるように、斎藤は言う。

 年下に敬語を使われないことに怒りを覚えるが、ぐっと我慢する。ここで我慢を爆発させてもいいが、目的は茜の強さを見ることである。


「じゃあ、力尽くで連れて行こうかな」

「力尽くで拒否してあげる」


 そして斎藤は武器である短剣を構えた。

 それと同時に茜も武器を構える。同じ短剣である。

 一定の距離を保った状態で、斎藤から先に攻撃を仕掛ける。

 盗賊型と呼ばれるステータスの振り分け方はスピードに特化している。防御方面は防具に依存することになるが、素早い攻撃速度で手数で攻め、そして高い回避と命中が盗賊型の強味である。

 それが相手も同じならば、あとはどちらが多く攻撃を回避するか。どちらが多く攻撃を当てるかになる。

 斎藤の攻撃をゲームシステム上に存在する防御補正で茜は避ける。それと同時に斎藤に向けて短剣を振るう。攻撃補正による素早い攻撃は斎藤の体を切裂く。

 防御補正はお互いの命中と回避の値によって行うか行われないかが決まる。自らの判断で避ける行為、避けない行為も可能だが、基本攻撃と防御はこの補正を使用した戦いになる。

 茜に攻撃により、斎藤の体力が数ミリ削れる。思ったよりもダメージが少ない。かすり傷程度の痛みを覚えつつ、再び斎藤は短剣を振るう。

 茜の胸辺りを短剣が切裂く。


「くっ」


 体に傷跡はない。

 しかし茜が出す痛みの声はダメージがある程度あったことを示す。

 何だ、大したことないじゃないか。

 そう思った斎藤はスキルの使用を行う。

 素早い攻撃をさらに素早くするスキル。これにより、斎藤の攻撃速度は一秒あたり三回まで増加し、命中率を上昇させる。

 連続攻撃を仕掛けるが、茜が回避できていないことに斎藤は気づく。


「このっ! 離れろ!」


 茜がそう言って、斎藤を蹴り飛ばそうとする。それを後方にジャンプして避け、斎藤は茜がそれほど強くないことに気づく。


「言葉だけで大したことないんだな」


 わざと弱い振りをするわけがない。

 つまり、素でこの強さならば、こちら側に問題はない。

 ダメージのせいか、息が荒い茜に対して優しく斎藤は言う。


「ほら、体力だいぶ減っただろう? 大人しくしないか?」

「嫌に決まっているでしょ」


 悔しそうにしながら、茜は一つのアイテムを取り出す。

 上位の転移アイテム。転移場所が同じでも階級が異なる。これは転移アイテムの使用を阻害するアイテム、プレイヤーキルのためにあると言わざるを得ないアイテムでは阻害できない。するためにはさらに上位の阻害アイテムが必要になるが、残念ながら斎藤は持ち合わせていない。

 使用を阻止する術はなく、茜がその転移アイテムを使用して逃げた。


「逃げられたか。でも、これなら問題なくあの目的の女を連れだせるな。このことをボスに報告しないと」


 斎藤は我ながら良い結果に満足そうに呟いた。

 その後ろに茜のペットであるシャドースライムに一切気づかずに。

 それがすべて茜の策の一つであるとも知らずに。

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