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第15話 VS優2 終わり

「これは必然なのよ」


 茜が死んだ時、樹の戦意は喪失していた。

 そして、これを機にパーティーは崩壊し始める。陽、護が倒されていく。最後まで残った樹はその光景を見ながら、諦めたように空を見上げた。

 双子の妹を守ることはできず、自分の命も守ることができない自身の非力さを恨むように。

 優はゆっくりと樹の元へ歩み寄る。


「諦めた? でも悲観する必要はないわ。別に死んだわけではないから」

「どういう意味?」

「あなたには話しておく必要があるわね」


 優は昔のことを思いだしながら、言った。


「私は別にあなたのことを殺したいほど嫌いなわけじゃない。むしろ好きよ。あくまで友達として、仲間としてだけども」

「優さんと仲間になった記憶はないのだけれども」

「今のあなたはないでしょうね。でも、昔、私はあなたと仲間だった」


 優の言葉に樹は首を傾げる。


「六人のパーティーで私たちは王と戦った。結果三人が死に、三人が生き残った。生き残った一人が私。そして死んだ三人の一人が樹」

「何を話しているか分からない」

「このゲームの世界は幾度と繰り返されているということよ」


 その言葉に樹は目を丸くした。

 そんなことを樹は考えたこともなかった。死ねば死ぬ。もう戻ってこないばかりだと考えて、必死になって生き残ろうとしてきた。必死に索敵をして、安全策を取って、人を信じようとしなかった。

 そんな過去をすべて否定する言葉に樹は聞き返す。


「どうしてそれを優さんは知っているの」

「ゲームクリアの特典よ」

「特典?」

「そう。ゲームをクリアすれば一つ可能な限り、願いを叶えてくれる。そうゲーム開発者は言った。だから願ったの。もう一度ゲームをしたいと。今度は私があの、私たちを苦しめたプレイヤーになろうと思った」


 優はでもと続ける。


「ダメだった。私はまだまだみたい。あの王ほどの強さまで達せなかった。まあ仕方ないことなのかもしれない。多分だけども、あれは幾度とこのゲームをクリアしたプレイヤーだから」

「優さんは十分、化け物じみて強いと思うけども」

「そう? ありがと」


 樹の本音に優はそうお礼と共に笑顔を見せる。


「さてと、それで本題の続きだけども。あなたは死なないわ。何故なら死んでも記憶がリセットされて、再びゲームに挑戦させられるだけだから。それは茜も同様」

「つまり死ねないと?」

「そうとも言うわね。この辺りの、ゲーム開発者の目的は良く分かっていないわ。数万人、あるいはそれ以上の人間をこのゲームの世界に呼んで、一体何が知りたいのかなど分かるはずがない。さてと、話は終わりにしましょう」


 優は剣を抜く。

 それは話を終わりにして、樹を殺すという行動を示すために。

 樹は静かに目を瞑った。

 死は怖くない。いや、そもそも死ではないのだから。仮にも優の言葉が真実ならの話ではあるが、ただ樹は優の言葉を不思議と信じていた。優の底知れない強さの秘密を知ったからである。


「さようなら」


 優は静かに剣を振り下ろす。

 その時である。


「言ったでしょう。樹を殺すことは許さないと」


 その声に聞き覚えがあった。

 樹は思わず顔をあげる。目を開く。

 目の前に、優の攻撃を止める空の姿があった。この世界に来て、間もない頃。樹を導いてくれた空の姿。愛する人の姿が。


「空?」

「そう。私、空だよ。久しぶり、樹」

「どうして空が」

「さあ、どうしてかな?」


 優は空を睨む。

 空が樹を助けるために来ることは、考えもしなかったことではない。ただ、優は、空がどれだけ樹を大事にしようとも、再びこの世界に干渉するとは考えもしなかったからである。


「良いのかしら。この世界に干渉して。あなたは一度ゲームをクリアした身。それも私と違って、あの部屋にいることが許される変わりに、一度しか干渉することが許されていないはずだけども」

「良いのよ。ここにいることができるのは、つまり許されているということでしょう? ゲーム開発者たちは何をしたいのか分からないと言ったのはあなたのはずよ」


 空はそう言って、優の剣を弾き飛ばす。


「さてと、私がここに来た理由だけども。私は樹をクリアさせたい。樹の双子の妹とかはどうでも良い。樹だけを」

「そんなこと言って良いのかしら。茜は雫のお気に入りよ?」

「雫はもう、この世界にいない。だから、良いのよ。ばれないから」

「私がばらすとしたら?」

「その時は、優が茜を殺したことを話すけども?」

「確かにそれは困るわね」


 優は身を縮める。


「でも良いのかしら? 樹はもう、頼れる仲間がいない。そんな樹が私がいなくなったとして、このゲームをクリアできるとは限らないのだけれども」

「いいえ、させるわ。有無も言わさずに」

「それでこそ空よ。私の大切な友人ね」


 優はそう言って、笑い、諦めたことを示すように体を差し出した。


「じゃあ、終わりにしましょう」


 そんな優との距離を空はゆっくりと縮める。

 そして。空はその体に右手で触れる。ただそれだけで、優は死ぬこととなる。それは苦痛のない死。空なりの優への気持ちを示して。

 光の粒子となって空へと消えていく光景を見届けて、空は樹の方へ向いた。


「さてと、じゃあ、樹。行こうか」

「どこへ?」

「ゲームの攻略へ」

「待って」


 久々の空との出会いよりも先に、樹は聞きたいことがあった。


「茜は助けれないの?」

「茜は、次の世界で、一人で頑張ってもらうしかないかな」

「それじゃあ、ダメだ」


 空は樹の言葉に怪訝そうな顔をする。


「じゃあ、どうするの? もう一度、始めからやり直す?」

「それで良い。それが良い。茜を見捨てることはできない」

「そう。まさか樹がここまで双子の妹を大切にしているとは思わなかった。まあ、双子だからかな」


 空はそう言って、樹に聞く。


「後悔はない? この世界でクリアできるのに。次の世界にすれば、クリアするのにさらに時間がかかると思う。今回は私がここにいるのを許されたけども、次も許されるとも限らないし。何より、樹が次も茜と会えるとも限らない」

「それでも良い。大丈夫」

「分かった」


 空は諦めたように、ゆっくりと近づいて。

 樹の胸元に振れた。


「じゃあ、樹」


 空は静かに。


「さようなら」

これで最強クラスの双子がゲームの攻略を目指す物語、終了です。

だいぶ最後は速足になりましたが、ここまで読んでくださった方、今までありがとうございました。

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