第14話 VS優1
優がこのゲームをクリアしたのは、七度目の挑戦であった。
プレイヤーは死ねば、現実世界でも死ぬわけではない。再びレベル1となって、記憶のほとんどを失って、ゲームに挑戦するだけである。
では、もしも攻略したならば、どうなるのであろうか。
優は五度目の挑戦で、トッププレイヤーの仲間入りをした。六度目も同様。ただこの二つはクリアすることはできなかった。優以上のトッププレイヤーが存在し、そして仲間に恵まれなかったからである。
その転機は七度目である。七度目でついに優はクリアするに値する仲間を手に入れることができた。
ただ、その時。強大な敵が一人いた。
その男は自身を王と名乗り、優含む六人のトッププレイヤーと戦った。
結果的に優と五人の仲間は三日の戦いの末、その男を殺すことができた。その代わりとして、三人の仲間が死ぬこととなったが。
王を倒し、見事裏ダンジョン攻略時にもらえるアイテムを揃えた優と残りの二人はゲーム制作者側からクリア報酬として、願いを聞かれた。
その願いに対して、優は記憶を持って再びゲームをクリアしたいことを願った。
「懐かしいことを思いだした」
自身がまさか、かつての王になるなど思いもしなかったことである。
いや、もしかしたら、あの王もまた、優と同様に一度ゲームをクリアしたプレイヤーなのかもしれない。
そんなことを思いながら、優は限界に近い襲ってきた四人を見る。
樹、茜、陽、護。
三人のトッププレイヤーとそれに近いプレイヤーが力を合わせて優と戦った結果は悲惨なものであった。
「強すぎじゃないか?」
護がそんなことを呟く。
これまで幾度と戦ってきた護がその考えを改めるほどの強さを優が見せてきたのである。圧倒的なまでの経験の差。
体力と魔力はアイテムで即座に回復できても、使ったスキルの使用回数限度の復活は行えない。
徐々に樹たちは押されていた。
「私を倒すなら、せめて六人ほどトッププレイヤーを集めるべきだったね」
優はそう言って、剣を収める。
ワザと負けるのも一つの手である。ただ、それはあまり意味がない。
この世界を変えるために、今回は護たちに諦めてもらわなくてはいけない。
「ハンデをあげようか?」
「ハンデ?」
「そう。私はアイテムの使用をしないし、ペットも使わない。スキルはそうね。能力向上だけ使おうかしら。これで相当差が狭まると思うのだけれども」
「それでも僕たちに勝てると言いたいの?」
「そうとも言う」
樹の質問に優は答える。
そう、圧倒的なハンデを与えたとしても、優は負ける気はしなかった。
護との闘い、あるいは龍との闘いで見せなかった、自身の力のすべてを発揮しているのだから。
「どうするの、樹?」
「さあ、どうしようか、茜」
「俺としては、ハンデとか抜かして油断している今の優を倒す他、今後優を倒せる可能性はないと思う」
「私も。そう思う」
護の言葉に陽は頷く。
樹も同様の意見である。戦うことを選ぶべきだ。その気持ちは茜にも伝わっており、茜もまた戦うことを覚悟する。
ただ、四人には優の言葉をうのみにすることはできなかった。
もしかしたらスキルを使うかもしれない。
その可能性を捨ててはいけない。あくまでスキルを使うかもしれないと考えた上で、戦わなくてはいけない。
「大丈夫。戦おう」
茜は先陣斬って、モンスターの召喚を行う。
召喚魔法レベルⅩ。召喚されるのはレベルカンストを行っている熾天使ガブリエル。
儀式召喚はもう使えない。茜が他の三人のためにできるのはこれが精いっぱいである。
熾天使ガブリエルが優へと向かい、その後ろを樹が走る。護と陽は最後尾で魔法を安全に唱える。
「真正面から来るなんて」
優は熾天使ガブリエルに対して、足蹴りを放つ。
完全武装レベルⅩと、他の能力上昇魔法により、優のステータス合計値はレベルカンストの最上級モンスターよりも高い。
ただし、その代わりに消費する魔力は相当なもので、回復アイテムを使わないと、優は能力上昇の魔法も使えない状態である。
優の足蹴りは熾天使ガブリエルの体力を根こそぎ持っていくが、一撃で倒れるほどではない。ガブリエルの通常攻撃が行われる。
光り輝く杖が現れたと思ったら、消えてなくなる。
そして、激しい光の柱となって優を襲う。それを紙一重で優は回避した。その回避した優を熾天使ガブリエルの合間から出てきた樹は剣を優へ向ける。
「当たったらよかったね」
「くっ!」
優は咄嗟に剣を抜いた。
剣で剣を防ぐ行為。樹はすぐに後ろに飛ぶ。そして樹の次に攻撃を行ったのは護と陽である。唱え終わった強力な魔法が優へと向かう。
一つは巨大な炎として。一つは青く光る鳥として。
優はその二つの攻撃を回避しようと空に飛ぶが、少しばかり優の体をかすめた。
「先に倒すべきは護かしら」
「しまった!」
優は空に回避した時点で護に標的を向けていた。
弧を描くように、体を回転しながら、優は護との距離を縮める。樹と熾天使ガブリエルが優を追いかけるが、優の方が早い。
「させない!」
陽が咄嗟にガードスキルを発動させる。
それを優は剣で一撃で破壊した。
巨大な盾は粉々となって、データの欠片へと戻る。一撃で破壊されるような弱いガードスキルではない。
「ありえない」
思わず陽は呟いてしまう。
そんな陽を横に、護も同様にガードスキルを行う。そのガードスキルを貫通させて、優は一撃を護に食らわせた。
「このっ!」
護の体力が少しばかり減り、護は数歩後ろへよろめくように後退する。それを優は見逃さない。追い打ちをさらに行う。
その時、追い付いた樹と熾天使ガブリエルが優へ攻撃を行おうとする。しかしそれは優の横をかすめるだけであった。
「どうして当たらない」
「樹が私に当てようと努力しないからじゃない?」
優はそう言って、再び高くジャンプした。
今度は後方へ。樹たちと距離を取るために。
「ダメージを与えれても、倒すまで行かないか」
優はそんな樹たちにそんなことを呟く。
一度距離を取れば、陽が回復魔法を全員に向けて使う。回復アイテムもまだ幾つかあるだろう。徐々に残りは少なくなっているだろうが、これではじり貧である。
では、まずはじめに誰を狙うべきか。
護、陽ではない。樹でもない。
「茜かしら」
優はそう言って、茜へと矛先を向けた。
回復を終え、再び戦おうと剣を向ける樹と、魔法を唱え始める護と陽。そして熾天使ガブリエルに補助魔法を唱える茜。
優は地面を蹴った。
一直線に茜へと向かう。
それを邪魔するように、 優の目的に気づいた樹と熾天使ガブリエルが立ちはだかる。
「茜狙いか?」
「ええ、そうよ」
「させない!」
樹が数度剣を振り払う。それを優は剣で防ぎ、そしてそのまま樹の横を通り過ぎて言った。
護と陽の移動速度は遅い。樹は追い付けても、この二人は優には追い付けない。そして熾天使ガブリエルが追い付く前に、優は茜を殺せるだけの力がある。
護と陽の魔法が発動される。
「どうして」
「茜逃げろ!」
樹の言葉で茜が背を向けて走りだす。
優は魔法の攻撃をかいくぐり、容赦なく茜の背中を攻撃をした。




