第12話 龍VS優1
「俺と戦うつもりか?」
「そのつもりで来たのだけれども」
目の前に現れた優に対して、龍は武器を構える。
真っ赤な槍。真っ赤な鎧。ドラゴンシリーズと呼ばれる装備一式をそろえ、特別職ドラゴンライダーである龍のステータス、スキルの種類は、全トッププレイヤーの中で最も戦いに特化していると呼べるだろう。
二人の例外を除けば、トッププレイヤーの中でトップクラスに強いのもこれが理由である。純粋な強さの他にレベルの上げやすさ、素材の集めやすさなどが考慮されている他の職業と違い、戦うことだけを考えられたドラゴンライダーが弱いはずがないのである。
ただ、相手は最強のトッププレイヤー、優。
龍には勝ち目などないし、逃げることもできない。
「はぁ、人生はうまく行かないものだな。こんなところで死ぬなんてな」
「あなたの境遇を踏まえた上で言うけども、そんなことないと思うわよ?」
「…………どういう意味だ?」
優の言葉に龍は聞き返す。
優は不適な笑みを浮かべるだけで、答えようとはしない。
死ぬことに対して、優はそう言ったのだろうか。何故死ぬことがそれほどのものでないと言えるのか。
考える時間が欲しい龍とは反対に、優は静かに武器を構える。
「おしゃべりは止めにして、いい加減戦いを始めましょう」
優は剣を龍へ向ける。
ゆらりゆらりと剣先は揺れる中、龍も同様に槍先を優に向ける。
ドラゴンライダーは、ドラゴンに乗って戦う職業である。召喚魔法で自身のレベルと同レベルのドラゴンを召喚することができる。
ただ、まだ龍はその魔法を使わない。
そんな姿を見て、優は不思議そうに。
「舐めているのかしら」
「いや。あんたと戦うのだから、普通の戦い方は無理だろう?」
「そう。なら、こちらから行かせてもらいましょうか」
優はスキルを唱え始める。
能力上昇スキルはレベルⅠからレベルⅩまで存在するが、重複はできない。それは同じスキルだけの話ではなく、違うスキルでも、同じステータスを二度上げることは出来ないのである。例えば、背水の陣と呼ばれる戦士型が持つ物理攻撃力と物理防御力を上昇させるスキルと物理攻撃力上昇を使ったとしても、最後に使った能力上昇スキルが反映され、最初に使った方の効力は消えてしまう。
しかしこれはただ一つに限り、使用が可能となっている。
それが統一型のみが取得できるスキル。
「スキル、完全武装レベルⅦ」
そのスキルを唱えた途端、優の全身は青白く光る。
全ステータスを上昇させる唯一のスキル、完全武装は他の能力上昇スキルと併用が可能である。
ことステータスで見れば最も弱いであろう統一型故に許されたこのスキルにより、優の合計ステータス値は他のトッププレイヤーでは到達できないレベルへと達してしまう。
これが優が最強と呼ばれる所以の一つになる。
そして順に優は他の能力上昇スキルの使用を始める。
体力上昇、物理攻撃力上昇、魔法攻撃力上昇、物理防御力上昇、魔法防御力上昇、物理攻撃速度上昇、魔法攻撃速度上昇、命中率上昇、回避率上昇、移動速度上昇。
この大きな隙を龍はあえて見逃し、龍は自身に物理防御力上昇と魔法防御力上昇を使用する。
「なるほど」
優は龍の目的に気づく。
戦いにおいて、残り魔力ほど大切なものは存在しない。龍は防御に集中して、優の魔力を減らすことを考えていると判断する。
能力上昇スキルは使用すれば、一定時間で効力がなくなる。何度も能力上昇スキルを使用させて、来てくれるであろう仲間の到着を待っているのだと。別の意味で弱った優を取るために、あえて攻撃を止めたのだ。
ただ、優は龍が仲間に連絡を送る仕草が見えなかった。
例え念じるだけで連絡を送れるとしても、目や手などは少しばかり動くものである。何より、空が仲間としている優は別の方法でそれを確かめる術がある。隼を空のもとに残し、龍が仲間に連絡を送ったらすぐに自身に知らせるよう言っている。
その知らせがないということは、龍は仲間に連絡を送っていないことになる。
「意味が分からないわね」
「それはこっちもだな」
「そうね」
優は考えても仕方ないと、龍を殺すことを考える。
自身のステータスが完全な状態とは言えないが、限りなく完全な優のただの移動だけですでにスキル使用時のようなスピードを誇る。
目にも止まらぬ一閃。
それを龍の首に狙う。
しかし。
「へぇ」
それを龍は槍で防ぐ。
瞬間、優は龍に幾度と剣を振るう。それを順に、冷静に龍は槍で防ぐ。防ぐ行為は言い換えるならば回避と同等である。ダメージは通らない。
優は一瞬距離を取る。
無駄にスタミナを消費する必要もない。
攻撃が通らないならば、スキルを使用するだけである。
「スキル、LMN」
優の剣先に光のエネルギーが集中する。
それは眩しく光ったと思ったら剣先から放出された。
数多の光のレーザーとなって、龍へ向かう。防御貫通型の圧倒的な火力を誇るスキルであり、ファンタジー世界には似合わない科学的な攻撃でもある。
龍はすぐさま回避を行う。レーザーは龍の隣をかすめるだけではなかった。そのレーザーは大きく右に旋回し、再び龍の元へ向かおうとその先を向ける。
「くっ!」
龍はそれに気づく暇もなく、背中からスキル、LMNの攻撃を受けた。
龍にとって知らないスキル。それを使われては回避などできるはずがない。
「まずいなぁ」
受けた痛みから、減った体力は大まか推測がつく。一割近くが削られた。そんなスキルが何十回と使えるほど燃費の良いモノとは龍には到底思えれなかったが、とはいえ十回も使えないほど燃費が悪くも思えれなかった。
では、どうするべきか。
龍は取っておいた策を使うことにした。
「さあ、もう一撃」
優が再びスキルを使用しようとした時、優はやっとでその異変に気付く。
「いけ」
コンマ遅れて、優の真後ろから一匹のドラゴンが優目がけて襲い掛かる。
そのドラゴンの攻撃でスキル使用は中断される。それと同時に、優に対して、小さなダメージが溜まる。
後ろに吹き飛ばされた優は吹き飛ばされる中、呟き考える。
「なにこいつ」
真っ黒なドラゴン。
優は真後ろを一切警戒していなかったわけではない。それでも気づけなかったそれは優を弾き飛ばし、二撃目を加えようとする。
これが龍の策。
何故、ドラゴンを召喚しなかったのか、ではない。すでに召喚していたに他ならないのではと優は考える。
地面を跳ね、地べたに倒れた優は真っ黒なドラゴンへ視線を向け。
「ベータ、行ってきて」
優はペットの召喚を行う。
ベータと名づけられた大型の真っ青なドラゴン、それが真っ黒なドラゴンと対峙する。似た強さを誇る二頭のドラゴンが戦う光景を眺めながら、優はゆっくりと立ち上がろうとして。
そんな優を龍は見逃さない。
今まさに槍で攻撃しようと優の背後に立っていた。
「防御スキル、フル…………」
「遅い!」
優が防御スキルを使う前に、龍の強力なスキルが発動した。
真っ赤で、それでいて巨大な槍が龍の背後に出現する。
それは激しい炎と共に。
優の体を貫いた。




