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第9話 樹と陽の今後、そして優と空

「それをどうして僕たちにお願いするの?」


 陽の言葉。それに対しての樹の質問。


「菫、雛、鈴。お願いに行った。でもダメだった」


 出された人物たちは皆女子のトッププレイヤーである。

 樹は陽と鈴の関係は知らないが、他の二人と仲が良いことを知っている。仲が良い相手にまず行ったが駄目だった。だから、お願いが最も届くであろう樹のもとへ来た。


「本当は来るつもりはなかった。でも、もう後がないから。あなたなら。あなたと茜が仲間になれば。すごく心強い」

「嫌に決まっているでしょ」


 樹よりも先に茜が陽のお願いを拒否する。


「あなたのお願いを聞いても、私たちに何一つ利点がない。どうしてあの化け物と戦わなくちゃいけないの」

「待って、茜」

「何、樹」

「嫌でも僕たちは聞き入れなくちゃいけない状況になっている」

「そう」

「どういうこと?」


 茜はまだはっきりと理解していない。


「優さんは陽さんと戦を危険と見なし、攻撃した。それはつまり、もしも僕たちと龍が出会っていることが優さんにばれたら、僕たちも危険ということ。相手にするならまず勝てない。ならさらに仲間を集める必要が出て来る」

「その危険は最初から考えていたでしょ? でも、バレる前に別れるつもりだったはず」

「確かにそうだった。でもその出会いが陽さんに対してだった。でも陽さんが襲ってこないならば、僕たちと龍の仲間関係は陽さんではなく優さんに対してだと、考えるはず。そうなると話が変わってくる」

「…………?」

「優さんは前者なら、後からばれても見逃すことが多い。でも後者は違う。自分に対しての危険は絶対に見逃さないから」

「でもバレることがあるの?」

「それは分からない」


 まだ反対意見よりの茜に対して、陽がとどめをさすように言った。


「あなたたちと龍。出会っていること。優は気づいている」

「な! どうして!」

「予想よりも早く。優と護の戦いが終わっていた」

「…………?」


 茜は理解できずにいたが、樹は理解する。

 こと戦闘において、優よりも優れたプレイヤーは存在しない。それと同時に、優は索敵も圧倒的な力を持っている。

 優がすべての裏ダンジョンの場所を知っているのも、ほとんどのトッププレイヤーの居場所を知っているのも、トッププレイヤーにとって共通認識である。そして、それは彼女のペットの質の高さを意味する。

 しかし、ばれないと踏んだ大きな理由の一つに、常に優と護が戦いあっている点がある。戦いをしながら索敵はまずできない。仲間に隼がいるが、隼の索敵にはそう簡単に引っかからないため安全と樹は考えていた。

 もしも樹と龍が出会っていた時、すでに優と護の戦いが終わっていたならば。

 高い確率でばれていることになる。


「分かった」

「受け入れるの?」

「もうそれしか、生き残る道がない気がする」

「ありがと」


 陽は頭を下げる。


「僕たちと仲間になるということは、龍とも仲間になるということ。龍も今の状況なら断らないだろうし。問題があるとすれば」

「トッププレイヤーが三人。足りない」

「足りないね。安全策を取れば、トッププレイヤーが四人、いや五人は欲しい」

「五人? 残りは菫さん、鈴、雛。他はバカはあちら側。龍はこちら側で、護はどっち側なの?」


 茜は指でトッププレイヤーの数を数える。

 戦がなくなった今、現在九人。


「護は多分中立かな。仲間には絶対ならない。でも優さんの仲間にも絶対ならない」

「なら菫さん、鈴、雛辺りしかないのかな。でもこの三人は陽さんのお願いを断ったのでしょ? なら、難しい気がする」

「優さんを取れる可能性が出て来るなら、聞いてくれるかもしれないよ。菫さん以外」

「菫以外は。可能性ある」

「菫さんは絶対に無理なんだ」


 茜は二人の言葉で、知らない人物の内面を少し知った。






 場所、始めの大陸。

 裏ダンジョン、白の世界の中にある、樹さえも知らない特別ルーム、空。その手前で、隼は奥の方へ向かった優を待っていた。

 そこへ優が向かったのは、樹と龍の関係を調べるためらしい。どういった方法で調べるのかを隼は知らない。ただ、決まって調べる時、優はここへ向かう。

 優が何もかもを知っているのは、ペットの質が高いからではない。この場所を知っているからに他ならない。

 ほどなくして戻って来た優は隼に言った。


「二人の出会いの理由が何となく分かったわ」

「どうやって調べたのですか?」

「裏技よ」

「裏技、ですか?」


 優の言葉に隼は疑問符を浮かべる。


「できればここは使いたくないのだけれども。樹関係となると良いでしょ。ねえ、空」


 そして、友人である空に言う。

 瞬間、その人物はどこからともなく現れた。転移などではない。無から有へ。データの欠片が集まって、その人物は生まれたのだ。

 見た目は普通の少女である。隼と同い年ぐらいか。ただただならぬ異様さを持ち合わせていた。


「別に良いよ。優は特別だから」

「この人は誰ですか?」

「私の昔からの友人よ」

「友人?」


 空は優に聞く。


「樹の人間関係を聞くのは良いけども、樹を殺すことは許さないよ?」

「さあ、それは保障しかねるわ。だって、龍との関係は陽に対してだったけども、今。陽も仲間に入れて、私をターゲットにしようとしている」

「あなたのルールにのっとれば、その三人の中で、最も強い龍、あるいは復活魔法が使える陽が最優先でしょ?」

「確かにそうね。でもできれば、あなたのお気に入りである樹は殺したいのが私の本音なのだけれども。まあ良いわ。友人の声は聞くべきだからね。それに」


 優は続ける。


「雫に対しても、ね」


 それもまた、友人の名前。

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