第6話 最強とされるプレイヤー
トッププレイヤーの中で最も安全とされているのが三人。
一人が一ノ瀬樹。他二人に、五十嵐鈴。そして、六浦龍。
危険視するべきプレイヤーは二人。
他五人、陽や戦、隼などはどちらとも言えないプレイヤーとなる。
五十嵐鈴は危険ではないが、樹たちとパーティーを組もうとは決してしない。というのも過去のことを根に持つタイプであり、過去に言ってはいけないことを樹が言ってしまったからである。故に樹の言葉に決して耳を傾けない。
もう一人、六浦龍は樹と茜と比較的仲の良いプレイヤーである。たまに物々交換をしたり、あるいは情報を交換したりと樹は交流を何度か行っている相手でもある。
彼ならば。
そんな期待と共に。
「い、や、だ」
彼、龍ははっきりと口にした。
待ち合わせ場所として使う第六の大陸、その北東にあるダンジョン、竜の別荘。そこにクエスト報酬として六浦龍の家がある。龍自身がこの家にいることはごく僅かであるが、偶然にも樹が連絡を送った時、龍は家にいた。
ドアをノックし、久々の再会もつかのま、経緯を話した結果がこれである。
家の中の椅子に腰かけながら、龍は樹と茜を交互に見ながら。
「それは俺に特があるのか?」
「僕が狙われているということは、何時か龍にもその矛先が向けられるはず。それは龍自身も嫌なはず」
「確かに、そうなる可能性はある。だがこれは違反になる。あのバカ、隼の主人である女が作ったルールからすると俺らが危険視するべきプレイヤーになる。陽から狙われなくなるだろうが、あいつから狙われることになる。それだけは避けたい」
「三人いれば、流石に勝てるでしょ?」
茜が龍に言うも、龍は首を左右に振る。
「まず無理だ。あの化け物相手に、トッププレイヤー二人ではきつい。それに茜は正直言って戦力外だ。トッププレイヤーが三人欲しい。そして、仮に襲ってくるとするならば隼の主人の方だが、隼とも戦うことになる。三人ではなく四人欲しくなるな」
龍の言葉は正しい。
樹は龍を説得できる自信はないが、彼に話して良かったとも思う。
「俺以外だと、鈴か。あとは条件次第で仲間になってくれそうなのは、戦と雛ぐらいなものか。ただ戦はどちらかというと陽よりだろう? そうなると雛だけになるな」
「雛さんは無理。職業が特殊すぎる」
「お前のサモナーとたいして変わらない職業だぞ。ただ生きた生物を使役するか、死んだ生物を使役するかの違いだ」
「僕はネクロマンサーは他のプレイヤーと共闘が難しいのは事実だけども。今はそれでも良いぐらい緊迫していると思う。ただ仲間になってくれるとは思えれない」
樹の言葉にかもなと龍が頷く。
雛というプレイヤーは特殊である。できることなら関わりたくない。
この特別職ネクロマンサーは倒したモンスターを使役する魔法を得意とする。それはモンスターを殺さなくても召喚できるが、それはネクロマンサーの強さのほとんどは発揮されない。もしもプレイヤーと戦うならば、高レベルのダンジョンが望ましい職業である。
「じゃあ、龍。条件としてこれはどう」
「なんだ?」
「裏ダンジョン攻略時にもらえるアイテムを渡す」
樹の言葉に龍が耳を傾ける。迷いが龍の視線の奥に見て取れた。
このゲームを攻略するうえで、裏ダンジョン攻略時にもらえるアイテムは必要である。仮にもゲーム攻略を目指しているならばの話であるが、樹は龍も同様にゲーム攻略を目指していることを知っている。
「確かに魅力的な提案だな。そのアイテムをどうやって集めるか悩んでいたことだ。仮に共闘して陽を倒せば、陽の分も手に入れれる可能性が出て来る。アイテムが三つになれば、俺でも化け物二人と渡り合える、いや勝てるかもしれない」
「それはつまり陽さんを殺すということ?」
「俺は自分から他プレイヤーを殺そうとはしないが、命を狙われるならば話は別だ。それはお前たちも同じだろう?」
龍の問いかけに茜がゆっくりと頷く。樹は頷かない。
これは双子の間にできた暗黙の了解。他プレイヤーを殺す役目はすべて茜が持っている。いや、正確に言えば、樹の言葉を無視して茜が殺すわけである。
茜がパーティーを組みたがらないのはこれが理由として存在する。仲間としてパーティーを組む相手の情報が筒抜けになる。この世界で何人殺したのかも相手は見ることができる。そうなれば、真実を知れば、楓や結から茜への評価ががらりと変わる要因となる。
ならば他プレイヤーを殺さなければ良い、なんて世の中は簡単ではない。
殺すという行為、望んでやるものなど少数である。
「問題は、あの女にばれることなく陽を返り討ちできるかだな。陽が再び襲ってきたとき呼んでくれ。そうすれば、すぐにでも飛んでいこう。仮にも倒すことができれば報酬を貰う。これで良いか?」
「ありがとう、龍」
「良いよ」
樹は厳しい条件ではあったが、龍を取り入れることに成功して、安堵する。
このゲームの世界で他に類を見ない、大きな変化が起こりかけていることに気づかずに。
隼は良く言えば真っ直ぐで、悪く言えば馬鹿だ。
ある人物の力を借り、トッププレイヤーまで成り上がることができたが、トッププレイヤーの器など何一つ持っていない。才能がないわけである。恐らく最も弱いトッププレイヤーである。
ただ、弱い故にその人物、最強と謳われる一人のプレイヤーに彼は絶対の忠誠を誓っている。その忠誠心は相当な脅威として。
陽と戦を襲おうと目の前に現れた。
「ばれるのはやくないか? まだ仲間になってから二日ぐらいだぞ」
「そんなもの。相手が彼女なら」
「まあ、そんなものか」
二人の目の前に現れたトッププレイヤー、隼。
弓を片手に、矢筒を背中に。服装は軽装。そんな弓使いを彷彿とさせる姿。敵意をあらわにして、弓を構え陽に矢を向ける。
「ルール違反だ。陽、そして戦。トッププレイヤー同士が仲間になることは許していない」
「お前の主人が危険だからと、自分が負ける可能性を少しでも減らすために、お前たちの間で作ったルールだろう? 俺たちが破ってはいけない道理はない」
「そうだ。だが、大抵のプレイヤーは守ろうとする。どうしてか分かるか? 死にたくないからだ」
隼から放たれた矢は陽のすぐ横を通り過ぎる。
威嚇攻撃。
受けたとしても大したダメージにはならない。
隼はすぐさま矢筒から矢を取り出す。矢筒の矢は消費アイテムであるが、隼のアイテムボックスから常に補充されるため、まずなくなることはない。
「バカ。私たち二人。勝てないよ?」
「バカ呼ばわりするな!」
次の攻撃は陽の頭目がけてのものであった。
それを陽は神楽鈴で打ち払う。矢は向きを変え、明後日の方向へ飛ぶ。回避ではなく矢の方向を変える。これは矢による攻撃が風などの影響を受けるように設定されているから出来る行為である。
「ちっ」
隼は舌打ちをする。
隼一人では勝てない相手である。出来ることなら一対一の状況を作りたいが、どうやって作るべきかと悩む中。
陽が戦に向けて。
「戦はそこにいて。私一人で。倒す」
「はいはい」
その言葉にしめたと隼は心の奥底で喜ぶ。
陽のプライドで、バカ相手に二人で戦いたくない。そう判断して、隼は陽に全力の攻撃を仕掛ける。
「俺から行くぞ!」
魔法を込めた矢。
攻撃力、射程距離、速度、すべてが上昇する。
隼は特別職、狙撃手である。これは弓や銃などの遠距離武器の力を最大限発揮させることができる職業である。
魔法が込められた矢は先ほどとは比べることができないほどの速度で、陽の胸へ向かう。それを陽は受け入れる。
突き刺さる矢。血は出ない。自身の胸に刺さった矢を陽はゆっくりと引き抜く。
「痛みはないのか?」
「全然。忘れた? 私の職業を」
隼は悔しそうに顔をゆがめる。
特別職、巫女。サモナー以上に体力にステータスポイントを振り分ける。特別職内で最も難しい職業であり、そして唯一蘇生魔法が使える。もちろん多くの制約のもとの蘇生であり、誰でも蘇生できるわけではない。
陽の体力を削り切るのは隼にとってきつい。
速度に振り分ける隼の職業は耐久型の相手と相性が悪い。
「まだだ。行くぞ!」
ただ隼はその程度であきらめたりはしない。
隼が矢を陽へ向ける。それを陽は避ける。
その一瞬の間に隼は陽との距離を詰める。そして足蹴りを行う。武器の攻撃力上昇を受けない体術など、陽にとって避ける価値もなく陽は受け止める。
そんな陽に隼は矢を向ける。
三連続至近距離ショット。
そのすべての矢を陽は驚異的な動体視力と動きで避ける。巫女のみが使えるスキルにより、行える神業。
隼は舌打ちと共に陽と離れる。
「スキル!」
「スキル、圧殺」
スキルを使い一気に攻めようとする隼の後ろ。
戦が斧を構え、先にスキルを使おうとしていた。
それに隼が気づくのは数刻遅かった。回避も防御も取れない。
「…………しまった」
転移アイテムによる逃走が可能なこの世界において、プレイヤーキルはバトルフィールドへ連れて行くか、転移アイテムをすべて使わせるか、逃走される前に一撃で倒す他ない。
陽と戦が隼というトッププレイヤーを倒す方法として、一撃必殺にかけた。
それは耐久に何一つステータスを振らない、回避にすべてをかける隼が相手だからこそできる行為。
元々陽は隼と一対一で戦うつもりなどなかった。
戦の最高火力の攻撃が、隼を襲う瞬間。
間に一人のプレイヤーが立ちはだかった。
「流石に、バカ一人じゃ勝てない相手だったね」
「…………な!」
戦の攻撃を真正面から受け止めるその姿に戦が驚きの声をあげる。
すぐさま距離を取る。なるべく仲間である陽と距離を取るように。そしてそれと距離をとるように。
早い。
そもそも陽と戦がこの作戦に出れたのは、その化け物がもう一人の化け物と戦っていたのを知っていたからであった。
だから邪魔してくるなど思っていなかった。
それなのに。
今、目の前にその化け物がいる。
「久しぶり、お二人さん。私よ」
最強とされるプレイヤーにして、最もゲームクリアに近いプレイヤー。
名前を優。




