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第5話 二人との別れ

 樹は楓が目を覚ますまで、抱え続ける。

 回復アイテムを以てしても治せないトラウマは相当なものであったが、楓の強い精神から目が覚めるまで時間はそれほどかからなかった。

 目を覚ました時、始めに目に見えたのが樹で、自分がどんな状況になっているのかを理解して。なんとも嬉しそうに。


「樹君。また助けてもらいましたね」

「楓さん、大丈夫?」

「はい」


 自分を心配する樹の声に楓は小さく頷く。

 もう少しだけ抱えてほしい、なんて思いながらも、樹に心配をさせないために楓は無理してでも立ち上がる。体の痛みはないが、うまく立ち上がれない。そんな不思議な感覚に見舞われながらも。

 樹は立ち上がった楓を見て、安堵の表情を見せる。

 そして、それと同時に今後の方針が決まった。


「楓さん。目が覚めたばかりで悪いけども。楓さんと三野さん。二人はすぐに別の大陸に移動してほしい。始めの大陸以外に。そして、なるべく身を潜めてほしい。二人を守りながら戦うことは多分できないから」

「分かりました」

「分かった」


 楓と結は樹の言葉に素直にうなずく。

 借りを作るのを拒む性格の二人であるが、あれに対して恐怖を抱いた。それは二人のプライドを粉々にし、逃げることを選ばせるものでもある。

 もしも私も戦う。なんていうかもしれないと思っていた樹からすると二人の反応はうれしいものであった。

 樹は茜に手を貸して、茜を無理にでも立たせる。


「茜、大丈夫」

「大丈夫。ありがと」


 まだふらつく茜はもう使いものにならない。

 このままでは茜は一切力を出すことなくやられてしまう。

 樹はそう判断して、二人同様に茜にも隠れてもらった方が良いと思い。


「茜も楓さんたちと一緒に行って良いよ。あとは僕が何とかするから」

「ダメ!」


 しかし茜からは欲しい答えはもらえなかった。


「こんな状況だからこそ、常に固まって動かないと。何が起こるか分からない」

「それはつまり、四人で行動した方が良いと?」

「違う。二人は弱いから隠れるべき。でも私は違う。私はトッププレイヤーに近い。だから樹と常にいるべき。そうすれば樹の生き残れる確率が高くなる」


 茜は二人に対して、弱いとはっきりと言った。

 それは茜の本心である。弱いから役に立たない。でも自分は役に立つはず。そんな意味を込めていた。

 それに怒りを見せる結。気持ちを理解する楓。茜は自分が何を言ったのかを理解して、二人に申し訳なさそうに。


「ごめん」

「別に良いよ。実際、あれとは戦いたくないから。でも、茜。あなたが樹と一緒に行動したとして、あなたは役に立てるの?」

「役に立てる。私なら」

「無理よ。私たちはあなたと違って対峙した程度では脅えなかつた。でもあなたは違う。それは次もどうせそうなる。そんなあなたが樹の隣にいても、力のほとんどは出すことができずに、死んじゃうと思うのだけれども」

「三野さん」


 茜と結の間に出来る壁。

 それを壊そうと、楓が結に声を掛ける。


「茜ちゃんにとって、役に立つ、立たないなどどうでも良いのです」

「どういうこと?」

「ただ、離れたくないだけです。家族である樹君と。ただそれだけです。だからあまり責めないであげてください」

「分かった。ごめんなさい」


 結は楓の言葉で茜の心情を理解し、素直に謝る。

 出来た溝はすべて取り払えなかったが、樹は悪い空気を壊してくれた楓に感謝を述べる。


「ありがとう」

「気にしないでください。それよりも、茜ちゃんと一緒にいてあげてください」

「分かった」


 樹は素直に頷く。

 それに満足したように楓は結の元へ駆け寄った。そして転移アイテムを取り出す。それを見て結は転移アイテムを取り出す。


「では、私たちは陽さんから見つからないように、隠れて過ごします。樹君」


 もう会えなくなるわけではない。

 それが分かっていながら、楓はどこか不安な気持ちがあった。


「また会えますよね?」

「もちろん」


 樹の頷きに安心したように、楓は結と共に転移アイテムを使った。






「これから、どうするの?」


 二人を見送った後、茜は樹に聞く。

 茜の本音を言えば、出来ることなら戦いたくないだが、そうも言っていられない状況なのも理解していた。

 だから、戦う準備を始めなくてはいけない。


「どうするべきだと思う?」


 すでに樹の中に答えはあったが、そんなずるい質問を茜にする。


「私が強くなる。レベルをカンストさせて、そしてトッププレイヤーには必要不可欠ともいえる最高峰の装備を揃える」

「それを一日でできる?」

「絶対に無理」


 時間などないことを茜は知っている。

 次は襲ってくる日は明日かもしれない。あるいは明後日かもしれない。もしかしたら今日二度目の襲撃が来るかもしれない。

 それがいつかは分からないが、陽が樹の命を狙っているのが分かった以上、準備の時間を与えるはずがない。


「だから、仲間を増やそう」

「仲間?」

「できればあの人にお願いはしたくなかったけども」


 樹の言葉、あの人が誰か茜は考え込む。しかし、答えを出すことはできなかった。


「誰の事?」

「ドラゴンさん」

「あの人!?」


 樹のヒントで導き出された答えに、茜は声を荒げた。

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