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第4話 陽と戦

 樹と茜が二人の場所を気づけたのは、楓とパーティーを切っていなかったからである。パーティーであるうちは仲間がどこにいるのかが分かるゲームシステムに助けられたのである。

 ただ、どの大陸のどの街あるいはダンジョンにいるかは分かっても、それ以上の詳しい場所は分からない。そこに少しばかり二人はてごずった。

 それに対して、陽は樹と茜がパーティーを組むプレイヤーではないと、知っていた。故にそれは予想外であり、陽は樹と茜がこれほど早く来るとは思ってもいなかった出来事である。

 その同様は陽の表情からにじみ出ていた。


「久しぶり、陽さん」


 結と陽の間に現れた樹と茜に対して、陽は鋭い視線を向ける。

 樹と茜。トッププレイヤーとそれに近いプレイヤーのコンビ。陽は魔法をはるか上空へ放った。それは真っ黒な建物の天井を突き抜けて、天井の一部が二人の間に降り注ぐ。天井の上もまた続いているのが見える。


「陽さんがこんなことをするなんて、予想外なのだけれども」


 樹と陽。トッププレイヤー同士故に、いろいろと関わりがあった仲。

 その中で樹の中で陽はそこまで危険視するべきプレイヤーではなかった。それなのにここまでの強硬手段に出ているのは、何か理由があるはずだと樹は考えた。

 陽は樹、そして茜へと視線を動かし。


「二人を相手にしては勝てない」


 陽は武器をしまった。

 それは客観的に見れば正しい判断と言える。トッププレイヤーほど臆病である。勝機のない相手から逃げるからこそ、常に最悪の事態を考えるからこそ、トッププレイヤーになれるのだから。

 予め準備をしていた転移アイテムを持ち出す陽に対して、茜がつっかかる。


「逃げるの?」

「そのつもりだけども?」

「逃がさないと言ったら」

「追いかけて、私と戦う? それも良い。でも、茜は死ぬ」

「ふざけないで!」


 怒りを見せる茜に対して、樹が抑えるように肩を掴む。


「茜。追いかけるのは止めよう。二人して戦えば、多分茜は死ぬことになるから」

「どうして」


 樹と茜の二人で戦えば、例え相手がトッププレイヤーの一人である陽にも勝てるはずだ。しかし、代償がないわけではない。陽が茜は死ぬと言ったのは、言い換えるならば陽は茜を集中的に攻撃するということ。

 誰も無駄死にはしたくないのだから。


「生き残りたいなら。追いかけないが正しい判断」


 そう言い残して、陽は転移アイテムでどこか遠くへと逃げていった。

 それを見届けた瞬間、緊張の糸が途切れ、まるで操り人形の操りが切れたように茜は地面に座り込んだ。

 強がっていたとはいえ、相手はトッププレイヤーの一人。茜では相手にならないほどの強敵。樹がすぐそばにいたからこそ、強がれたようなもの。

 茜は何度も深呼吸をして、そして結の方を見る。


「良かった。本当に間に合って」

「ううん。ありがとう。まさか借りが出来るなんて。それよりも」


 結が楓へ視線を向ける。


「楓さん!」


 樹が楓の元へ駆け寄り、すぐさま回復アイテムの使用を始める。

 経験したことのない痛みを瞬時に経験したが故に、楓の意識は朦朧とし始めていた。生気の感じない顔であったが、回復アイテムで少しばかりよくなる。


「だいたい予想はつくけども、どうして陽さんに襲われたの?」


 樹が結に対して聞く。


「白の世界の場所を知りたがってた。そして樹を殺して、白の世界攻略時にもらえるアイテムを狙っていたみたい」

「やっぱりそんなところか」


 樹はそう呟きながら、楓を抱える。

 これからどうするべきかを考えながら。






 陽は遠くの大陸まで逃げたわけではない。

 樹たちからすぐ近く。

 真っ黒な建物。それは第九の大陸に存在するダンジョン、龍のたまり場。スポーンするモンスターはすべてレベル800クラスのドラゴン種上級モンスターという第九の大陸内で最も過酷なダンジョンである。

 その入口で、陽は建物を眺める。樹たちの性格から入口から出ていくことは決してないことを知っていたが故に。


「一体、あんたは何をしたかったんだ?」


 その入口。すぐ傍に、見知った人物。

 陽は小さなため息と共に男へ向けて言った。


「さあ」

「本当に白の世界の場所を知りたいなら、もっと別の方法が良いだろう」

「私は要領が悪い」

「さいですか」


 男の名は戦。樹と陽同様に、トッププレイヤーである。

 姿はまさに戦う戦士と言った格好をしている。何より特徴的なのはその背中である。本来は一つあるいは二つの武器を手に持つプレイヤーとは違い、まるで弁慶のように様々な武器を背負っている。ただ弁慶と違いその数は実に12つである。


「それで、これからどうするんだ?」

「戦には関係ない」

「いや、あるだろう。同じ志を持った同士じゃないか。あの化け物二人に対して対抗するためのな」


 化け物二人。

 上位プレイヤー以上ならば知っていて当然の最強と噂される二人のプレイヤー。内一人は何とも厄介な正義感の持ち主である。

 陽は戦の言葉で考え込む。


「なら。戦。あなたのアイテム。頂戴」

「アイテムって、裏ダンジョン攻略時にもらえるアイテムのことか? いやに決まっているだろう。渡すぐらいなら、俺はあんたと戦うぞ」

「なら、良い」

「本当にあんたは一体何を考えているんだよ」


 ぶっきらぼうな陽に対して戦はそう言った。

 裏ダンジョン攻略時にもらえるアイテム。これは何も樹だけが持っているわけではない。偶然にもトッププレイヤー全員が別々の裏ダンジョンを攻略している。

 いや攻略できるようなプレイヤーだからこそ、トッププレイヤーになれたのかもしれない。とにかく、このゲームの世界に十ある裏ダンジョン、そのすべてはすでに攻略されている。

 仮にもトッププレイヤー全員が力を合わせれば、もしかしたらこのゲームをクリアできるのかもしれない。なんて陽は思ったりもする。そしてすぐにこれが夢物語だと気づいてしまう。


「私は行く。あのバカが動き出した」


 陽は遠くに残してペットを通して、警戒していたプレイヤーが動き出したことに気づく。


「あのバカということは、隼のことか?」

「そう」

「ということは、あのバカの飼い主も動き出したということか。めちゃくちゃ面倒だな」


 どこかへ行こうとする陽の後ろを戦は着いていく。

 面倒と言いながら、どこか楽しげに。

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