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第3話 陽

 ブドウが反応を見せた瞬間には、茜にその情報が伝わっている。

 そして茜が楓のもとへ駆けつけるには、およそ十秒ほどの時間が必要となる。それを彼女は見逃さない。

 まるで一切の躊躇い無く、ブドウの息の根を止めようとした瞬間、コンマ早くブドウの召喚は解除された。それは他のペットも同様なのを確認し、女性は都合が良いと女性二人に向けてアイテムを使用した。

 他人を強制的に転移させるアイテム。これにより、女性は二人を全く別の地へと移動させる。そして自身も。

 移動先、そこは真っ黒な建物であった。

 一瞬の硬直の後、すぐさま転移アイテムを使用しようとする楓。そして結。そこで楓は気づく。

 結が超位転移アイテムを所持していない可能性は高い。楓は逃げることは可能であるが、結は阻害アイテムを利用されては逃げることができなくなる。

 しかも楓が持っている数は一つだけ。

 逃げることは結を置いていくことになる。


「転移アイテム。意味ない」


 女性の手には阻害アイテム。

 結も数刻遅れて逃げることができないのを理解する。

 転移アイテムをアイテムボックスへ返却し、結は弱みを見せないように強きの姿勢でその女性に聞く。


「一体私たちに何用かしら」

「始めに。あのシャドースライムは、どちらの?」

「私です」


 楓の言葉にそうと女性は頷く。


「つまり、あなたに用があり、私はそちらに用がない」

「そちら? 私のことかしら」

「ええ。そう。用がない。つまりは殺しても良いということ」


 女性はそう言って、武器を構えた。いや武器には到底見えない姿であるが、殺すという言葉と構えるという言葉からそれは武器なのであろう。

 その武器の見た目は鈴がついた棒。正式名は神楽鈴。神迎えを行う際に使用する道具が彼女の武器であった。

 その時点で、相当異質なのだが、何より服装が異質である。巫女服などという防具の存在を二人は知らなかった。つまりはどういった戦いのスタイルかも見た目では判断できないということ。

 ただこちらのスタイルは見た目通りである。それを見たうえで殺すという言葉を使ったということは勝てる見込みがあるから。


「私たちはただの雑魚じゃないわよ? そう簡単に殺せるかしら」

「もちろん」


 結の言葉に女性は即答する。

 一歩ずつ女性は結との距離を縮める。その間に初めて結は恐怖を抱こうとしていた。モンスターと戦う恐怖とは違ったもの。プレイヤーがプレイヤーを殺す時に感じる恐怖。

 結が恐怖心を抱いたことに気づいた女性が、結に対して聞く。


「遺言ぐらい、伝えるけども?」

「遺言なんかないわ」

「そう、なら」


 女性がそう言って、今から人を殺すとは思えないような悲しい表情を作り、武器を構えた時。

 楓が結の前に立ちはだかった。


「邪魔」

「待ってください! あなたは私に用があるんですよね?」

「そうだけど?」

「その用の内容によってはこの方も必要になるかもしれませんよ?」

「…………」


 楓は目の前の女性が樹に関係して襲ってきたと考えた。

 女性は一瞬考えたふりをして。


「そう。でも、良いかな。二人は。面倒だから」


 女性は右足を静かにあげた。

 武器ではなく蹴るという行為。それは武器による攻撃力上昇ではない、純粋なステータスのみに依存する攻撃。それを楓はもろに食らう。


「…………っ!」


 はるか遠くへ飛ばされるも、楓の高い耐久が幸いし、死ぬことはなかった。ただ残り体力は二割を切っていた。そこまでのダメージは初めてで、楓は腹部分の痛みから激しくもだえる。

 そんな光景を見て、女性は意外そうな表情をする。

 それは生きていることではなく、この程度でこれだけのダメージを受けていたことに。


「レベル。実はたいしたことない?」

「何をして」

「弱い方を、残そうと思って。おめでとう。あなたの方が強かったみたい」


 女性の言葉で、結は自身ではなく楓を殺すことに決めたことを悟る。


「待って! 何故、殺そうとするの。あなたの目的は何なの? 一体私たちにどんな用があるというの」

「大きな声、出さないで。理由、分からない? 樹。一ノ瀬樹。彼と関わりのあるプレイヤーを私は探している」

「樹本人ではなく、それと関わりのあるプレイヤー?」

「そう」


 女性はそこで相手の名前が分からないことに気づく。それと同時に自身の名前も名乗っていないことに。

 殺す相手の名前を聞く必要も、名乗る必要もないが。殺さない相手の名前ぐらいは知るべきだろう。そう判断したのか、女性は結に聞く。


「私の名前は陽。あなたは?」

「三野、結」

「結。そう、良い名前。では、本題。白の世界は、どこ?」

「白の世界?」


 何故その名が出たのか結は数刻考える。

 そして、裏ダンジョンの発見があまりにも難しいことを思い出す。それはつまり女性、陽はその裏ダンジョンを探しているということ。

 では、なぜか。


「知っているわ。でも残念ながら、白の世界は攻略されているわよ? 樹の手によって」

「それぐらい、知っている」


 陽はそう言って、続ける。


「私が望むのは、裏ダンジョン攻略時にもらえるアイテム。そのアイテムが再び現れるのは所有者を殺した時。でも、殺しても、ダンジョンの場所は分からない。樹は絶対に教えようとしない。だから知る必要がある」

「待って。つまり、何かしら。あなたは樹を殺すつもりなの?」

「ゆくゆくは」


 陽が、樹を知らないとは結には到底思えれなかった。

 つまり知っていたうえで、勝機があるということ。


「あなた何者なの?」

「トッププレイヤーの一人」

「あなたも」


 トッププレイヤー。つまりはレベルのカンストに到達したプレイヤーの一人。わずか十人の一人。

 それで結はある程度納得した。


「命は大事。裏ダンジョンの場所。教えてほしい。そうしないと」

「脅迫?」

「それ以外の何でもない」

「い、や、だ」


 結は陽の言葉に拒否した。

 自分を庇おうとした楓。彼女を守るために。ここで素直に話せば、陽は邪魔ものである楓を殺すに決まっている。

 その拒否に陽は表情変えずにそうと小さく頷く。


「じゃあ、あなたを殺して、あの子に聞く」


 そう言って陽が神楽鈴を上へ挙げ、魔法を唱える。

 小さな魔方陣。陽が結の姿格好からある程度のステータスの予想をし、そして殺すことができると判断した魔法。


「さようなら」


 陽の声と共に、それが放たれる僅かな時間に。


「「間に合った!」」


 樹と茜が二人の間に降り立った。

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