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第9話 最上級モンスター

「というわけで集まったわけだけども」


 どうしてこうもタイミングが悪いのだろうと茜はため息交じりに通知を見た。

 宿に集まった樹たちへ、偶然にもそれぞれに同じ通知が来た。

 それはカラータウンの主人からの最上級モンスターに関する通知である。

 最上級モンスターの復活は必ずしも一定ではない。樹と茜の二人は二日後を予定していたが、どうも予定よりも早く来てしまったらしい。

 連続クエストをクリアした日程が早かったのか。それとも、クエストのクリアタイムが早かったからか。

 どちらにしろ、来てしまった以上仕方ない。


「最上級モンスターの討伐、ですか?」

「うん。もうスポーンするみたい」


 樹と楓も茜同様に通知を見る。


「どうする? 四宮さんに見つかった以上、後回しにするのも一つの手だけども」


 しかしそれは、連続クエストを再び初めから行うことと同義である。最上級モンスターはスポーンしてから一定時間経つと消えるという、時間制限が存在する。


「でもそれをしたら、何時まで経ってもクリアできないわよ? 命の危機なわけじゃないし、討伐に向かって、すぐにでも違う大陸に行けば大丈夫じゃない?」

「そうだね。そうするか」

「はぁ、また追いかけっこになるのかな」


 そんな会話をする二人に、楓は疑問に思ったのか。


「その四宮さんに、もう居場所はばれているのですか?」

「十中八九。だからすぐに向かうべきかな」

「分かりました。微力ながら、私も最上級モンスターの討伐、力添えをします」


 そう言って楓はガッツポーズをする。


「ああ、それについてなんだけども…………ごめん。やっぱり良いや」

「…………?」


 樹が前々から考えていた案を出そうとして、止める。

 それに楓が不思議そうな表情をして。


「とりあえず、楓さんのアイテムを確認しましょう。アイテムを確認したら、急いで向かいましょう」

「そうだね。そうしようか」

「はい」


 一分一秒も争うというほどではないが、とはいえ急いだほうが良い。

 楓はアイテム欄を開き、転移アイテムや回復アイテムの個数を調べる。

 超位転移アイテム1つ。最上位転移アイテム3つ。大陸単位の上位転移アイテム7つとカラータウンへの上位転移アイテム13つ。下位転移アイテム37つ。ほとんど、貰ったものか買ってもらったものである。

 同様に回復アイテムも樹から譲り受けたものである。

 この回復アイテムは、店では販売しておらず、すべてレシピによる製造か、クエストのクリア報酬でしか手に入れることができない。

 転移アイテムと違い回復アイテムは回復量に応じて10の階級がある。呼び方としてはAランクやBランクなど、その回復アイテムに付けられている階級で呼ぶ。

 現在の楓の体力を半分近く回復させるBクラスの回復アイテムが4つと、約二割回復させるCクラスの回復アイテムが11つ。そして数パーセント、あるいは1パーセント未満の回復アイテムが計51つ。魔力回復アイテムに関してもほぼ同数である。

 これらの回復アイテムは樹たちの使わない回復アイテムである。Bクラス程度の回復アイテムは樹たちにとって使用してもほぼ意味がない回復量である。そしてだからこそそれほど多くはもっていなかった。

 

「十分かな」


 樹が楓のアイテム欄を見て、呟く。

 回復アイテムを使うのは特別な時である。日常的に使う余裕はないし、いざというときに自身の命を守ってくれるアイテムは転移アイテムと回復アイテムである。多いに越したことはない。


「なら、早く向かいましょう」


 茜の言葉に二人は頷き、そのまま宿を出た。

 三人が向かうは色の森の奥にある、山である。本来はダンジョンと呼べない場所であるが、その山のふもとに最上級モンスターは現れる。

 この最上級モンスター、スルトルは真っ黒な巨人の姿をしたモンスターである。燃え立つような火炎の剣を持ち、高い耐久と攻撃力を誇る。一切の魔力方面のステータスを持たず、そのすべてを物理方面に割り振られたスルトルに有効なのは魔法による攻撃である。

 レベルが100なため、樹たちからすると脅威ではないが、レベル300未満からするとソロで討伐するのは極めて難しい強さである。


 そしてこのスルトルの討伐クエストをクリアすることによって得られるボーナスは全ステータスが1パーセント上昇する、である。

 これは言い換えるならば、レベルカンスト時、自身のレベルを10上げることと同意である。

 仮にもすべての最上級モンスターを討伐すれば計10パーセント、ステータスが上昇することになる。どれだけ最上級モンスターを討伐したかはトッププレイヤー同士の戦いにおいて非常に重要である。

 ただ、トッププレイヤーにとってこのクエストは時間が掛かるため、敬遠される。それよりも装備とペットを整えたほうがはるかに強くなるからである。


 目的地にたどり着いた時、楓はそのモンスターの巨大さに圧倒された。

 巨大な巨人。真っ黒な肌と鬼のような形相。そして自身の何倍もある巨大な燃える剣。そのどれも今まで見てきたモンスターと違う、どす黒い異様さを持っていた。

 そして、主人を守るようにして立つ、取り巻きのモンスターが複数。


「最上級モンスターの討伐はこれで三度目だけども、スルトルの取り巻きは少ないな」


 取り巻きの名前はスルトルのしもべと。樹にとっても初めて見るモンスターである。だから中級モンスターか上級モンスターの判断ができないが、少ないということは上級モンスターの可能性が高い。

 レベル100の上級モンスターが6体にレベル100の最上級モンスターが1体。


「早く終わらせましょう」


 茜が武器を構えて、召喚魔法を唱えようとしたとき、ふいに後ろの方から近づく男に茜は気づいてしまった。

 数刻遅れて樹もそれに気づき、樹が振り返ったものだから、楓も気づく。

 三人の男がすぐ目の前まで来ていた。


「やっとで見つけたぞ、一ノ瀬茜。それと、一ノ瀬樹に。もう一人は誰だ?」

「3時間ぶりかしら、四宮」

「四宮さんと呼べ。一ノ瀬茜」

「なら、私のことは一ノ瀬と呼んでくれないかしら。わざわざフルネームで呼んで、うっとうしい」

「それは断る。どっちがどっちか分からないじゃないか」


 下の名前で呼ばなければ、確かにどっちを呼んでいるか分からない。

 確かにそうだろうけどもと思いながら、茜はそれでと聞く。


「私たちは今重要なクエストの途中だから帰ってくれないかしら」

「そうは行かない。用事がなければ、追いかけてたりはしないさ」

「用事? もしかしてまた私と戦うつもり?」


 実際のところ、四宮の目的が違うことを茜は知っていた。

 だからそう言ったところで戦うことにはならないとふんだのだが。


「ああ、それも良いな。ではそうしようか」


 茜は墓穴を掘ってしまう。

 戦意がない相手に戦意を与えてしまった。


「お前たち二人はそこの一ノ瀬樹ともう一人の相手をしろ。俺は一対一で一ノ瀬茜と戦う」

「分かりました、四宮さん」

「まかせてください」

「なんでそうなるのかしら…………と!」


 四宮の先制攻撃を茜は避ける。

 その隙を、四宮は見逃さない。転移アイテムの亜種、一人ではなく範囲内の複数のプレイヤーを強制的にバトルフィールドへ送る決闘向けのアイテム。トッププレイヤーやそれに近いクラスでないと手に入れれない高位のアイテムである。

 その一瞬の隙で、茜は使用範囲から逃げ遅れる。


「しまった」


 茜と四宮がどこかへと消えた姿を見て、樹はため息交じりに呟く。


「そうなってしまうか」


 そんな樹の前に、島田と和田が立ちはだかる。

 邪魔を排除してから、最上級モンスターを戦えば良いのだが、ふと考えていた案を思い出す。

 これをチャンスとしよう、と。


「楓さん。僕はこの二人の相手をするから、楓さん一人でスルトルと戦ってみて」

「え?」


 その言葉に楓が驚きの表情をする。


「無理です。私一人であんなモンスターに勝てるはずが」

「大丈夫。今の楓さんなら、一人で倒せるよ」


 そう言って、樹は二人の男と向き合う。


「任せて。この二人に邪魔はさせないし、すぐ後ろに僕がいるから」

「分かりました! 頑張ってみます!」


 楓は決意を決めて、スルトルと向き合った。

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