第8話 再会2
「素材ってのは」
「魔女シリーズの第二。このダンジョンのモンスターにドロップするのがいるらしいのだけれども。分からないし、調べるのも面倒だから、第三の大陸まで行ってたのだけれども」
「魔女シリーズの第二か」
樹は結の言葉に思い出したようにアイテム欄を開く。
「魔女シリーズなら、悪魔系のモンスターが落とすドロップアイテムでしょ。だったらいくつか持っているけども、あげようか?」
「それは悪いわ」
「良いよ。数は結構あるし」
使う素材とそうでない素材。
魔女シリーズの装備を作る際に必要となってくる素材は凡庸性が高い。魔力の回復アイテム制作のレシピの一つやクエストに使われている。
そのためアイテム欄の空きのために、無駄な素材は捨てる樹だったが、偶然にも持ち合わせていた。
「なら、取引としましょう。魔女シリーズの第二の情報が30万ゴールドだったから、素材となれば、個数にもよるけども必要数あるなら100万ぐらいで良いかしら?」
「そうだね。それぐらいかな?」
一体いくらでプレイヤー同士で取引されているのか知らない樹は適当に頷く。
樹にとってはそれだけの価値もないのだが、相手にとってそれだけの価値があるならば、安くするのは相手にとって嫌であろう。
結という女性はなるべく対等にいたいプレイヤーなのだと、樹は判断した。
「ちなみにいくつあるの?」
「これだけ」
樹はアイテム欄ぐらいなら見せても問題ないと判断して、結に見せる。持っている魔女シリーズの素材を一番上まで運び、見やすくして。
それを見た結はへぇと頷きながら、レシピの必要数が書かれた紙と照らし合わせる。
「十分、というかあなたの素材で一通り作れるみたい。でも必要数となると相当な数になるのだけれども、良いの? これ、他に使うためにため込んでいたんじゃないの?」
「そうだけども、この程度の素材はすぐに集まるから」
「…………そうだったわね。そういうレベルのプレイヤーだものね」
納得した結は自身のアイテム欄からお金を取り出す。
それを樹に渡し、樹は変わりに素材を取り出す。お金同様に袋に入った状態で。あれだけの個数が入るにはあまりにも小さいが、ゲームの世界なのだから、気にしてはいけないのかもしれない。
「ありがとう。あなたのおかげで必要個数が揃ったわ」
樹はお金を自分のものにして。
「情報提供じゃなくて、物々交換になったから、手伝いは良いかな」
「そう? まあ、それならそれで良いのだけれども。できればトッププレイヤーの戦いがどんなものか見てみたかっただけだし」
結はそう言って邪魔なのだと思ったのか。
「じゃあ、そろそろ別れましょうか。あなたの彼女さんが睨んでいるし。ああそうだ。最後に聞きたいことがあったのだった。今日、あなたに妹がいることを知ってからいろいろと考えていたのだけれども」
「何?」
「このダンジョンをどうして二人で攻略しなかったのかしら?」
その言葉に樹は素直に答えて良いか考えて、答えることにした。
「このダンジョンの難易度の高さと、そして誰かが攻略すれば他の人は攻略できないから。名前は僕のしかない」
「そう。やっぱり」
樹の言葉に、結は少しだけ悲しそうな表情をする。
ずっと攻略しようと頑張っていたダンジョンがすでに攻略されていたなんて、彼女にとってつらいものがあった。
でもだからと、攻略者として名を刻むことはできなくても、最下層まで行こう。
そう思った結はよしと気合を入れて。
「ありがとう。そしてさようなら」
そう言って、どこかへと行ってしまった。
偶然にも結が見えなくなるとほぼ同時に、茜から連絡が届いた。
それに樹はあからさまに嫌そうな表情をする。それに気づいた楓が聞いてくる。
「どうかしましたか?」
「電話」
メールではなく電話である。
というよりも、樹が気づかなかっただけで、何度も連絡は来ていた。樹は怒っているだろうなと思いながら、電話に出る。
「もしもし」
「樹、遅い」
「ごめん、茜。それでどうしたの?」
「四宮」
「うん?」
「四宮連と出会ってしまった。クーラの塔で。仲間連れて。もしかしたらだけども、店の前で会った女性、四宮と関係があるかも」
「それはないよ」
「どうしてそう言い切れるの」
「さっき、その女性、三野さんに会ったから」
「どういうこと?」
樹はさっきあったことを話す。
「つまり、三野さんが樹を探していたのは。自分が攻略に挑戦している裏ダンジョンの攻略者として名前があったから?」
「だと思うよ。ただそれだけ。それなら、ただ見たかっただけに繋がるでしょ?」
「そうね。なら、四宮とは関係ないか。はぁ」
茜が深いため息を付く。
茜にとって四宮は苦手な人物である。
それは危険だからというわけでなく。
四宮が必要以上に茜に構ってくるのには理由がある。過去に何度と戦った相手。
二人の会話を聞いて、楓が聞いてくる。
「その四宮さんとはどういった方なのですか?」
「茜にとっての敵?」
「強いのですか?」
「強いよ。茜と互角ぐらい」
「…………そんなに」
楓にとって樹と茜は雲の上のような実力者である。
そのうちの一人である茜と互角となると、想像ができない。
「一度集まりまろう。まだ私たちがどこにいるかはばれていないだろうから」
「分かった」
一ノ瀬茜が逃げる際に使用した転移アイテムは最上級である。それも行ったことがあるどこへでも行くことが可能の代物だった。
そうなると、転移アイテムの形だけでは、どこに逃げたかは分からない。
「ふむ、なるほど」
クーラの塔が存在するのは第四の大陸である。
手始めに第四の大陸で一ノ瀬茜を探し始めた四宮は情報屋から有意義な情報を手に入れることができた。
地図を開き、始めの大陸の各町とダンジョンを見る。
「分かったんですか?」
「ああ、最近は前線ではなく始めの大陸に出没しているらしい」
「始めの大陸? トッププレイヤーとそれに近いプレイヤーが今更そこに何の用があるのですかい?」
「クエストじゃないか? 一ノ瀬樹はレベルのカンストを迎えているから、自身を強くするには装備の他にクエストしかなくなってしまっている」
「なるほど」
仲間の一人、島田一郎は質問を止める。
そして変わるようにもう一人、和田次郎が聞いてくる。
「始めの大陸と言えども、広いですぜ? 手始めにカラータウンに向かいますか?」
「そうだな。カラータウンの情報屋なら、さらに詳しいことを知っているかもしれないな」
そう判断いた四宮は今後の予定を決める。
始めの大陸で受けるべき重要なクエストと言えば、最上級モンスター討伐かペットの同時召喚を増やすクエストぐらいなもの。他のクエストはクリアしたとしても双子にとって誤差の範囲でしか能力は上昇しない。
その誤差でも積もれば何時か形に現れると判断しているのかもしれないが、それならば先にペットを育てたほうが効率的だ。
そう考えるとカラータウンが最も居そうではあるのだが。
「よし、始めの大陸に向かうか」
「それよりも、一つ良いですかい?」
「どうした?」
島田が四宮に聞く。
「どうしてそこまで、あの女。一ノ瀬茜に固執するのですかい?」
「俺は一ノ瀬茜に負けたからだ」
「負けた?」
「お前たちは自分よりも年下に負けたら腹が立たないか? 俺は思う。だからやり返すんだ。今度こそ、あの一ノ瀬茜を倒すために、と俺は今まで奮闘してきた。まあ別の理由もあるが」
「してその別の理由とは?」
「それは秘密だ」
「はあ」
四宮はそう言って口を閉じる。
言えるはずもない。
四宮にとって負けたという事実も大事だが、それ以上に一ノ瀬茜に固執するのはもっと別の感情が関係していた。




