表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

第7話 再会

 およそ三時間にもおよぶレベル上げは楓のレベルを一気に上昇させた。

 現在楓のレベルは158。モモに守られながら、楓はひたすらモンスターを狩り続ける好きな人を見守る。

 守られ、心配される。少なくとも昔の楓にとってそれは良いモノではなかった。一人で生きる術を身に付けられた楓は人に頼ることが苦手だった。

 でも、どうしてか。

 今の楓は自身のために頑張る樹の姿に何とも言えない幸福感を抱いていた。守られている、心配されているは大切にされていると同義なんだと感じ始める。

 ふと楓は樹が汗をかき始めていることに気づく。汗はスタミナが一定値減ると発生する。時間を忘れていたが、さすがに樹が疲れ始めていることに気づく。


「樹君。そろそろ。休憩にしませんか?」


 その言葉に樹はモンスターを狩った後、周囲の安全を確認して頷く。

 スタミナはまだ半分ほどあるが、精神的な疲れがあった。


「じゃあ、すぐ近くの安全地帯に行こうか」

「はい」


 樹と楓は安全地帯である階層入口まで戻った。

 現在樹と楓がいる場所は40階層。もう少し下に降りても良かったのだが、それより下は範囲攻撃を行ってくるモンスターが現れて来る。

 範囲攻撃を防いでくれるペットは存在するが、わざわざそんな危険な真似をする必要もないし、ここでも十分レベルが上がると判断した樹は40階層でレベル上げを行うことにした。

 というよりもこの階層のモンスターが樹にとって狩りやすい相手であった。

 リーフシーフ。見た目は一枚の葉っぱそのものである。巨大ゆえに景色の一つではないことはすぐに分かるのだが、このモンスターは名前の通り盗賊である。と言っても隠れるなどといったことは不得意で、プレイヤーからアイテムを奪うスキルを使うだけである。

 そんなリーフシーフは正直に言えば戦闘向けではないので簡単に倒すことができる。それでいて十分な経験値を保有している。

 何百体、いや何千体倒したのかは分からないが、アイテム欄はリーフシーフのドロップアイテムが豊富にあった。それらは不必要なため捨て、入口の扉を開けた先、階層と階層を繋ぐ階段で休憩する。

 楓はアイテム欄から食料を取り出し。


「食べますか?」

「ありがとう」


 それを樹に渡す。

 楓から受け取ったハンバーガーを樹は食べ始める。


「楓さんも何か食べたほうが良いよ」

「私は大丈夫です。先ほど食べましたから」

「そうだったんだ」

「はい」


 楓はハンバーガーを食べる樹をただじっと見つめる。

 できれば自身で作った料理を提供したかったのだが、そういうシステムは残念ながらこのゲームに存在しない。食はすべてアイテム化されている。いや、もしかしたら楓が知らないだけかもしれない。

 楓はこれも何時か話題として使おうと記憶の中に留める。


「すみません。私が役に立たないばかりに、樹君に負担をかけてしまって」

「全然、良いよ。そんなに疲れていないし」

「でも、私の気がおさまりません。何かしてほしいことはありませんか? 何でもします。何かご奉仕してほしいことでも」


 そんな言葉に樹がギョッと驚く。

 楓は樹のほうに寄り、目をしっかりと見つめる。

 楓には戸惑いが樹の中に見られた。


「ないよ。大丈夫」

「そうですか? 遠慮しなくて良いですよ?」


 楓の強引な言葉に樹がさらに戸惑いを見せ始たものだから。

 楓は笑う。


「今のは冗談です」

「…………良かった」


 からかっただけ。

 ただそれだけなのだと樹は安心したように食事を再開する。ただ相当動揺したのか、樹は誤って頬にケチャップを付けてしまう。

 汚れは気にせずとも時間経過で勝手に消えるのだが、楓はふと妙案を思いついたと。

 そのケチャップを手で取って、自身の口へ入れた。


「ついていました」

「気にしなくても勝手に消えるのに」

「例えデータだとしても勿体ないじゃないですか」


 そんな楓の行動に樹の頬は赤く染まる。

 見た目は完璧にカップルだった。

 二人だけの空間。

 邪魔など許されない。

 楓は二人っきりの時、少しずつ樹との距離を詰めようとしていた。例え樹に好きな人がいても、関係ないと言わんばかりに。こんなことを続けて行けば、そう遠くない未来に樹と結ばれると信じて。


 甘酸っぱい雰囲気に、その女性はうわぁとため息を付く声が聞こえた。

 通りたくない。そんな感情を込めて。


「何をイチャイチャしているのよ」


 樹と楓は思わず離れた。

 プレイヤーの存在。忘れていたわけではないが、樹はまさかこのダンジョンが他のプレイヤーにも見つかっているとは到底思っていなかった。仮に見つかったとしても攻略しようとする者はいないはずなのだから。

 だから、二人は驚き、その女性を見る。

 それは数時間前、出会った人だった。

 偶然を通り越して、運命さえも感じてしまうほどの早い再会であった。樹はすぐに武器を構えるが。


「争うつもりはないわ。というよりも私はあなたには勝てないわ。このダンジョンを攻略できないような私がトッププレイヤーの一人であるあなたに勝てるかしら?」


 このダンジョンすらも攻略できない、という言葉は言い換えれば。今現在、白の世界を攻略しようとしていることが分かる。

 樹は女性の言葉で剣を鞘に納める。

 というよりも危険な感じがしなかった。男性と女性だけでこれだけ警戒心が変わるものなのかと、樹は思ってしまうほどに、その女性に対して警戒が出来なかった。


「防具の素材集めが飽きて戻って来たと思ったら、先客がイチャイチャして、私へのあてつけかしら」


 女性は不満そうにそんなことを呟く。

 そんな女性に対して樹は素直なことを述べた。


「驚いた。このダンジョンを他にも知っているプレイヤーがいたなんて」

「そうなの? このダンジョンはそんなにも見つけるのが難しいの?」


 頷く樹にへぇと女性は感嘆の声を上げる。

 まるで、裏ダンジョンだと知らずに、普通のダンジョンとしてここを攻略しようとしている姿に見えた。実際裏ダンジョンとは上位プレイヤー間の呼び方であって、実際にそう言う風にゲーム内で呼ばれているわけではないのだが。

 樹はふと気づく。

 目の前の女性は本当の意味で攻略をすることが不可能なことを知らないのではないか、と。

 言ってあげるべきか、言わない方が良いのか。樹は少しだけ悩む。


「それであなたたちはここで何をしているの? まさかイチャイチャするためにわざわざ人気のない場所まで来たとでも?」

「いや、楓さんのレベル上げに。別の大陸に行っても良かったけども、ここが近かったから」


 そう言って樹は楓の方を見る。

 楓は女性のイチャイチャの言葉に反応を見せ、嬉しそうに樹の方へ寄って、後ろへ隠れる。背中に自身の胸を押し当てる。


「楓さん?」

「なんとなく、です」

「…………?」

「やっぱりイチャイチャしているじゃない」


 再び女性から深いため息が出た。

 したくてしているわけじゃない、楓さんがしてくるのだと樹は言いたいが、言っても無駄だと悟る。

 女性は樹と楓を交互に見て。


「そうだ。一ノ瀬…………だと茜と分からなくなるし、樹で良いや。樹、あなたに聞きたいことがあるのだけれども」


 樹のことを呼び捨てにする女性に、樹の後ろにいる楓は不満そうに唇を尖らす。謎の対抗心を抱いていた。

 それに気づいた女性は失敗したかなと聞こえないぐらい小さく呟きながら。


「私の素材集めに関する情報をくれないかしら?」

「情報?」

「そう。お礼に、そこのあなたの彼女さんのレベル上げを手伝ってあげる。まあ私が手伝って役に立つかは微妙だけども。少しぐらいは力になれると思うわ。私の殲滅力があれば」


 彼女さんという言葉に楓は嬉しそうな表情を作る。

 樹にとって彼女を否定するのも大事だったが、それ以上に聞きたいことがあった。


「それよりも待って」

「何?」

「名前は?」


 それに女性はそう言えば二人には名乗っていないことを思い出し。


「結よ。三野結。21歳。何とでも呼べば良いわ。見て分かる通り魔法使いよ。レベルはそうね。まあだいたい400ぐらい?」


 そう自己紹介した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ