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第9話 仲間

「パーティー?」


 宿に戻る途中、偶然にも街の入口に向かう樹たちと合流した茜が最初に聞いたのはその単語であった。

 斎藤と戦っていた茜はその間、樹たちが屋敷を出る少し前から、何を話していたのかを知らない。というよりも樹から届いた連絡の内容で自重することを決めた。

 危害を加えようとたくらむ相手には容赦ないが、確かに親しい間柄の会話を盗み聞きするのは、今後の関係に支障をきたす。

 安全に配慮するのも大事だが、プライバシーも確かに大事である。

 アンズの召喚を止め、茜が現在召喚しているのはブドウのみとなる。


「はい。茜ちゃんは嫌ですか?」


 そんな茜はもう少しアンズを召喚しておけば良かったと後悔する。それはこの質問に対してではなく、どこか二人の関係が良くなっていたからである。それを見れなかったことについて茜は自分の判断ミスを悔やむ。

 合流するや否や楓が言った言葉はパーティーを組んでくれないか、である。

 この質問については、すでに茜の中で答えは決まっていた。だから、それを正直に話すだけで良い。


「ううん」


 茜ははっきりと嫌じゃないの意思を込めて、首を横に振った。

 この問題について、茜は自分の意見を樹に伝えた時から、樹に任せるつもりでいた。

 樹が良いと判断しても、あるいは良くないと判断しても、どちらを選ぼうともそれが正しいのだろうし、何も間違いはないはずである。


「私は樹に任せるよ。ああでも」


 茜は楓が誤解しているであろうことに触れる。


「私と樹は別にパーティー組んでいないよ?」

「そういえば、そのこと話してなかった」


 茜の言葉で樹も気づく。確かにパーティーを組んでいると勘違いしても可笑しくない。


「そうなのですか?」

「うん。パーティーは組めば恩恵もあるけども、デメリットがあるからね」

「デメリット?」


 そのデメリットに茜はあえて触れない。

 このデメリットは、いやメリットと紙一重なのだが、茜にとってデメリットでしかない。そして樹にとって問題でなくても、茜にとって大きな問題になる。

 だからこそ触れない。触れてほしくないから。


「だから、正確には共に旅する仲間ということになるのかな」

「はい。それでかまいません。樹君には、茜ちゃんと三人で話したいと言われましたが、茜ちゃんは樹君の考えに一任するということで良いですね?」

「うん」

「では、もう一度聞きます。樹君はどうですか? やっぱり嫌ですか?」


 楓が期待の眼差しで樹の方を見る。

 そしてなぜか茜も期待の眼差しで樹を見て来る。

 まさかこんな結果になるとは思わず。樹は今置かれている状況を嘆く。

 嫌じゃないから困る。嫌ならすぐに断るだろうが、樹自身は楓のことが嫌いではないし、それが茜も同じなことを知っている。楓と仲間になることによって何かしらの足かせになるのは確かである。でもそんなことは些細なのかもしれない。


「良いよ。仲間になろう」

「…………っ!」


 その言葉に楓は何とも嬉しそうに、飛び跳ねた。ほんの少しだが子供のように楓がジャンプしたのだ。そして自分が何をしたのか気づいた楓は恥ずかしそうに。でも嬉しそうに。


「ありがとうございます」


 楓は深々と頭を下げた。






 仲間になった三人は午後の時間を使って、装備とアイテムを整えることに決めた。

 今後の予定として、ルルルの討伐など。本来の目的である最上級モンスターの連続クエストの攻略になる。

 この最上級モンスターを討伐する際、楓を一人残すわけにも行かないため、二人は自分たちが過去使用していた装備を渡すことに決めた。

 宿に戻り、宿の中で所持アイテムを確認する。


「流石にそこまでしていただくわけには」


 最初、楓は断ったが、樹と茜が強く出たため渋々と言った様子で受け入れた。

 装備を渡す理由はいくつかあるが、何より安全性である。楓という女性の安全を保つためには装備とアイテムが必要である。装備を整えれば戦闘で死ぬ可能性が減り、アイテムを整えれば対プレイヤーの対策にもなる。


「楓さんは黒魔法使い? 白魔法使い?」

「白魔法使いです」

「レベルは50ぐらいだったけ」

「今は60です」

「なら、この辺りの装備が良いかな」


 樹が過去手に入れた装備の中から、楓にとって適正レベルの防具を取り出す。防御より装備であり、様々な耐性を持つ。

 それを楓に渡すことで、楓のモノにすることができる。


「あとは、転移アイテム系かな」

「それなんですが」

「どうしたの?」

「あの日。どうして私の転移アイテムは使用できなかったのでしょうか?」

「ああ」


 樹と茜が顔を見合わせる。


「阻害アイテムだね」

「阻害アイテムですか?」

「このゲームは回復アイテムとか、転移アイテムを阻害するアイテムが多いんだ。プレイヤーにプレイヤーキルさせるために」

「そう、なのですね。知らなかったです」


 楓はその言葉に驚きを隠せないでいる。

 回復アイテムなどは実力があれば問題ではないが、転移アイテムは一撃で決めれなければ相手に逃げられる可能性が出て来る。転移アイテムという存在だけでプレイヤーキルの難しさは飛躍的に上がる。

 だからこその疎外アイテム。

 プレイヤーキルを補佐するためだけにあると言っても過言ではない、アイテムである。


「まあでも、そこまで気にしなくて良いよ。転移アイテムにも階級があって、下位、上位、最上位、超位の四種類があるのだけれども。阻害アイテムで使用を阻害できるのは最上位までだから超位転移アイテムがあれば絶対に逃げれるよ。使用する時間があればだけども」

「そうなのですね。良かったです」


 樹の説明に楓は安堵を見せる。

 そんな楓を見て、樹はさらに詳しく説明するべきか考え、止める。

 この超位転移アイテムの入手は樹たちでも極めて難しい。持っている数は二人合わせて十あるかないかである。

 仮にもだが、十回以上そういった危険な状況に陥れば、逃げる手段は潰えるわけである。

 茜が自身の所持アイテムを確認して、樹に聞いてくる。


「樹、幾つぐらい転移アイテム渡すつもりなの?」

「超位を1、最上位を3、上位を30個ぐらいで良いんじゃないかな?」

「超位と最上位は別に良いけども。私、この大陸の上位転移アイテムは全然持っていないわよ? カラータウンにのみ行ける上位転移アイテムに至っては一つもないし」


 下位は一つの街にのみ、上位は一つの街か大陸内で、最上位は一つの大陸内か、行ったことがある場所へ、超位は例え行ったことがない場所へにも行くことができる。

 大陸ごとに別れている上位転移アイテム、特に始めの大陸のとなれば、今の樹たちには必要がない。数が少ないのも当然である。

 樹は茜の言葉でカラータウンに転移可能な転移アイテムの所持数を調べて、個数が少ないことを確認し。


「上位までは店で買えるし、買いに行くかな」


 樹の提案に、楓が頷く。

 しかし一人、茜が別の反応を見せる。


「あ、待って。いや、やっぱ何でもない」


 そんな茜に二人は不思議そうな表情を見せた。

 茜はブドウを通して、まだ敵を尾行させていた。そして敵が動き出したことに気づいていた。ただ、まさかこんな早いとは予想出来なかったし、何より今となっては既にどうでも良い存在となってしまった。

 茜が何かしなくても時間の問題である。

 邪魔をさせないために、今すぐギルドを滅ぼしに行くか、なんて考えて面倒だからと首を横に振る。

 そして、なるようになるだろうと、茜は考えることを止めた。






「行くなら早く行こう」

「そうだね、そうしようか」


 樹が部屋の扉を開け、廊下に出る。それに楓が着いていき、茜が最後に出る。樹が部屋の扉に鍵をかける。


「そう言えば、上位転移アイテムはお店で買えるのですね」

「うん。あるクエストをクリアすれば、買えるようになるよ」


 階段で樹と楓がそんな会話をする中、駆け足で宿の外に出た茜は周囲を見渡す。

 ブドウの位置を把握。

 その位置は宿から見える範囲。目の先にその集団を発見した。

 十数人の男たちが歩く姿は街ではまず見かけない。あるとすれば、その男たち全員がプレイヤーの時ぐらいである。

 すでに手遅れである。


「何ですか、あれ?」


 鍵を主人に返す樹よりも先に外に出た楓が、その集団に目が行く。

 そして、その集団の一人の顔に見覚えがあった。二日前、楓の腕を掴んだ山崎である。その集団が楓を襲った男たちと関係があるのを楓はすぐに気づく。

 思い出されるあの日の光景。

 それに恐怖しながら。


「やあどうも。この前はお世話になったな」


 山崎がニヤニヤしながら先頭に立ち、茜と楓に話しかける。

 頼れる仲間の存在からか、前回敗北した相手というのに何一つ臆した様子はない。むしろ余裕の表情が見て取れる。


「中に男がいました」


 宿に入られては困る男たちは、すでに宿の中に仲間を潜ませていた。その仲間の男が樹を宿の外へと出す。急なことに素直に従ってしまった樹はそのまま茜達と合流する。


「何事?」


 そして、樹は男たちの集団へと目を向ける。

 その先頭の男に見覚えはあったが、何よりその奥の男に見覚えがあった。だから思わず口に出してしまう。


「轟?」

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