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第2話

カンカン、カンカン、カンカン、カンカン…


バーが降りてくる。


持っていたベビーカー。


ブーイーンと走る電車の音。


手に持っていたベビーカーを…


カンカン、カンカン、カンカン、カンカン…


私は、ハッとした。


「華菜…」


呟くように口にし、そこから私の足は、動かない。


「ごめん…」


私の心が葛藤を始める。


そして、私の足を数歩ゆっくりと動かした。


「華菜…!」


そこに…


ブーイーンと勢いよく走って来た、電車の振動で、ベビーカーは、自動的に、反対側のバーのところに行く。


カンカン、カンカン…


私は、バーをくぐり、そっち側に行こうとすると、


「助けていいの?」


耳元で囁かれた。


その囁かれた耳元の方を見ると、


「本当に、助けていいの?」


「…え?」


ベビーカーがカタカタと動いている。


カンカン、カンカン…


それでも、私の足は、ベビーカーを追いかける。


しかし、バーから、ベビーカーは、出ていく。


間に合うかな…


なぜ、手を離してしまったのだろう…


後悔する。


そして、恐ろしいことは、起こってしまった。


ベビーカーは、下って行く。


「華菜!」


必死になって、走る。


「華菜!華菜!」


前から来た車と…


呆然とした。


それを目の当たりにした私は、その場で座り込んでしまった。


「華菜!華菜!」


そう叫びながら、呼ぶ。


「ごめんね…ごめんね…」


目からは、涙が次から次へと頰を通り、目尻から流れて、地に落ちたり、もう、忙しい。


「ごめんね…ごめんね…」


一瞬にして、ベビーカーは、破壊した。


勿論、ベビーカーに乗っていた華菜は…


ただ、泣くことしか、出来ずにいた。


その車は、そのまま、逃走して行ってしまった。


取り残された私、一人?


後ろから、男の人がだんだんと近づいて来て…


「ねえ、君に、提案しよう…」


「…」


「選べ!」


「…」


座り込んだままの私。


崩れたままの私。


ただ、涙を流していた。


「警察に行くか、それとも…」


「…警察…」


立ち上がった私。


「そうだね…」


ゆっくりと歩き出す。


スローモーション。


「行かないと…」


「じゃあ、俺も行くから」


そう言い、彼は、スローモーションで歩いている私の後ろを少し離れ、歩いた。


足が重い…


重い…重い…


警察…


「華菜…」


「…」


「ごめんね…」


「…」


警察署には、あっという間に着いてしまった。


目の前まで来て、門の先へと入っていく。


ゆっくりと先程よりもさらにスローモーション状態で、歩いていく。


しかし、階段の前まで来て、私の足は、暫く、自動的に止まった。


「…」


その姿を彼は、見ていた。


「華菜…」


これ以上進めない。


自動ドアが開く。


私は、思わず、その場から、数歩下がる。


目が合う前に…


高まる前に…


警察署の門から出てしまった。


待っていた彼は、


「警察は?」


「…」


暫く沈黙が続く。


緊張感の流れる中、動けないままでいると、手が。


手を伸ばす彼。


緊張感の流れる時の中から、一瞬にして、風のせいなのか、緊張感は、だんだんと解けていく。


「じゃあ…」


「…」


「おれの嫁になれ!」


「…え?」


少し強張った顔をして、私を見ている。


「どうする?」


「……」


唇が震え、少し真っ青になる。


その姿を見た彼は、


「嫌なら、警察に行くか?」


「…」


さらに震える唇と顔色まで悪くなっていく。


華菜…


なぜ、私は…


そんなことを考えていると、


「俺の嫁になるか、警察により行くか、決めろ!」


「……そんなこと…」


「警察に行ってもいいぞ」


動揺を隠せない。


風がヒューと緩やかに吹く。


私は、歯を食いしばる。


木に粘り付いた一つの葉がひらりと、宙に浮き、ゆっくりと地に落ちた瞬間、


決めた。


覚悟した。


「私…あなたの妻になります」


警察に行くことも勿論考えた。


何度も何度も葛藤しながらも、警察に行くことが恐ろしくて恐ろしくて怖かった。


罪は、消えるわけではない。


でも、認めたくない自分もいた。


長い間、自分のお腹にいた子供に話しかけたり、散歩に行ったり…


夜泣きが酷く、なかなか、眠りにつけず、朝は、明日は、何気なく来てしまう。


消えない。一生。


でも、認められる訳ない。


いくら自分が招いてやってしまったことだけど…


そうなんだけど…


警察に行ってしまったら…


「華菜…」


揺れる葉たち。


呟いても聞こえないふりをした彼は、


「では、行きましょう…」


そう言い、歩き出した。


私は、少し後ろを歩いた。


今まで、こんな震えたことなかったのに、景色は、ガラリと変わった。


それは、暗闇の中で、光なんて一つもない、クレヨンで真っ黒に塗られた世界だ。


これから…


どうなって行くのだろう…


緊張感と不安が走る。


恐怖が走る。


警察に捕まるのだって…


時間の問題ではないだろうか。


その時、私は、なんて言うのだろう…


華菜!


お母さんのこと、一生、許してくれないよね…


ごめんね!ごめんね!



「着いたぞ!」


そう言われ、


「え?」


下を俯いていた私は、上を見ると、一軒家の普通の家が建っている。


呆然としていると、


「何、してる?」


「…え?」


「早く、入れ!」


「は…はい…」


私は、その家の中に入っていく。


彼は、玄関の鍵を閉め、部屋の電気を付ける。


部屋の奥まで私は、ゆっくりと歩いていく。


きれいな部屋である。


キッチンもしっかりと整っており、埃一つない。


リビングも茶色のフサフサとしてそうなカーペットが敷かれており、ガラスのテーブル。


その上も、きれいに吐かれており、雑誌一冊とテレビのリモコンが一緒になって置いてある。


置かれる位置が決まっているかのような部屋である。


本棚にもきっちりと番号を揃えて並べられている。


窓際のすぐ近くには、緑もあり、いい部屋だ。


緊張していた。


でも、少しワクワクとした。


「好きに使って」


「…」


「家事全般は、任せるから」


「…はい…」


「じゃあ、取り敢えず、風呂、先に、入る?」


「…」


「いいよ、先に入って、湧いてるから」


彼は、そう言い、違う部屋へと入っていった。



ということで、私は、着替えを整え、脱衣場に行き、浴室に入る。


頭を洗い、顔を洗顔で洗い、身体を洗っていた。


風呂の蓋を開くと、薔薇の花が三つくらい入っていた。


「おしゃれ…」


その湯につかい、薔薇の花の香りに包まれていた。


すると、


「タオル、好きなの、使っていいから」


声がした。


「…はい」


その声が聞こえたのか、黒い影は、消えた。


30分くらいして、出ると、いい匂いが漂っていた。


着替えて、リビングまで、歩いた。


彼に声をかけようとすると、


「こんばんは」


「…こんばんは…」


私は、挨拶を返した。


結構の年配の方であり、少し腰が曲がっている。


こちらを見て、微笑んでいる。


「湯加減はいかがでしたか?」


「…ちょうど、良かったです…」


緊張しているのが伝わったのか、


「そんなに、堅くならなくて大丈夫だすよ」


優しい声だった。


「夕食は、出来ていますので」


「…はい、ありがとうございます…」


微笑んでいる。


いい匂い。


「宜しかったら、食べてください、私は、これで、失礼します」


年配の女の人は、微笑みながらお辞儀をして、ゆっくりと、動き出した。


「あっ…あの…」


思わず、声を掛けてしまった。


「宜しかったら、一緒に食べませんか?」


「…え?」


「せっかくですし…多い方が、もっと、おいしいでしょうし…」


その年配の女の人は、一瞬、考え込んだような顔をして、


「でも…」


「それとも…待っている方がいらっしゃるとか….」


「いいえ、私の夫は、もう、ここには、おりません」


「すっ…すいません…」


「いいえ、気にしなくても大丈夫ですよ」


ずっと、その女の人は、微笑んでいる。


「じゃあ…一緒に食べましょう」


「はい、ありがとうございます」


微笑みながらお辞儀をして、椅子に座った。


私は、箸を持ち、食べ始めようとした。


「いただき…」


止まった私に、


「どうしたんですか?」


「…あっ…ちょっと、待っててください…」


そう言い、別の部屋の個室のドアを私は、ノックした。


そして、声が聞こえなかった。


そっと、その個室のドアを開け、囁くような声で、


「失礼します…」


そう言い、そっと、入る。


机に向かって座って何かをしている彼。


その彼は、私は、口を開いた。


「あっ…あの!」


彼は、振り向いた。


「何?」


「あっあの…一緒に食べませんか?」


「…」


「せめて、今日くらい…」


「…うん」


照れたような顔で、言う。


そして、三人でその日の夜は、夕食を済ませた。


その後、私は、洗い物をして、食器をきれいに拭い、食器棚に洗って拭いたものを、片付けた。


彼は、食べ終えて、直ぐに、また、個室に閉じこもった。


年配の女の人は、微笑みながら、


「ありがとうございました…」


そうお礼をして、帰って行った。


それから、彼女に会うことはなかった。


彼女を、家政婦として、雇っていたらしかった。


だけど、私が来ることを知り、私が彼女の仕事を奪っていた。


ごめんなさい…



それから、時は、3日経った。


まだ、慣れない部屋。


朝は、 6時くらいに起き、さっさと、彼のお弁当を作っていた。


朝食と。


7時くらいになって、目覚まし時計で起きて来た彼。


「おはようございます」


「…うん…」


まだ、ちゃんと、起きていないようだ。


「あっ…あの…お弁当、作ったので、ぜひ…」


用意の整った包みを渡した。


「ありがとう…」


小さな声だったけど、うれしかった。


「朝は、ご飯って、食べますか…?」


「…じゃあ…」


テーブルに作った料理を並べると、それを見た彼は、


「結構、料理するの?」


「え?」


「うまそう…」


そう言い、卵焼きを口に運んだ。


「うーん…うまい….」


「良かったです….お口に合って…」


「…」


「あのさ…夕飯は、いいから」


「え?」


「食べて帰って来るから」


「…はい…」


「あと…本当に美味かった….」


鼻を擦り、照れたような顔をして、


「じゃあ….」


私は、玄関まで少し走って、


まだ、靴を履いている彼。


「行ってらっしゃい…」


「…行って来ます….」


そう言い、彼は、家を出た。


ドアが閉まった瞬間、距離を感じた。


昨日とは、まるで、別人の人のように…


それから、私は、洗濯物を干し、朝の洗い物を片付け、一息ついた。


テレビを付けた。


すると、ニュース。


忘れていた。


そう思った。


私は…


忘れてはいけない。


立ち上がり、キッチンに向かい、コーヒーをカップに注いだ。


一口、口に含む。


ふーぅ


息を吐き、再び、ソファーに座り、テレビを見ていた。


そこに、


ピンポーン、ピンポーン!


チャイムが鳴った。


画面を見てみると、


「宅急便です!」


男の人。


出ていいのだろうか…


いや…


そんな葛藤を繰り返しているうちに、行ってしまった。


ふーぅ


息を吐き、戻った。


時計を見ると、9時半。


淹れたコーヒーを口に運んだ。


それと同時に、


掃除でもしようかな…


そう思いながら、


はーぁ


ため息を吐き、掃除機をかけ始めた。


ふと、かけ始めていると、葛藤は始まった。


本当にこれで、良かったのかな?


不安と緊張が走る。


取り敢えず、掃除!掃除!


部屋の片隅まで、掃除をし、再び、コーヒーをカップに注ぎ、口にした。


気が付いたら、12時過ぎだった。


「お昼か…」


適当に冷蔵庫を荒らす。


その中身を見て、


「買い物にでも、行こうかな….」


そう呟き、鞄を持ち、家を出た。



歩いていた途中である。


「風見!風見!」


そう呼ぶ声がした。


呼ばれている気がした。


振り返る。


「やっやっぱり…」


「中嶋くん?」


「そうだよ」


「久しぶりだね」


「そうだね」


世間話が始まってしまい、彼は、


「ねえ、お昼、食べた?」


「え?」


「まだ、だったら、一緒にどう?」


「…うん…」


あまり乗り気ではなかったが、断ることの出来ない性格のせいで、行くことになった。


世間話、たわいごとのない話をしながら、歩き、辿り着いたレストラン。


「ここ…」


「来たことあるの?」


「…うん…一度だけ…」


「そっか…」


何となく、気まずい空気になってしまい、どうにかしようと考えていると、彼から口を開いた。


「風見、大変だったよな….あの時….」


「…」


さらに気まずくなっていく空気。


「今、どうしてるの?」


その問いに、呆然とした。


「どうしたの?」


「…何でもないよ….」


「そう…?」


「俺は、今、サラリーマンとして、役所で働いてるんだ….」


「そうなんだ…」


「私は…事務として…働いてる…」


「そうなんだ….」


以前は、やっていたけど、今は、もう、辞めたところだ。


だって…


忘れがちだが…


「ねえ、ライン、交換しない?」


「え?」


「嫌だった?」


「…そんなことないけど…」


一緒にお昼を済ませ、夕飯の買い物をするため、彼と別れた。


「じゃあ…」


彼は、私に微笑みながら手を振ってくれ、その場から去って行った。


彼の姿が遠くなって行った時、私も方向を変え、歩いた。


そして、スーパーに行き、買い物を済ませ、家へと向かった。


今日….帰り…遅いって行ってたな…


空を見上げてしまった。


「華菜…」


なぜ、私は、あんなことを…


後悔する。


はーぁ


ため息を吐きながら、夕飯の支度をした。


部屋に入ると暗い。


電気を付け、支度をし始めた。




仕事が終わり、俺は、キャバクラに行った。


いつも、してることだ。


対して、変わったことをしているわけではないのに、なぜか、新鮮に感じた。


「来てくれたのね」


いつもの女が来た。


彼女は、知らない。


俺がこんなことをやっているなんて。


「奏多!」


いつも通り、飲みながら女に囲まれながら楽しんでいた。


だけど、いつもと違うのは、何故だろう。


浮かび上がるのは、彼女。


なぜだろう…


まだ、僕は、知らない。


この気持ち。




玄関の明かりを付け、家の奥まで入っていくと、リビングのソファーの上で、彼女が眠っていた。


「おい、おい!」


声を掛ける。


しかし、目を開けない。


「まじかよ」


俺は、彼女を持ち上げ、ベットの上に運んだ。


目から涙を流した彼女。


ひとつなぎの涙は、なかなか、消えずに枕の位置に落ちた。


思わず、俺は、彼女の頰に自分の唇が触れた。


自分で驚き、呆然としていると、


「あっ…おかえり…なさい…」


半分目を開く彼女。


「…只今…」


安心したのか、彼女は、僕の小指を離さないまま、眠りについていた。


僕は、そっと、小指を抜け出し、個室へと戻った。


個室にあるベットに横になり、気が付いたら、夢の中に入っていった。


僕らを見守っていたまん丸のきれいな月だけ、包み込んでくれていた。



「華菜…」



「春美…」



それぞれにそれぞれの名前を寝言のように呟きながら。


葉たちは、風で激しく踊っているかのように、揺れていた。

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