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瞑想迷走 蛙よ走れ  続  作者: らいのべーる
8/9

必然

 女性は私の話を聞き入り、一人納得するように空を見上げた。何かを振りきるように閉じ込めるように瞳を閉じては見開いていく。


 それは私の話から何かを抜き入れるもののようで他からの解釈のもと自然と淘汰されるものであり、三者の思考の上成り立つものである。それ故に私の話に耳を傾けずとしても明白な答えは存在している。


 確かめたい 


 その矛盾による曖昧なる感情は、一人拳を握り歩くことも出来るが、誰かにもたれ歩きたくなるものでもある。時が経ち蟠りをほどくこともあれば、一時の言葉で成し得ることもある。


 女性は私に頭を下げては暗い畦道を歩いていった。とぼとぼとした足取りは力強く土を踏み、痛みを忘れるように挫き倒れた地蔵の前まで戻っていった。


「非礼に恩を掛け 助けて頂き申し訳ありません」


 地蔵の前で深々と下げる体から、ゆらりと揺れる影が見えた。


「何もしておらぬが もう丈夫か?」


 言葉を通して心配する心が覗きこむ。些細な出会いに奥に入れば情が湧き、経過結果を見ることも無いゆえに残る思いに悩みだす。


「どちらに悔いても 涙はでます 故にまだ見ぬ悔いに 涙します」


 女性はそう言うと痛めた足も軽やかに、前を向いては歩いて行った。気丈に振る舞うその姿は悲しくも憂いに満ちた影となり、暗い視界に光を放つ。


 どれが何かと、何がそれかと。納得させる何かとは他人が見せる物ではないが、他人が並べることはできる。座る卓の前に並べ差し出し、これみよがしに話をすれば、何かに気づき蜜を得る。しかし、その気づきに気づきもしなければ、ぐるぐると回旋するように探し回るのである。そしてそこで得るモノを見つけたならば、一直に求に向かうのである。



 女性が目の前からいなくなり、暗い夜空に光が射した。山の奥から太陽が昇ってきては、迷いくすぶる背中を押していく。


「誰とて始めは怖いもの 行けばわかるて 相手も同じ、、、か」


 地蔵の前で両手を合わせ、思う心に手を打った。知らぬ場所で知らぬ女性と知り得るものに、我が身を覗けば皆同じ。


 日の出と共に山の奥から酉が飛んでくる。ひゃーともぴゃーとも聞こえる声に拝む両手を解きはなし、地蔵に礼を言っては上を見た。


「お前は いったい誰なんだ」


 酉を見ては言葉を発し、にやけるように笑いだした。


 一つこれと決めつけるよりも、何か何かと選ぶ方が悩む楽しみがあるというもの。それはこれから出合う起こり得る事柄に、未知の希望を見せるということ。一つ一つに意味があり、一つ一つに気づきがある。そしてそれは渡し渡され繋がっていくのである。親が子に教えるように、親もまた子に教わるということである。


 酉は頭の上を旋回し、手を振るように羽を羽ばたかせて飛んでいった。足元には返したはずの風呂敷が置いてある。


「はて どうしたものか」


 腰を落とし、風呂敷を掴んでは地蔵の顔を見た。地蔵は黙って佇んでいる。


 辺りは日の光に白く輝いている。



 どうしたものか届けようかと悩んでいると後ろから声が聞こえてくる。


「あら 起きたんですか?」


 振り返ると娘が後ろに立っていた。


 何が起きたかと言葉を失い、横に上にと目を向けては挙動不審に唖然とした。


「あらあら 寝ぼけついでに何を持っているんですか?」


 唖然とする所に、娘は風呂敷に指さし聞いてきた。


「あ、、ああ、、」


 娘の言葉に整理つかぬ頭で掴む風呂敷を解いて見た。


「あ、、これは」


 中身を見ては時が止まる。中にあるのは連れのもの。出合う当時の思い出の品。


 娘は隣に座り覗き込む。私はそうだなと中の品に手をやり話を始めた。


「これはお前が生まれる前の、、、」


 語り継がれる思いの話。出会うことで互いを知った。聞いた相手と違うと知って、互いに笑った記憶の話。


 酉は雛を暖め孵していく。餌の食べ方与え方。自然と学びて伝えていく。飛び立つ時は雲に隠れ、やがて巣立ちを見送っていく。そして飛び立つ雛は、親と同じに舞い戻る。


 忘れぬモノを忘れたとしても、思い出すモノを残していく。それは繋がる過去に未来を託すのであり、今を見つめて動きだすものである。


 酉は過去を見せるように空を羽ばたき、繋がる先を見せてくれる。


 私は娘に話をしながら、連れとの思い出に出会った当時を頭に浮かべた。



「遅くなり 申し訳ありません」

「いやいや どうした 足でも挫いたのか?荷物はどうした?」




 ―完―   章 酉




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