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瞑想迷走 蛙よ走れ  続  作者: らいのべーる
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裃を脱ぐ

 痛めた足を引きずる姿は、何とも心痛いものである。目に見て痛いと判るものは己の痛みに感じてしまうからである。けれど、どんな痛みかわからずに、丈夫 丈夫 と心配心に口を出すのも些か違う。見た目に痛いと取れるなら、痛いに決まっているのである。気丈に振る舞う姿に丈夫か平気かと聞くも聞かぬも自分の思考に溜め息が漏れては、いっそのこと自分が取って代わってやると、身勝手な思いに舌を噛む。


「足はどうだ?」


 言う事欠いて相手に委ねる。己の無能に腹が立つ。怪我を負って助けてもらい、その後に及んで弱音など、口にする者がいるというのか。言わないであろう。無理を承知で吐き出させても、私の箸にはかからないというもの。かかるとしたら、赤面の至りと相手にかかるだけである。


「お陰さまで 楽になります」


 女性は私の心を見透かすように、健気な言葉に情を乗せた。


 痛くも苦しくも弱気を吐ければ楽にはなるが、気休め程度のものである。けれど、気休めさえも出来ないことも多いにある。それは話す相手がいなければ成す術がないからである。近くに居ようとそっぽを向かれては寄りかかれぬというもの。己よがりに弱気を攻め立てれば盾をかざされ、綱で縛り罠を仕掛けて捕まえようがひょいと腰を浮かせて逃げられてしまうのである。まさしく自尊と謙遜のせめぎあいである。



 肩に手を添え歩く女性の歩に合わせ、刻々と暗くなる視界に足がとられた。もたつく体に笑い声が耳をつく。


「いやいや これは面目ない」


 もつれる足に女性の着物が絡み付き、顔を隠して羞恥を見せる。


 男たるもの胸を張り、女たるもの、、、と、一代の歌人は唄ってはいるが、そんなものは猫の餌にでもしてしまえ。猫も足で砂をかけることとなるであろうが、そんな論など理にもならず。見てくれだけ着飾ろうとも着ている己が醜くければ、猫も杓子も尻をみせることとなる。しかし飾らぬ己を見せさえすれば、どんな布でも立派に見えるというもの。さすれば自然と交わす言葉に花が咲くというものである。


 頬を賑わす照れの類いは、風に乗って田畑を駆ける。畦の横に流れる水路からは笑うようにしぶきが跳ねた。


「寒くないか?」

「ええ 平気です」


 他人同士が気を張るも、ひょんな事から袖が合う。暗く静かな畦道も、痛む足さえ軽やかになっていく。


 畦を歩いて田畑を抜ける。肩寄せ合いに話は溢れ、次第に相手を見るようになる。


「今更なんだが、、、まぁ要らぬか」


 歩き歩いて名を聞いていない事を思い出した。しかし一時の出会い。そんな大層な連れ合いではないと、聞くことを止めた。それはそこで終わりだということではない。名を聞かずにも連れ合うこともある。しかし今まで一時の事に名を聞くことはしたことがない。縁が有れば何度と出会う。出会わなければそれだけのことである。


 一度顔見せ 二度三度  

 四から六度は すれ違い

 七度見せては 連れ添う間

 八度見せては 盃かわし

 三三九度と馴れ初め交わす



 縁と絆は意味は違えど交わす度合いで変わり行くものである。度を飛び越え交わすものも在るが、私はそこまでは度胸がないわけである。


 足の痛みも和らぎをみせ、暗い夜道に家々の灯りが見えてきた。


「あの辺りか?」


 家々の光に指を差し女性に聞いた。


「。。。はい」


 女性は一瞬目に黒く光閉ざしては、瞬きと同時に微笑み返した。


「ならば そこまでだな」


 女性の心に見ぬ思いを察するも、聞くも聞かぬも情がいる。節介やきと言われることも年を重ねれば多いに出会う。けれど、一度の間にそこまでしては情も風情もあったもんじゃない。


 女性は家々の光に足を止めては呼吸をし、忘れる痛みに足を引きずる。


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