予兆
今回から2章です。
「んー.....」
伸びをして立ち上がる。
課題を消化するという作業に一段落着いた。
「飯にすっか。」
時計は11時30分を指していた。
わざわざ手の込んだ物を作る気にはなれず、カップ麺で済ませることにした。
ダラダラと麺をすすっていると、ふと昨日の心咲との会話を思い出した。
『明日は一日中ここにいれる。』
あいつ飯食ってるのかな.....。
なんとなく気になったので、出掛けてみることにし
た。
最初こそ不気味だった登山口だがこの4日でずいぶん慣れた気がする。
「毎日来てるよな.....」
その内俺まで山に通うようになってしまうのではないかと感じている。
見慣れた登山道を登ってしばらくすると心咲を見つけた。
「よぅ。」
「樹くん、何か嫌なことあった?」
「ないよ。」
定位置に座ってから本題に入る。
「お前さ、飯食ってるの?」
心咲は少し間を置いてから
「そんなこと聞きにきたの?」
と聞いてきた。
「悪いか?」
心咲は小さくため息をついてからこう言った。
「食べてないよ。」
やっぱりな。
「食えよ。これ。」
途中で買ったサンドウィッチを手渡す。
「ありがと。」
しばらくすると葉月がやってきた。
「あ、いたんだー。」
「なんだその荷物?」
「これ?あー、図書館寄った帰りだからだよ。」
土曜に図書館で勉強だなんてな.....。俺には到底真似できそうにない。
そんなこんなでいつも通り休憩をしてから下山を済ませた。
心咲と別れて住宅街を歩いている。
「ねぇ、少しいい?」
「ん?何だ?」
近くの公園に立ち寄ってベンチに座る。
「樹さ、山好きなの?」
「好きかはわからんが、落ち着くんだよな。」
「ふぅん.....」
葉月にしてはえらく歯切れが悪かった。
「なぁ葉月。何かあったの?」
葉月は黙り込んでしまった。
.....
沈黙が辛いので話題を変えてみることにした。
「葉月は植物になりたいって思うか?」
「えっと、何?」
わけがわからないよ、と言いたげな葉月。
「心咲が言ってたんだよ。植物になりたいって。」
「うーん.....植物かぁ。うーん.....」
しばらく考え込んでから
「人間のままでいいかな。」
そう言うと葉月は立ち上がった。
「心咲ちゃん、そんなに嫌なのかな。」
それはわからない。
そんなの言わなくても葉月はわかってる。
沈黙の中、葉月が切り出した。
「ねぇ、樹。」
「ん?何だ。」
「賭けのこと、覚えてる?」
は?
.....そう言えばそんなことした気がする。
「明日、空いてる?」
「空いてるけど。」
「じゃあさ、明日私の買い物に付き合って。」
そう言った葉月の表情はいつもの笑顔だった。
ありがとうございました。