息抜き
生徒会長の話で疲れた樹が山行ったところです。
さっきの話のせいで午後の授業には全く身が入らなかった。
そして今は山にいる。
今日は1人で山に来たのだが、まだ心咲は来てないらしく見当たらない。
葉月は今日は山へは来ないらしく、
「気をつけてね。」
とだけ言われた。
あいつ、何かといつも心配してくれるよな.....。
しばらくボーッとしてたら心咲が来た。
近くに座り込むと、こう言った。
「昼休み、ぼくのことで呼ばれたんでしょ?」
「.....そうだ。」
隠しても無駄っぽいので素直に白状した。
「どう思った?」
「メンドクセーって。」
それを聞いた心咲は笑っていた。
「家にいるとさ、植物になりたいって思うんだ。」
「植物?」
言ってる意味がよくわからなかった。
「なりたいと思ってなれるものなのか?植物って。」
「なれないよ。なりたいってだけ。」
自嘲気味に心咲は言った。
「今は忙し過ぎるからさ。
植物なら自分の生にだけチカラを注ぐでしょ。
他人に生き方を強要されたりしないと思うんだ。
それに、この山の植物ならずっとここにいれるし」
「なるほどな...」
「おかしいって思わないの?」
「強要されるの嫌なんだろ。好きにしろよ。
反対はしない。」
「樹くんは、絶対木が向いてるよ。」
「向いてるって言われてもな。なりたいって思ったこ
とないし。」
心咲はそれには返事をしなかった。
植物になりたいねぇ...。
しばらく何もせずにいたら心咲が声をかけてきた。
「もう少し歩いたとこにも、休める場所があるけど。
行く?」
「へぇ、ここ以外にもあるのか。」
このままここにいても休めるが、ここ以外にも休める場所があることに興味が湧いてきた。
少し帰りが遅くなりそうだが、行ってみることにし
た。
心咲の言う場所まで少し歩くらしいので少し話をしていた。
「いつから山来てるんだ?」
「そうだね、お爺様が亡くなってからだから.....
中2の頃からだね。」
3年間も山に通ってたのか。
そりゃ詳しいわけだ。
生徒会長の話では遺産相続でもめてると言っていたのできっとそこに絡んでいるのだろう。
「植物になりたいって思ったのは中3の頃。進路希望調査に書いて呼び出しを受けた。」
おい。流石にねーよ。
そんな話をしながらしばらく歩いていると
「着いたよ。」
心咲が正面を指さした。
「ほぉ.....」
最初の方の場所でも、こんな場所があったのかと驚いたものだが、ここはそれを更に上回っていた。
先程の場所にはなかった池があり、その池を中心に芝の空間が広がっていた。
「ここの水、登って来る時の滝に繋がってる。」
「あぁ、あれにか。」
少し水の音を嗜んだ辺りで、日が暮れてきた。
「明日は土曜日だから、一日中ここにいれる。」
そう言う心咲はとても嬉しそうだった。
「一日中ここにいるつもりなのか?」
「そうだね。土日祝日はだいたい。」
心咲って山にいる時、凄く楽しそうなんだよな。
学校にいる時より口数も増えるし、笑顔を見せることも多くなる気がする。
口には出さないがそう思った。
下山した後、別れぎわに心咲に聞いてみた。
「家帰るの 嫌か?」
「できるなら、山にいたいな。」
心咲らしい答えだった。
ありがとうございました。