出芽
心咲の病室に着いた。
扉を開くと、窓の近くのベッドの上に心咲は座っていた。
「よー......心咲.....」
反応はない。当たり前か...。
身体に動くような様子はない。
目は開いているものの、どこを見ているかはわからない。
さらに人工呼吸器が取り付けられていた。
生きてはいるようだが、生気は全く感じられなかっ
た。
本人には悪いけど、気味が悪い。ニセモノを見ているようだった。
少しすると扉が開いた。
「樹くん。来てたのね」
会長だった。
「えぇ.....まぁ.....」
「樹くんが来てくれたことは心咲も喜ぶと思うわ」
「そうですかね.....だと良いんですけど」
「喜ぶわよ。心咲はあなたのこと好きだったもの」
「それ.....知ってたんですか?」
「わかるわよ。“木みたい”にはそういう意味があるの
よ。私の考えだからホントのところはわからないけ
ど」
「で、樹くんはどう思ってるのかしら。心咲のこと」
しばらく何も言わずにいると、そんな俺を見て会長がため息をついた。
「あなたね.....
続きは医師に遮られた。
「すみません。紅林さん、心咲さんのことでお話
が.....」
「少し失礼するわね、樹くん」
そう言って会長は医師とともに病室を出ていった。
ここでもはっきり言えないのか.....。
昨日葉月にしっかり向き合えって言われたのに
な.....。
改めて、心咲を見た。
山での心咲が思い浮かんできた。
山にいる時の何よりも楽しそうだった心咲。
よくわかんない話をほんわかと喋る心咲。
木の実のためにぴょんぴょんしてる心咲。
今までのように一緒に山に行きたい。
わけわかんない話でももう一度聞きたい。
そんなふうに思った。
あ。
こう思えるってことは、心咲が好きってことなの
か.....。
あまり確かなものではないが、自分の気持ちに気づけた気がした。
心咲も言ってたしな。
好きなものに好きって言っただけで、どうかしろってわけじゃないって。
だが、今は伝えられない。伝えても伝わらない。
だから、治ってくれねぇかな...。
僅かな可能性を信じた。
会長が戻ってきた。
さっきの質問に答えようとしたが、会長の顔が暗い。
なんとなく言い出せなかった。
「心咲はもう、戻らないのかしら.....」
「何で.....会長がそんなこと.....」
「そうよね.....」
「会長は、心咲に治って欲しくないんですか?」
「治ってほしいわよ、けど.....」
けど?
「医者に.....看取りを考えろと言われたわ...」
「みとり.....って、何ですか?」
「.....心咲を死なせてあげることよ」
ありがとうございました




