説得
どうせ家にいても仕方ない.....。
そう思って今日は山に向かった。
入口、滝、芝生の場所を適当に眺めながら奥の場所に向かった。
とりあえず岩に座る。だが
いつもなら心咲が隣にいるはず。
そして良くわからない話を始めるはずの場所。
心咲がいないことが、逆に心咲のことを意識させられてとても気持ち悪かった。
居心地はあまり良くない。
しばらくはそこにいたが、とても落ち着けるような感じじゃなかった。
帰ろうか、と思った時。
あ。
多分向こうもそう思っただろう。
葉月がいた。
「樹も、来てたんだ。」
「お前こそ、なんで.....」
お互い理由は言わなかった。
葉月は俺の隣に座った。
葉月とは昨日のことがある。
心咲と葉月に板挟みのような感じになり、居心地の悪さは更に強くなった。
いや、最悪だ。
色んなものが頭の中でぐちゃぐちゃになった。
唐突に葉月が口を開いた。
「樹、昨日はごめんね。」
「あんなこと言ったら......困るよね。
心咲ちゃんのこともあるのに。」
急に謝られたので、どうしたらいいのかわからないまま、
「こっちこそ.....昨日は、悪かったな。」
結局逃げることしかできずにいることを謝った。
しかし、
「いいの。昨日のことは.....忘れて。」
葉月は、岩から立ち上がって微笑みながらそう言っ
た。
「忘れて、って.....」
忘れられるかよ.....。あんなこと。
今だって無理して笑ってることぐらい見ればわかる。
「お前は.....それでいいのか?」
そう聞くと、葉月はぎゅっと拳を握った。
体は僅かに震えているようだった。
「よくないよ!!イヤだよ!!」
今まで聞いたことないくらい大きく、悲痛な叫びだった。
「私あの後帰ってから、一生懸命考えたんだよ!」
「樹のこと諦めようって、がんばって自分に言い聞か
せたのに!!」
「.....そんなふうに言われたら.....諦めきれなくなっち
ゃうじゃん.....」
泣きながら言っていたため、最後の方は消えてしまいそうなくらい弱々しくなっていた。
「葉月.....」
今にも倒れそうな葉月。
だが、葉月は一呼吸置くと涙を拭った。
そして俺をまっすぐ見直した。
「でも今は.....」
「心咲ちゃんと、ちゃんと向き合って。」
はっきりとそう言った。
これは効いたな.....。
今まで葉月に何度も授業態度やら、生活リズムやらで説教されてきたが全て聞き流してきた。
しかし、これは同じように聞き流すことなんてできる筈がない。
そんな幼馴染みに対して俺は、
「葉月.....ありがとな。」
これしか出てこないままだった。
葉月は返事をしなかった。
心咲と向き合う、か.....。
明日、病院行くことを決意した。
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