迷子
心咲との話を一通り話し終えた。
「ねぇ、樹。」
今まで黙って話を聞いていた葉月が口を開いた。
「山で心咲ちゃんに、好きって言われた時、何て返そ
うとしたの?」
「どうなんだろうな.....。嬉しかったけど、だからと
いって心咲のことを恋愛的に好きだったかって言う
と、そうとは言い切れなかったし.....。」
「ずるいなぁ.....」
葉月が小さく呟いた。
ずるい?
「なんかさ.....心咲ちゃんに勝ち逃げされちゃったみ
たいだなぁ...。」
勝ち逃げ?
さっきから何を言ってんだ?
「私は、ずっと前から樹のこと好きだったのに.....そ
れなのに、つい最近会った心咲ちゃんに...先に言わ
れて...」
葉月は途中から泣いていた。
「今言ったら...後から奪おうとしたみたいになっちゃ
うじゃん.....」
あぁ、勝ち逃げってそういうことか。
仕方の無いことだが、確かに心咲が勝ち逃げしたことになるだろうな.....。
仕方の無いことだが、ずるいと思うだろうな.....。
「でも私だって、ずるいよ.....」
「私ね.....心咲ちゃんが樹のこと好きだったの知っ
て、それで、植物状態になったことを.....一瞬良か
ったかもって思っちゃった.....。」
「人が不幸な目に遭ったのに.....それを『良かったかも』なんて.....最低だよね、私.....」
.....。
何も言えない。
何を言ったらいいかわからない。
「ごめん.....もう帰るね.....。」
葉月は立ち上がり、部屋から出ていこうとした。
『私は、ずっと前から樹のこと好きだったんだ
よ...。』
俺は、また返事から逃げることになってしまう。
そんな気がして、葉月を呼び止めた。
なんて返事すればいいかなんて思いついてないくせ
に。
しかし、
「ダメ.....。まだ、返事しないで...。」
葉月に止められた。
「そうか.....、悪かった。ノートありがとな。」
次に会う時にはちゃんと言うことができるだろう
か.....。
どうしたらいい.....。
心咲と葉月を天秤にかけることなんてできない。
はぁ.....。頭が痛くなってきた。
そしてその日はそのまま寝込んでしまった。
ずるいよなぁ.....、俺も。
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