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Fortune ―ファウストの聖杯―(Prototype)  作者: 明智紫苑
本編、アスターティ・フォーチュンの物語
24/32

セレストブルーの風に乗る

 また、桜吹雪の季節を迎え、私は例年通り桜の写真を撮る。桜は散り、緑が輝く夏が来た。

 私は今、自動車教習所に通っている。この教習所には老若男女問わず様々な生徒が通っているが、そこで意外な人物との再会があった。

 シャーウッド・フォレストの主催、スコット・ガルヴァーニだ。

「フォースティンとドライヴしたいからな、免許を取る事にしたんだ」

 そうだ。フォースティンは今、この人と一緒に暮らしている。だから、この人はフォースティンのお姉さんたちには頭が上がらない。

 意外な事に、スコットはまだ運転免許を取得していないのだ。

「今まで教習所に通う余裕がなかったんだ。今はスケジュールに余裕が出来たから、こうしてここに通えるんだよ」

 フォースタスは大学時代に運転免許を得た。下戸の彼は、しばしば酔っ払った友人知人の送り迎えをしていたという。

「スコットか…。あいつ、案外ハンドルを握ると性格が変わるかもな」

 私が家に帰って教習所の話をすると、フォースタスは笑いながらそう言った。

「お前もスコットも免許を取れたら、キャムラン湖にでもキャンプに行こうか? バーベキューでも食ってさ」

「キャンプ? 別荘は借りないの?」

「人数次第では部屋が足りないぞ」

「私、虫刺されが嫌よ」

「ふーん、そうか…。ま、いずれにせよ、スケジュール次第だな」


 私は全てのカリキュラムを終え、試験に合格し、運転免許を取得した。


挿絵(By みてみん)

「セレストブルーの軽自動車か。かわいいな」

 私は新車を買った。初運転の助手席に座ってもらうのはフォースタスだ。後部座席にはメフィストがいる。

「21歳の自分自身への誕生日プレゼントよ」

「良い買い物だな」

 私たちは港に向かう。

 アスタロスは士官学校を卒業し、ゴールディと共にパンジア大陸南部にある基地に勤務している。あのソーニアにある基地だ。中央政府はあの地域を警戒している。そんな物騒なところに派遣されたアスタロスは、今年の春に若くして父親になった。

 ルーとケイティ・ウキタ博士が、人工授精で子供を産んだのだ。

 ケイティ博士の息子はフォースタス・ナオイエ・ウキタ(Faustus Naoie "Nao" Ukita)と名付けられた。この子は超女系家族のウキタ家に数百年ぶりに生まれた男の子だ。この子は私のフォースタスやマツナガ博士との区別のため、遠い祖先に由来するミドルネームを略して「ナオ」という愛称で呼ばれている。

 ルーの娘はヒナ・アスターティ・チャオ(Hina Astarte Chao)と名付けられた。この子の名付け親はマツナガ博士だ。ルーはフォースタスのお姉さんだから、フォースタスにとってもこの子は実の姪である。

 幼いヒナの名前は、マツナガ博士の今は亡き最愛の女性に由来する。

 私は「伯母」になった。



「今日はハロウィンだからな、カボチャの汁粉を作ろう」

 フォースタスは台所でカボチャを切っている。

 本来ならば、カボチャ入りの汁粉は日本の冬至に食べるものだったが、現在の植民惑星アヴァロンではなぜか、一部の日系人がハロウィンにカボチャ入りの汁粉を作って食べる。

 出来上がったのは、カボチャと紅芋を使った白・オレンジ・紫の白玉団子の入った汁粉だった。

「オレンジと紫のハロウィンカラーだ」

「うん、おいしい!」

「うまうま」

 メフィストは、汁粉に入れない団子を食べている。この子はカボチャが好きなのだ。

「そういえば、思い出した」

 フォースタスは言う。

「シャーウッド・フォレストにいる奴から言われたけど、バンドやらないかって」

「え、そうなの?」

「それで、お前がヴォーカルとリーダーやれって、そいつに言われたんだ」

 確かに、舞台版『ファウストの聖杯』でのこの人の歌唱力とギターの演奏力の評判は良かった。

「チャオランド(Chaoland)…名前まで決めていた。どう思う、アスターティ? 暗にお前にも参加してもらいたいみたいなんだよ」


 期間限定のバンド活動については、ミヨンママも乗り気だった。私はソロとしての活動は休止中だが、この企画には挑戦する価値があると思った。シャーウッド・フォレストのメンバーが三人、ギター、ベース、ドラムス。フォースタスと私がヴォーカルだ。

 最初で最後のアルバムタイトルは「Land of Confusion(混迷の地)」。バンド名にある「Chao(趙)」はフォースタスの苗字だが、「chaos(混沌)」にも引っ掛けている。このバンド活動には、反戦・反差別・反ファシズムなどの意味が込められている。

 352年の私の目ぼしい音楽活動は、このイレギュラーなものだけであり、あとはCMソングや他の歌手への楽曲提供だけだった。テレビなどのメディアへの露出もほとんどない。私は芸能界の「主流派」から距離を置いていたし、数年前の「天才美少女ミュージシャン」などという大仰な売り込みなど遠い過去に過ぎなくなった。

 あとは、無事に大学を卒業出来るように頑張るだけだ。


「今年の桜も良い桜」


 私は今年もセントラルパークでシャッターを切る。

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